資料4

開発課題名「高精度高安定pH計測用イオン液体塩橋の開発」

(要素技術プログラム)

チームリーダー :  垣内 隆【京都大学 大学院工学研究科 教授】
中核機関 :  京都大学
参画機関 :  株式会社堀場製作所
T.開発の概要
 本技術は新たな疎水性イオン液体を塩橋に用いることにより高精度高安定なpHメーターを実現するものである。従来のKClに替わる、有機系イオンコンプレックス化合物からなる疎水性イオン液体を開発し、低揮発性かつ優れた電気化学的特性を持つイオン液体の特性を活かし、メンテナンスフリーで安定したpH精密計測を可能とする技術を開発し、更に電極の微小化によるマイクロセンシングデバイスに道を開くことを目的とする。
U.開発項目
(1)イオンの疎水性尺度の確立と、カチオンおよびアニオンの合成
 イオン液体塩橋の作製に必要な、中程度の疎水性を持つカチオンとアニオンについて、それらの疎水性の実際的な共通尺度として、水−ニトロベンゼン2相系の標準イオン移動電位を用いることができることを実証し、イオン液体設計の指針となる電位表を作成した。また、新規のアンモニウム系およびフォスフォニウム形カチオンと、新規ではないが入手できないカチオンおよびアニオンを合成した。
(2)イオン液体塩橋のために最適化されたイオン液体の合成と物性測定
 中程度に疎水性のカチオンとアニオンを組み合わせて、50種類以上の塩を合成し、その内融点が室温以下のもの10種類のイオン液体の物性を調べたところ、ピロリジニウムおよびフォスフォニウムが、イオン液体塩橋としてC8mimC1C1N のアルカリ側での不安定性を克服し、かつ界面電位、溶解度、安定性等の点から有用であることを見出した。
(3)イオン液体塩橋の参照電極およびpH複合電極への組込
 ゲル化条件として共重合体を用いる方法を選択し、ポリマーの濃度、成膜条件を検討し最適化したゲル化イオン液体を、2つの方法で参照電極および複合型ガラス電極に組み込む方法を考案した。
(4)実用のために設定した条件における塩橋の電位変動測定
 イオン液体塩橋の特性の全体像を把握でき、目的別のイオン液体塩橋設計の指針を得た。これに基づき、新規イオン液体についてより良好な電位変動の結果を得た。
(5)イオン液体塩橋の小型化
 先端の内径150ミクロンのガラス毛細管中にC8mimC1C1Nを満たし、銀・塩化銀細線を挿入して参照電極として用いることにより、3電極式でFe3+/Fe2+の酸化還元を測定し、ボルタモグラムを再現性良く測定できることを確認し、イオン液体型参照電極の小型化を達成した。
V.評価
 イオン液体を用いる新しいpH計測技術の確立は、従来のKCl型塩橋を利用したpH測定における、KCl 漏出による試料の汚染および参照電極の劣化等の問題点を回避でき、イオン強度の低い試料の正確な測定を可能にし、さらにメンテナンスフリーで安定したかつ精度の高いpH計測を可能にするものと期待される。
 要素技術の開発は順調に達成され、イオン液体塩橋の最適化及び参照電極、pH複合電極への組込等について当初の目標が達成された。事業化についても現実的な見通しが立っており、日本発の製品として国際的に認められるpH測定装置の実用化が望める点が高く評価できる。今後は、塩橋部分のゲル化の安定性等のさらなる向上に努める等、引き続き開発成果の実用化へ向けた取り組みが期待される。
 本開発は当初の開発目標を達成し、それを上回る特筆すべき成果が得られたと評価する。S


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