資料4

開発課題名「到来方向による高感度ガンマ線3Dカメラの開発」

(機器開発プログラム:領域特定型 【開発領域】実験小動物の生体内の代謝の個体レベルでの無・低侵襲解析、可視化)

開発実施期間 平成16年10月〜平成21年3月

チームリーダー :  谷森 達 【京都大学 大学院理学研究科 教授】
中核機関 :  京都大学
参画機関 :  (株)日立メディコ、京都大学(医・薬)、慶應義塾大学
T.開発の概要
 ガンマ線カメラは、体内代謝を直接観測できる有力な手法であるが、ガンマ線の到来方向の高精度測定が難しく、高エネルギー核種の利用や高い空間分解能など分子イメージングにおける技術的制限があった。本開発チームでは、世界で初めて、コンプトン散乱によるガンマ線3次元カメラ装置を開発し、単ガンマ線毎に到来方向とエネルギーを決定することにより、高画質な3次元分子イメージ像を得ると共に、複数の放射性核種の同時測定が可能な新規手法を開発した。この手法をもとに30cm角の大型ガンマ線検出器を持つプロトタイプを製作すると同時に、実際に多くの実験動物で撮像実験を行い、臓器内でのガンマ線トレーサの移動・代謝など動的観測に成功し、医療分野における分子イメージング法に新しい可能性を示した。
U.事後評価における評価項目
(1)ガンマ線検出用コンプトン・カメラ、プロトタイプ機の開発
 コンプトン散乱によるガンマ線カメラの開発で最も重要な技術は、反跳電子の飛跡検出用マイクロ・ピクセル・チェンバー(PIC)、散乱ガンマ線検出用のピクセル・シンチレーターの要素開発と、これらを高性能に組み込んだ電子飛跡検出型コンプトン・カメラ(ETCC)の開発である。本開発プログラムでは、まず、小動物用装置として10 cm角のETCCプロトタイプ機を製作し、ガンマ線の飛来方向検出に関して高い角度分解能(空間分解能:約8mm)と、実用に十分なエネルギー分解能をもつ装置の開発に成功した。この10cm角検出器では、PET(陽電子放射断層撮影)と同様の、また、300keV以上のエネルギー核種においては、SPECT(単一光子放射断層撮影)以上の画像分解能を達成した。さらに、ヒト全身の撮像を目指し、大型の30cm角ETCCプロタイプ機を開発し、1m2の大面積観測が安定に測定できることが確認された。
また、サブリーダー、(株)日立メディコにより、動物実験用マルチヘッドETCCを開発し、3次元断層画像取得を実現した。
(2)臨床実験のための画像解析法の開発と動物実験
 上記コンプトン・カメラによる画像解析に必要なソフトウェアを開発・整備し、本計測システムを実際に多くの小型・中型動物実験に応用し、高エネルギー核種による撮像実験、および複数核種の同時観測などを実施し、本システムの有効性・有用性を示した。 まず、ETCCカメラの検出可能エネルギー範囲が160〜1500keVと広いことを利用し、18F、131I、198Au、59Fe始め、多くの核種で実験動物(マウス、ラット、ウサギ)や植物における分子イメージング実験を実施した。 マウス実験では18F-FDG の心臓から膀胱への移動過程のモニタリングや、131I-MIBGや、さらに高エネルギー核種65Zn-ポルフィリン(微量で十分)の腫瘍への集積を観測するなど、本手法の臨床診断、医薬開発における有用性・重要性が示された。さらに、異なる種類の認証薬をマウスに投与し、それら複数分子マーカーの臓器集積を同時観察することに成功し、本システムが腫瘍識別や薬剤効果の検証等にも有用であることを示した。
V.評価
 本プログラムで開発された、コンプトン散乱による新規分子イメージング法は、高エネルギー領域の核種の使用を可能とし、格段に多様な標識化合物種を利用できること、さらに、複数核種の同時イメージング観測が可能であることが実証されたことにより、分子イメージングの分野に画期的な進展をもたらすものと考えられる。  使用する核種および標識化合物種の拡大により、最適プローブ分子の選択肢が格段に広がる効果は利用上のメリットが著しく、さらに、複数プローブ分子の同時観察によって、複数薬剤の相互作用や薬剤の分解過程などを直接観測できる手法としても非常に有望である。
 本技術の重要性は、比較的安価で大面積化が可能な到来方向検出可能なガンマ線検出器であり、今後の発展として、高感度、低雑音の高画質イメージングが期待でき、既存のPET、SPECTに代表される分子イメージング法の問題点、放射性核種の制限や空間分解能や計測ノイズの問題など、を解決できる可能性が高いものと評価できる。
 今後、本システムは分子イメージング測定機器の中心となることが期待され、本成果を日本発の技術として世界に発信していくために、本システムの特長を活かすことの出来る新規分子プローブ開発を組織的に進めると共に、事業化の方向性・戦略を明確にし、早期に企業との連携を図るべきと考えられる。
 本開発では、当初設定した性能の数値目標(空間分解能、データ収集速度および必要線量など)については、なお達成されたとは言えないが、到達可能な技術的見透しを得ており、上述した通り、多くの動物実験において説得力のあるデモンストレーションに成功し、分子イメージング分野に極めて有望な新規の手法を開発した点で、特筆すべき成果が得られたと評価する[S]。


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