資料4

開発課題名「高分解能スピン偏極走査電子顕微鏡」

開発実施期間 平成16年10月〜平成21年9月

チームリーダー :  小池 和幸【北海道大学 大学院理学研究院 教授】
中核機関 :  北海道大学大学院理学研究院
参画機関 :  日本電子(株)
T.開発の概要
 ハードディスクをはじめとする磁気デバイスや磁性材料の開発は急速に進み、現状の評価装置では分解能を含め、対応が困難となりつつある。そこで、磁気分解能3nmを有し、ナノ領域の組成分析、結晶構造解析機能を複合化したスピン偏極走査電子顕微鏡を新たに開発して、磁気構造解析、その組成・結晶構造との関係を解明し、磁性に関する現象の解明やデバイス性能向上の研究に貢献する。
U.事後評価における評価項目
(1)磁化分布観察用スピン偏極走査電子顕微鏡(スピンSEM)の高分解能化
 スピン検出器の原理に遡ってプローブ電流値等の基礎データを取得し、新たな光学系をも組み込むことで高効率スピン検出器を開発するとともに、スピンSEMならではの大きいワーキングディスタンスに対応可能な収差補正器も開発した。これらを搭載したスピンSEMを開発し、鉄多結晶の磁区観察像から室温における空間分解能 3 nm(開発目標値)を達成した。また、これまで世界最高の分解能(5 nm)を誇っていた産総研のスピンSEMでの磁区像と比較し分解能の優位性を確認した。
(2)ナノ領域の組成分析、結晶構造解析機能を複合化
 本装置ではスピン検出器の手前に軌道と平行な成分 を90°回転して電子軌道に垂直な平面内成分とするスピン回転器を導入した。このスピン回転器により、通過電子のロスを皆無とし、磁化3成分像の同時測定を可能とした。また、試料近傍の狭い空間にオージェ電子取り込み電極が配置できる、球面エネルギアナライザーを新規開発し、これを組み込むことで磁化分布観察場所の組成分析を可能とした。さらに、本開発装置では1次電子線の入射方向が試料面法線に対して60°〜70°とSEMとの相性がよい、電子後方散乱回折装置を組み込み、磁化分布観察場所の結晶構造解析を可能とした。
(3)低温試料への適用
 液体He による冷却とヒーターによる加熱機能およびへき開機能を兼ね備えた低温試料ステージを開発した。He は、He 流通パイプを通って試料ホルダ下部を直接冷却するが、パイプは試料のx, y, z 移動や回転の妨げにならないよう、試料ステージ全体を5重に取り巻くスパイラル構造として柔軟性をもたせた。温度計からの温度をヒーターにフィードバックすることによって、±1 Kの精度で 10〜400 K間の任意の温度設定を可能とした。
V.評価
高分解能スピン偏極走査電子顕微鏡の開発は順調に達成され、空間分解能3nmおよび ナノ領域の組成、結晶構造機能の複合解析を可能にした。更に試料温度は±1 Kの精度で 10〜400 K間の任意の温度設定を可能にし、目標を達成した。試料の組成分析、結晶構造解析機能を併せ持つオンリーワンの電子顕微鏡として北海道大学内のオープンファシリティに設置され、外部に向けて有効活用されることとなっており、実用化に向けたユーザー拡大の取組として高く評価できる。
本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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