事業成果

2019年度最新成果一覧

  • つなぎ替えで細胞の集団移動がスムーズに
    細胞間接着の伸長を促進するたんぱく質を発見

    戦略的創造研究推進事業CREST

    JSTnews 2019年10月号掲載

    人間の体は、外界から体内を守る上皮組織によって生命の維持に必要なさまざまな機能や反応がもたらされています。体が作られる過程では、上皮組織内の上皮細胞が同一方向に集団移動することでシート状の上皮組織を折りたたみ、伸長、陥入、移動などの変形を行い、器官を作ります。しかし細胞同士の接着を保ったまま、どのように上皮細胞が同一方向に動くのか、その仕組みはわかっていませんでした。

    東北大学生命科学研究科の倉永英里奈教授らは、細胞同士のつなぎ替えの過程を、生きた細胞を生きたまま観察できる手法を用いて可視化し、連続してスムーズに集団移動する仕組みを解明しました。

    細胞のつなぎ替えはまず、細胞同士の接着面が収縮することから始まります。接着面には筋肉の収縮に必須なアクトミオシンが局在していて、接着面が消失するまで収縮します。消失すると、新たな細胞接着面が元の接着面とは垂直方向に伸張します。これまでは、接着面が消失するとアクトミオシンも消失すると思われていましたが、今回詳細に観察したところ、アクトミオシンは消失することなく新しい細胞接着面を作る際の接合点で再利用されていることを発見しました。さらに、その接合点でアクトミオシンを再利用するためには、サイドキックという膜たんぱく質が必要であることがわかりました。つなぎ替えで新たに生じた細胞接合面に集積し、アクトミオシンをつなぎ止め、まるでジッパーのように細胞接合点をスムーズに移動することで、細胞接着面の伸長を誘導していることを明らかにしました。上皮組織の形態を形成する細胞機能の解明により、創傷治癒など上皮修復の研究に進展が見込まれます。

    実際に得られた細胞を生きたまま観察した動画(下)に基づいた、細胞接着面のつなぎ替えの模式図(上)。アクトミオシン(茶色)の濃度が高い細胞間接着が短くなると、細胞間接着が消失し、4個の細胞の接合点に集積する(青色矢印)。その後新しい細胞間接着が伸長し、3個の細胞の接合点にアクトミオシンが集積する(紫色矢印)。

  • 緑は進め 赤は止まれ
    光で微生物の代謝を制御 物質生産の効率化へ

    未来社会創造事業探索加速型

    JSTnews 2019年9月号掲載

    燃料や生分解性プラスチックの原料となるバイオマスは、持続可能な社会を実現する資源として注目されています。大腸菌などの微生物を工業に利用するバイオプロセスでは、原料の糖を細胞が取り込み、多数の代謝経路を経て目的の物質に変換します。広く実用化するには、代謝の流れを最適化して生産速度を上げることが必要です。

    従来、代謝の流れを調整するには培養液に薬剤を加えて遺伝子の発現を誘導していました。一度加えた薬剤は培養液から取り除くことが難しいため、これではオン-オフを切り替えられません。

    大阪大学大学院情報科学研究科の戸谷吉博准教授らは、光合成生物などが光で遺伝子の発現を制御する仕組みに着目し、光合成生物が持つ分子装置の遺伝子を大腸菌に導入して、光を当てて繰り返し代謝をオン-オフできる制御技術を開発しました。

    大腸菌に光を照射して、酵素を発現する遺伝子に働きかけます。この分子装置では、緑色の光は標的の遺伝子の発現を促進し、赤色の光は抑制します。開発した大腸菌株では、緑の光では解糖系を、赤い光ではペントースリン酸経路を主に使って糖を分解していることを明らかにし、光で代謝経路を制御することに成功しました。

    今後、有用物質を高効率に生産する手法の確立へと、期待が高まります。

    グルコース6リン酸(G6P)から分岐する2つの代謝経路に着目し、G6Pイソメラーゼ(PGI)の遺伝子発現量を光で制御するスイッチを開発した。矢印の太さと数字は、グルコースが細胞に取り込まれる速度を100とした時の各代謝経路の反応速度を示している。

  • 金属にも絶縁体にもなるマグネタイトをナノサイズに
    特性の解明やナノエレクトロニクス応用へ期待

    戦略的創造研究推進事業さきがけ

    JSTnews 2019年9月号掲載

    マグネタイト(Fe3O4)は天然の磁石にもなる鉱物ですが、温度などによって電気の通りやすさが100倍以上変わり、金属にも絶縁体にもなる相転移特性を持っています。その特殊な結晶構造は早くから注目され、電子デバイスに使うための微細化も研究されてきました。しかしマグネタイトには結晶中で原子の規則的な並びがずれているといった欠陥があるため、ナノメートルサイズにするとその影響が大きくなり相転移特性が失われるというのが定説でした。

    大阪大学産業科学研究所の服部梓准教授は、物質をナノサイズで作製して新たに機能を発現させる研究をしています。酸化マグネシウムでできた微細なテンプレートを基板にマグネタイト結晶を成長させ、ナノレベルの細い線にする技術を開発し、10ナノメートルの微小な隙間を持つナノギャップ電極を作る技術と組み合わせました。これにより、欠陥の少ない結晶の領域を選ぶことができ、優れた相転移特性を保ったまま、3次元方向全てがわずか10ナノメートルというマグネタイトのナノ構造体を作ることに成功しました。

    マグネタイトをナノサイズにできたことで、相転移特性の鍵といわれる、電荷の秩序状態の機構解明に迫れると期待されています。また、開発したナノ構造作製技術は他の物質にも適用でき、ナノエレクトロニクスへの幅広い応用が見込まれます。

    独自のナノ構造作製技術(左)とナノギャップ電極(右上)により、
    寸法10ナノメートルでのマグネタイトの相転移を初めて観察した(右下)。

  • 光を用いた量子コンピューターの心臓部を開発
    1つの回路を繰り返し使用し多くの計算処理が可能に

    戦略的創造研究推進事業さきがけ

    JSTnews 2019年8月号掲載

    量子力学の原理で計算する量子コンピューターは、特定の計算をスーパーコンピューターよりも格段に短い時間で実行でき、世界各国で研究開発が進められています。中でも光を使う量子コンピューターは大気中で動作し、巨大な冷却装置なども不要なため、実用化に優れています。

    しかし従来の手法では、実行したい計算の種類ごとに異なる回路が必要な上、計算の規模が大きくなるほど装置も大型化してしまう問題があり、実用レベルで計算できるほどの大規模化は難しいと考えられてきました。

    東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎特任講師と古澤明教授らは、一瞬だけ光るパルス状の光を操作し、大規模な計算を効率良く行える回路を構築しました。この回路は2017年に発表した「究極の大規模光量子コンピューター」方式の心臓部となるものです。

    1つの回路を繰り返し使いながら次々と入ってくる光パルスの入射するタイミングに合わせて、ミラーの透過率や位相シフターの設定を高速に切り替える制御方法を開発しました。この方法では、回路の規模と構造を変えずに機能を切り替えるだけで、さまざまな量子もつれを効率良く合成できます。実際に、1000ステップを超えるさまざまな種類の計算が実行できるようになり、究極の大規模光量子コンピューターの実現に大きく前進しました。

    究極の大規模光量子コンピューター方式。オレンジの点線で示した部分が今回構築した心臓部の回路。情報を乗せた多数の光パルスは、一列に並んでループを周回する。1つの回路を機能を変えながら繰り返し利用し、何ステップも計算を行う。計算の過程で、次々と来る光パルス同士を順次適切な量子もつれ状態にしている。

  • 素材に微細な傷を付けて色や形を表現
    インクを使わず超高精細に印刷

    戦略的創造研究推進事業さきがけ

    JSTnews 2019年8月号掲載

    コガネムシの表面やクジャクの羽などに見られる鮮やかな色は「構造色」と呼ばれ、色素ではなく特殊な多層構造が光を反射して発色しています。

    京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点のイーサン・シバニア教授らはこの仕組みに着目しました。素材の表面に人工的に微細な発色構造を作り出し、インクを使わずに色を付ける方法を開発しました。

    アクリル樹脂やポリカーボネートといった安価な工業用ポリマーのシートに光を照射し、酢酸などの溶液に浸すことで人工的に小さな亀裂を生じさせ、構造色と同じ多層構造を作ることに成功しました。光の波長を調整すれば、青、赤、黄など、表現したい全ての可視光を発色できます。この技術によって、通常の印刷と比べ40倍の解像度を達成し、指先よりも小さく透明な素材上に高精細な印刷を可能にしました。また、インクを使わないので色褪せず、環境への負担も少なくなります。

    以前から構造色を使った印刷技術はありましたが、高価な材料が必要でした。開発した方法は、安価な素材を使い、また、光の照射にも特別な装置が必要ないため、さまざまな用途が見込めます。

    インクの使用量の削減の他、紙幣や身分証明書などの偽造防止技術への活用などに広く普及させることを目指します。

  • 世界初、常温常圧で窒素ガスと水からアンモニアを合成
    次世代のエネルギー媒体として期待が高まる

    戦略的創造研究推進事業CREST

    JSTnews 2019年7月号掲載

    アンモニアは窒素肥料や工業製品などの原材料として幅広く利用されています。また、温室効果ガスである二酸化炭素を発生させずにエネルギーを取り出せ、貯蔵や運搬も容易なことから、次世代のエネルギー媒体としても期待されています。

    現在、アンモニアはハーバー・ボッシュ法で合成されていますが、膨大な化石燃料を使い、二酸化炭素を排出しています。一方自然界では、マメ科植物に共生する根粒菌などが持つニトロゲナーゼという酵素が、常温常圧で水を水素源として窒素ガスからアンモニアを合成しています。東京大学の西林仁昭教授らは、この仕組みをまねたアンモニア合成を目指しました。

    ニトロゲナーゼの活性中心を模倣した金属触媒として、研究グループはモリブデン錯体を開発してきました。さらに、還元剤としてヨウ化サマリウムを使うと、ニトロゲナーゼに匹敵する速さで常温常圧でのアンモニア生成が進むことを発見しました。ヨウ化サマリウムと水やアルコールとの組み合わせは、炭素-酸素二重結合(C=O)の還元試薬として古くから有機合成で使われてきたものです。これを窒素-窒素三重結合(N≡N)の還元に用いることを思い付きました。

    サマリウムは希土類(レアアース)の1つで比較的安価ですが、工業化に際しては再利用する必要があります。研究グループは企業と共同で、実用化に向けた研究開発に取り組んでいます。

    このアンモニア合成法が実用化されれば、環境・エネルギー問題の解決に大きく寄与すると期待されます。

    窒素ガスと水からアンモニアを合成

  • 健診データをアプリで確認 自分に最適な健康アドバイスも受けられる

    研究成果展開事業 リサーチコンプレックス推進プログラム

    JSTnews 2019年5月号掲載

    大学、研究機関、企業が集積した地域で研究開発を基礎にイノベーションを継続的に興す仕組みを作ることを目的として、JSTはリサーチコンプレックス推進プログラムを実施しています。

    健康“生き活き”羅針盤リサーチコンプレックス(中核機関:理化学研究所)は、神戸医療産業都市を実施拠点とし、ヘルスケアのエコシステムをつくる取り組みを進め、神戸市と共に市民パーソナルヘルスレコードシステム「マイ・コンディション・コウベ(MY CONDITION KOBE)」を開発しました。

    このシステムは、医療保険者ごとに分散している特定健康診断データをマイカルテとして統合し、スマートフォン向けアプリをダウンロードしたユーザーが毎日の食事や運動など「からだ」や「くらし」の情報を入力することで自分の健康を管理できるシステムです。利用者は自身で入力しなくても健診データをアプリ上で確認でき、また食事や運動情報の登録、健康目標の達成、健康診断の受診などによって特典を受けられる健康ポイントが貯められます。登録データを基に個人に最適な健康アドバイスも受けられ、健康な生活を送ることができます。

    将来、集積したデータを匿名加工して解析し、政策立案、学術研究、ヘルスケア周辺産業の活性化などに利用することも想定しています。神戸市は、住民登録者を対象に今年4月からシステムの運用を開始し、健康寿命の延伸、社会経済的要因による健康格差の縮小を目指して取り組んでいます。

    アプリケーションの健康データのページ
    左は健診結果の分析例、右は健診データの表示例

  • 高出入力と高エネルギー密度を両立 ハイブリッドキャパシターを開発

    産学共同実用化開発事業 NexTEP

    JSTnews 2019年5月号掲載

    自動車からの二酸化炭素排出量削減のため、車が減速する時に無駄にしている運動エネルギーを電気として回収する「減速エネルギー回生システム」の重要性が増しており、このシステムに適した蓄電デバイスが求められています。

    エネルギー回生システム用の蓄電デバイスには、急速充電と急速放電が可能であること、体積当たりのエネルギー密度が高いこと、長寿命であること、安全性が高いことなどが求められます。従来の蓄電デバイスには、二次電池(充電式の電池)や電気二重層キャパシターがありますが、それぞれ課題を抱えていました。

    日本ケミコンは、東京農工大学大学院工学研究院の直井勝彦教授らの研究成果を実用化し、2つの電極のうち、陽極に電気二重層キャパシターの原理、負極に酸化還元反応を利用した、ハイブリッドキャパシターを開発しました。負極にはキャパシター向けに調整したチタン酸リチウムを用いており、急速な充放電が可能な電気二重層キャパシターの利点を生かしました。体積当たりのエネルギー密度は従来品の電気二重層キャパシターに比べて1.91倍、かつ、10万回の充放電を繰り返した後でも、容量劣化は10パーセント以内と小さく、長期にわたり特性を維持できることを確認しました。

    ハイブリッドキャパシターを組み込んだ減速エネルギー回生システムの開発により、自動車の燃費改善や二酸化炭素排出抑制に貢献できると期待されます。

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    開発したハイブリッドキャパシターセル

  • 温室効果ガスを有用化学原料に変える触媒を開発 地球温暖化抑止への突破口に

    戦略的創造研究推進事業CREST

    JSTnews 2019年4月号掲載

    一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合ガスは、ガソリンやアルコールなどさまざまな化学製品の原料として利用されています。この混合ガスを、天然ガスの主成分であり、また代表的な温室効果ガスとしても知られているメタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)から触媒を利用して合成する「メタンドライリフォーミング(DRM)」が、天然ガスの高効率利用と地球温暖化抑止の観点から注目されています。

    しかし、従来の触媒は、反応の副産物として大量のすすが発生し、生産効率の低下や装置の劣化を引き起こします。そのためDRMは、すすが発生しにくい800度以上の高温領域で行われてきましたが、多くの燃焼エネルギーを必要とすることから、工業規模の実用化には至っていませんでした。

    物質・材料研究機構の阿部英樹主席研究員らは、繊維状の金属ニッケル(Ni)と酸化イットリウム(Y2O3)が組みひものように互いに絡み合う特殊な構造を備えた「根留触媒」を開発しました。根留触媒の利用によって、従来の触媒では困難とされていた低温領域(500度未満)で、1000時間以上、すすの発生を抑えながら安定してDRMを促進することに成功しました。

    シェールガスなど非在来型化石燃料の市場拡大や新興国の経済成長に伴い、温室効果ガスの排出量は増え続けています。根留触媒は、地球温暖化対策に貢献するものと期待されます。

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    メタンドライリフォーミングの現在(左)とこの研究により実現される未来(右)

    • ラットの体内でマウス由来の腎臓を作製 再生医療への応用に期待

      戦略的創造研究推進事業ERATO

      JSTnews 2019年4月号掲載

      臓器移植のドナーが見つかるまでには何年も待ち続けなければなりません。問題解決の糸口となり得るのが、移植用の臓器を人工的に作製する技術で、その1つが2012年度に終了したERATOプロジェクトで確立した「異種胚盤胞補完法」です。特定の臓器が作れないよう遺伝子操作を施した受精卵にES細胞やiPS細胞を注入し、欠損するはずだった臓器が補われた個体を作製する胚盤胞補完法を異種間で実現する技術で、日本医療研究開発機構(AMED)に研究が引き継がれた後も臓器作製の研究の進展に貢献しています。

      自然科学研究機構生理学研究所の平林真澄准教授と東京大学医科学研究所の中内啓光特任教授らは、遺伝子操作で腎臓を欠損させたラットの中にマウス由来の腎臓を作製することに成功しました。ラットとマウス両方の遺伝情報を持たせた個体の体内に異種胚盤胞補完法を用いることで、マウス由来の腎臓を作製できることを実証しました。この成果は、移植用の臓器を動物の体内で作製し、多くの患者に届ける未来の移植医療への重要なステップといえます。

      動物の体内でヒトの臓器を作製する研究は国内で禁止されてきましたが、数年にわたり議論された結果、19年3月に条件付きで解禁されました。技術の安全性だけでなく、乱用防止や生命倫理の議論など、社会全体で科学技術の健全な運用を考える意味でも、本研究の進展から学べることは多そうです。

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      胚盤胞補完法を適用して腎臓欠損ラット体内にマウスES細胞由来の腎臓を作製できた。