チームリーダー : | 福山 博之 【東北大学 多元物質科学研究所 教授】 |
中核機関 : | 東北大学 多元物質科学研究所 |
参画機関 : | アルバック理工株式会社 慶應義塾大学 先導研究センター 首都大学東京 システムデザイン研究科 学習院大学 理学部 東北大学 工学部 |
- T.開発の概要
- 半導体の結晶製造や超耐熱合金の精密鋳造あるいは精密溶接など高温融体が関連する高付加価値製造プロセスにとって数値シミュレーションは必要不可欠なツールであり、その基盤を支える融体の熱物性値データベースの充実が求められている。本課題では、電磁浮遊法に静磁場を重畳することによって液滴の振動と表面の対流を抑制し、高温融体の熱伝導率、比熱、放射率、密度、表面張力を高精度に測定するシステムを開発することを目的とする。
- U.中間評価における評価項目
- (1)熱物性計測システムの開発
- 既存の電磁浮遊装置を用いた予備実験により、直径7mmのSi,Ni,Fe等の浮遊に成功し、4テスラ以上の高磁場印加により液滴振動や対流が抑制されることを確認した。予備実験に基づいて本開発機器の詳細設計図が完成し、製作中である。
- (2)レーザ周期加熱法の確立
- 放射温度計と周期加熱レーザの波長を最適化することにより温度、比熱、熱伝導率の測定精度を大幅に向上させることに成功した。
- (3)垂直分光放射率測定の確立
- 赤外線加熱炉を用いて溶融金属の垂直分光放射率測定を開始した。加熱炉から出る迷光を遮断して、測定を行えるようになった。より精度の高い測定を目指すために、試料の温度測定方法、光学系のアライメント調整機構の改良を行っている。
- (4)表面張力測定法の確立
- 精密マスフローコントローラと、ジルコニア式酸素センサの設置を行い、表面張力値に大きく影響を及ぼす雰囲気酸素分圧の制御および測定を可能とした。
- 液滴の振動周波数解析プログラムに、偏角挙動解析を取り入れた。また,世界で始めてm=+2と-2振動の位相差による見た目の回転を発見し、振動周波数解析の精度を大きく向上した。
- (5)密度計測法の確立
- バックライト光学系システムによる液滴形状計測システムを開発した。固体試料を用いて調整中である。
- (6)電磁浮遊液滴内対流の数値シミュレーション
- 電磁流体力学的(MHD)対流の直接数値シミュレーション(DNS)コードと、熱伝導率の測定値に及ぼす静磁場強度の影響を検討するためのDNSコードを開発した。 シミュレーションにより溶融シリコンに関しては4T以上の静磁場を印加することにより熱伝導率の妥当な値が得られることと、磁場を印加しない場合は対流が3次元的であるが、静磁場を印加すると対流強度は減衰し、軸対称に変化することを明らかにした。
- V.評価
- 電磁浮遊法に静磁場を重畳することによって液滴の振動と表面の対流を抑制し、高温融体の熱伝導率、比熱、放射率、密度、表面張力を高精度に測定する本計測システムは、半導体の結晶製造や超耐熱合金の精密鋳造あるいは精密溶接など高度ものづくりを支援する有力なツールとなると期待できる。
- 開発は順調に進行しており、当初目標に掲げた高精度な超高温熱物性計測システムは達成できると思われる。今後は、本システムの完成に向けて、密度測定・放射率測定のさらなる高精度化と開発した計測システムの有用性の評価に留意しつつ、着実に推進すべきである。[A]