資料4

開発課題名「ピレン誘導体化による超微量糖ペプチドMALDI−MS

(機器開発プログラム:一般領域)

開発実施期間 平成19年10月〜平成22年3月

チームリーダー :  天野 純子【(財)野口研究所 糖鎖生物学研究室長】
中核機関 :  (財)野口研究所
参画機関 :  (株)島津製作所
T.開発の概要
 病理切片の生体分子や遊離した糖鎖を同定するMS装置の開発が行われている。当該チームでは遊離糖鎖をピレン標識することで100倍高いシグナル強度が得られる独自の技術を開発している。一方、診断・創薬には、どのタンパク質のどこに結合した糖鎖かを決定することが必須であるが、糖ペプチドのイオン化効率が低く、測定できない。そのため、血清中の超微量タンパク質解析のために測定プレート上で行う前処理方法を開発する。本方法により、夾雑タンパク質存在下、目的糖タンパク質の高感度MSを実現する。
U.事後評価における評価項目
(1)イオン化向上
 オンプレートピレン誘導体化を行うことで、合成標準糖ペプチドNA2-IRNKS 10 fmol でMS/MS (MS2)、50 fmol でさらにMS3が可能となった。ペプチド情報および糖鎖情報の両者が確実に得られ、当初の目標は達成された。また、過剰の残存標識試薬のみを特異的に洗い流す技術を開発した。これにより、残存試薬が原因でマススペクトルのノイズレベルが上がってしまう問題は解消され、s/nが向上した。 また、夾雑ペプチドとしてACTHやアルブミンのトリプシン消化ペプチドが大量に存在する条件下であっても、糖ペプチドの検出が可能となった。 また、前立腺特異抗原PSAをサーモライシン消化したペプチドと糖ペプチドの混合物1ng分(30 fmol相当)を、精製処理を行うことなく直接プレートに載置し、オンプレートピレン誘導体化を行うことで、糖ペプチドの検出が可能となった。シアル酸結合糖ペプチドを誘導体化することにより、シアル酸が遊離せずにMS2やMS3が可能になり、結合異性体の識別が可能になった。
(2)局在化・高密度化法開発
 ドーナツプレートを用いることで、高いシグナルが得られるスイートスポットをドーナツの内縁部分に局在させることができた。さらに、プレートを垂直に立てて乾燥させることで、スイートスポットをさらに下部へ集約させることができた。
(3)分離・分画法開発
 配置する官能基と形状を検討した結果、C18の領域をドーナツ状に配置したプレートを試作した。また、表面をシリコン表面に変更することで、ドーナツ内部の濡れ性が向上し、マトリックスの形状コントロールの再現性、及びS/Nが著しく向上した。
(4)MSシグナル解析システム開発
 DHBAマトリックス結晶の構造を様々な分光学的測定法などで分析し解析した結果、プレート上の1つの測定試料中でも、ラマンイメージングによって2種類の結晶多形に分類されることがわかった。さらに、そのうちの片方がスイートスポットと相関するという知見を得た。これは、だれでも簡便にスイートスポットの判別が可能となる技術となった。
V.評価
血清中の超微量タンパク質解析のための測定プレート上で行う前処理方法を当初の計画通り開発し、全ての目標値を達成した。
また、さらに糖ペプチドがMALDIイオン化のマトリックスの結晶化に際し、2種類の結晶多形を示し、その1種がイオン化に有利に働く現象を発見した。この現象は、MALDIイオン化の今後の発展に貢献するものと考えられる。
本開発は当初の開発目標を達成し、本事業の趣旨に相応しい成果が得られたと評価する[A]。


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