資料4

開発課題名「走査エレクトロスプレーによる分子イメージング」

開発実施期間 平成18年10月〜平成22年3月

チームリーダー :  平岡 賢三【山梨大学クリーンエネルギー研究センター 特任教授】
中核機関 :  山梨大学クリーンエネルギー研究センター
参画機関 :  山梨大学大学院医学工学総合研究部
(独)理化学研究所
アリオス株式会社
T.開発の概要
 大気圧下、前処理なしで、生体試料を、実時間その場観察できる、探針エレクトロスプレー(probe electrospray ionization: PESI)型質量分析技術を開発する。これにより分子イメージング技術の新しい基盤を構築するとともに、これを実試料のイメージング技術に応用するための、各種要素技術の開発と、そのライフサイエンスへの展開を目指した医工融合研究開発に基づく応用展開技術の開発を目指す。
U.事後評価における評価項目
(1)直動式探針駆動システムの開発と探針エレクトロスプレーの実証
 リニアアクチュエーターを用いた直動式探針駆動システムを開発した。探針1回の操作で強いシグナル強度のマススペクトルが測定されることを確認した。試料に対する探針の侵入深さを一定、任意深さに制御できるシステムを構築した。
(2)エレクトロスプレー法の検証と質量分析装置としての要素技術の確立
 探針エレクトロスプレーにおける帯電液滴発生機構の検討のため、紫外(532nm、Nd:YAG)・赤外(10.6μm)レーザー光照射システムを構築した。赤外レーザー照射においては、帯電液滴乾燥によるイオン強度の増強を確認。紫外パルスレーザーを用いて、帯電液滴発生メカニズムを解析した。これにより探針エレクトロスプレーが大気圧下でのエレクトロスプレーの極限的発生条件を実現していることを確認した。また、水分を含んだ生体試料を凍結し、超高真空へ搬送する機構等の要素技術を組み込み、極微量分子捕獲分析機構の質量分析基盤技術を確立した。これらを組み込んだ装置で質量分析を実施し、空間分解能10μmを達成した。
(3)ライフサイエンスへの応用展開技術の開発
 本装置により脳脊髄液、尿、唾液、汗、血液、血漿、血清、がん試料等を対象に測定した。生体試料に含まれる150mM程度の塩の影響なく、生体試料成分が容易に検出されることを確認した。大腸がんについて、正常組織とがん病巣部位に際立ったマススペクトルの相違を確認した。医用現場におけるその場・迅速測定を想定し、生きたマウスの肝臓を直接測定し、脂肪肝の判定が可能なことを検証した。加えて血中薬物(てんかん薬、バルプロ酸など)の定量分析を行い、ELISA法とのよい一致を得た。
V.評価
エレクトロスプレー法を利用し、極微量試料を対象とした質量分析装置を開発し、多くの興味あるデータを得た。開発は順調に進捗し、本装置によって直径約数10nmの探針に付着した数pL以下の試料でも質量分析が可能であり、試料の二次元質量マッピングが可能であることも示した。また、水分を含む生体試料についても測定を行い、医療現場において生体試料片をその場測定できる可能性を示した。今後、イオン化の現象を明確にしてさらなるデータを取得・実証し、医学と工学を融合した成果である有用な質量分析装置として実用化されることを期待したい。
本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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