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新着情報

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好きな形に切り取って使えるワイヤレス充電シート ポケットにしまうだけで電子デバイスの充電が可能に

戦略的創造研究推進事業ERATO

JSTnews 2019年3月号掲載

充電器不要のワイヤレス充電システムを普及させるためには、机や棚、壁などの家具や内装にコイルを組み込み、あらゆる電子デバイスに自動で給電できる環境を作り出すことが重要です。しかし、製品の形状を決めてからコイルアレイを設計、実装する手法では、形に合わせた配線と磁気的な干渉を考慮したコイルの配置、設計が必要なため、高周波回路の知識と多くの時間、労力が必要でした。

東京大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博准教授らは、切断されてもコイルアレイの機能をできるだけ失わない配線形状と、隣り合うコイル間の磁気的な干渉を回避する制御を組み合わせて、誰もが好きな形に切って貼り付けるだけでワイヤレス充電ができるシートを開発しました。

このシートは、電源部が切断されないよう電源をシートの中央に配置し、H木型配線を利用して中央から外側に向かって配線しました。また、同時に電源がオンとなるコイル同士が距離を保つ時分割給電を用いてグループごとに給電を繰り返すことで、隣り合うコイル間の磁気的な干渉を回避しました。

今後、置くだけで充電できる机や棚、ポケットに入れるだけで充電できるかばんや衣服など、さまざまな応用が期待されます。

切り取り可能なワイヤレス充電シート(左)。H木型配線により、長方形、丸、ハート、星などの凸型図形やL、T、H、+などの凹型図形への形状の変更が可能(右)。ただし、中央のコネクターを切り抜く、あるいはコネクターにつながる配線を全て切り抜くような形 状の変更はできない(右下段)。(緑:機能するコイル、灰色:機能しないコイル、黒丸:中央のコネクター、赤:給電ライン)

光ファイバーを用いない「ファイバーレス光遺伝学」を開発 神経回路機能の解明に期待

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2019年2月号掲載

光によって細胞の機能を精密に操作する光遺伝学では、特定の波長の光を感知して神経活動を操作する分子のチャネルロドプシン2(C1V1)、アニオンチャネルロドプシン(ACR1)を標的の細胞で発現させます。これらの分子は生体透過性の低い可視光領域の光しか感知できないため、体内の深部組織へ光を届けるには光ファイバーを実験動物に接続し刺入することが必要でした。しかし、光ファイバーの接続と刺入は、実験動物の組織損傷や実験中の行動制限など、実験結果に影響が出ることが問題でした。

名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授らは、光ファイバーを実験動物に刺入することなくファイバーレスで神経活動を操作する「ファイバーレス光遺伝学」を開発しました。

近赤外光で神経活動を操作するために、近赤外光をアップコンバージョン反応によって可視光に変換させるランタニドマイクロ粒子(LMP)を用いました。アップコンバージョン反応とは、長波長の光を短波長の光に変換する反応のことで、レアメタルであるランタニド類元素を組み合わせることで引き起こします。LMPを脳内に微量注入し、生体外から近赤外光を照射すると深部組織で可視光を発光します。その光によってC1V1やACR1などの分子を活性化させて神経活動を操作し、約8週間にわたって実験動物の行動の制御が可能となりました。

今後、さらなる改良でマウスの適応可能な行動実験が増加し、神経回路機能の解明が加速すると期待されています。


ランタニドマイクロ粒子によるアップコンバージョンを用いたファイバーレス光遺伝子の図解


可視光を利用してメタンをエタンと水素に変換するために開発した全固体型光電気化学セル

可視光を利用してメタンをエタンと水素に変換 豊富な炭素資源からの化成品原料製造に期待

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2019年3月号掲載

天然ガスの主成分であるメタン(CH4)は石油に代わる炭素資源として期待されています。これまでも、メタンを化成品に直接変換するさまざまな手法が試されてきましたが、化学的な反応性に乏しいメタン分子の活性化には高温(750度以上)が必要でした。光触媒を利用すれば室温でメタンをメチルラジカル(・CH3)に活性化できることも知られていましたが、紫外光のようなエネルギーの高い光の利用が必要であり、吸収した光子が反応に利用される効率(量子効率)が著しく低いという問題がありました。

北九州市立大学国際環境学部の天野史章准教授らは、可視光を利用して低温(25度)でメタンをエタン(C2H6)と水素(H2)に変換するために、気相のメタン分子を直接活性化できる全固体型光電気化学セルを開発しました。そして、酸化タングステン(WO3)電極を用いたときに、青色の可視光照射下でメタンの変換反応が進行し、50パーセント以上の選択率で目的のエタンを生成しました。また、従来の光触媒反応と比較して量子効率が大幅に向上し、プロトン交換膜で仕切られた対極では水素も製造できました。

今後、光電極や触媒の材料開発によって反応の選択性をさらに向上させることができれば、豊富な天然資源であるメタンを水素や化成品原料に変換する新しいガス化学産業の創出が期待されます。

「第2の地球たち」の発見に期待 多色同時撮像カメラMuSCAT2を開発

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2019年2月号掲載

米国は2018年4月、非常に視野の広いカメラを搭載した衛星「TESS」を打ち上げました。今後2年間で全天の80パーセント以上の領域を観測し、太陽系に距離が近い惑星系を数千個発見すると見込まれています。しかし、惑星が主星の前を通り過ぎる「トランジット」という現象で発見された惑星候補には、本物の惑星だけではなく、恒星が別の恒星の前を通過する食連星という偽物が混ざるため、惑星と食連星を効率的に見分けることが課題となっていました。

東京大学大学院理学系研究科の成田憲保助教らは、可視光から近赤外光にかけての4色で同時に天体の明るさの変化を観測できる多色同時撮像カメラMuSCAT2を開発しました。MuSCAT2はTESSで発見された惑星候補が、本物かどうかを判別する観測装置です。研究チームはこの装置の性能を調べるため、実際に既知の惑星のトランジットを観測しました。さらに、地球の大気や検出器に由来する系統的変動を取り除くため、ガウス過程という統計手法を取り入れた解析を行いました。その結果、MuSCAT2が世界最高レベルの測光精度を4色で同時に達成できることを実証しました。

現在、24時間連続で多色撮像観測ができる体制の確立を目指して、3 台目となるMuSCAT3の開発を始めています。これが完成すれば、どんな周期の惑星であっても3台の観測装置の連携で観測できます。さらに、夏頃からTESSの北天の観測が始まります。この観測で発見された第2の地球候補の判別で世界をリードし「、第2の地球たち」の発見を一手に担うことを目指します。


MuSCAT2に初めて天体の光を通した日の記念写真(1列目右が成田さん)。

DNAの折りたたみ構造の調節による植物のDNA損傷軽減メカニズムを発見

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2019年2月号掲載

DNAは細胞核の中で折りたたまれた構造をとっています。エピゲノム制御は、そのDNAの折りたたみ構造を弛緩や凝縮させることができるメカニズムです。

折りたたみ構造が緩んでいるDNA部分は損傷を受けやすく、一方で、構造が凝縮している部分は損傷を受けにくいことがわかっています。植物は紫外線や土壌中に含まれる過剰な元素などの環境ストレスによってDNA損傷を受けることが知られています。このようなDNA損傷は植物の成長を阻害し、農作物の収穫に悪影響を及ぼすため、対策が求められています。

東京理科大学理工学部の坂本卓也助教、松永幸大教授らは、エピゲノム制御たんぱく質を変化させることで植物のDNA損傷を軽減できることを発見しました。研究グループは、DNA損傷を引き起こす過剰なホウ素をモデル植物であるシロイヌナズナに処理すると、DNAの折りたたみ構造が弛緩してDNA損傷が増えることを見つけました。そこで、DNAの折りたたみ構造の弛緩を維持するBRAHMA(BRM)と呼ばれるエピゲノム制御たんぱく質に注目しました。過剰なホウ素条件下では積極的にBRMが分解されることがわかりました。そこで、このBRMの量を減らしたシロイヌナズナ株を作製して調べると、DNA損傷を受けにくいことがわかりました。

今回の発見は、エピゲノム制御を通じたDNA損傷への対処方法の確立につながると考えられ、環境ストレス適応力を強化した農作物の開発に貢献できると期待されています。


BRMの機能を抑制するとDNA損傷ストレス条件における根の発達が改善する。矢印(赤色)は、分裂が盛んな領域の境界を示す。DNA損傷ストレスがかかると野生株では分裂が盛んな領域は縮小するが、BRM機能抑制株では分裂が盛んな領域の縮小は見られない。


DEOSプロジェクトの成果である、情報システムの信頼性を達成する方法について解説した書籍。

CREST DEOSプロジェクトの成果を基に国際標準が制定 コンピューターシステムの信頼性向上へ

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2019年1月号掲載

現代のコンピューターシステムは利用者の期待や環境、未知の障害など常にさまざまな変化に直面しています。システムが長期間サービスを提供するためには、これらの問題に対応し続けなければいけません。このような対応力を「オープン・システム・ディペンダビリティ(OSD:Open Systems Dependability、開放系総合信頼性)」と呼びます 。

2006年度に発足したCREST「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル ・ オペレーティングシステム」研究領域(DEOSプロジェクト、所眞理雄研究総括(2013年度終了))では、実際に広範囲に使用できる組込みシステム向けのオペレーティングシステム(OS)やディペンダブルな情報システムを構築するための基盤技術を開発してきました。2013年には、所研究総括が「一般社団法人ディペンダビリティ技術推進協会(DEOS協会)」を発足させ、研究開発成果が広く社会に利用され、世の中のシステムのディペンダビリティ向上に貢献する活動の一環として、国際標準化を推進してきました。

その結果、本技術の成果が2018年6月13日に国際標準「IEC 62853 Opensystems dependability」として発行されました。DEOSプロジェクトでの成果がIoTやAI時代のシステムの信頼性向上に貢献することになります。中でも、OSDの合意プロセスや説明責任遂行プロセスが、自動運転での責任論など「解決の難しい社会問題」への有効なアプローチになると期待されています。

魚の脳器官で光の色を検出 色覚の起源にせまる

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2019年1月号掲載

ヒトの目は網膜にある視細胞で光を感じて、赤、緑、青それぞれの光を感じる3種類の細胞によって色を見分けていますが、魚類などの脊椎動物では、目に加えて脳の表面に存在する松果体と呼ばれる器官でも色を検出します。この松果体は目と同じ細胞から分化しますが、色の検出の仕組みや役割は不明でした。

大阪市立大学大学院理学研究科の寺北明久教授らは、ゼブラフィッシュを用いて、最も重要な光感覚の1つである色の検出について、1種類の光受容たんぱく質を用いた非常に単純な仕組みを発見しました。これまで、色の検出は複数の光受容体たんぱく質が必要と考えられてきましたが、その常識を覆す結果となりました。

研究グループは、松果体の光受容体たんぱく質(パラピノプシン)に着目しました。同受容体は紫外線を受容すると可視光を受容できる状態(光産物)に変化し、可視光を受容すると元の紫外線光受容(暗型)に戻る性質を持っています(光相互変換型)。そこで、太陽光により似た条件を設定して詳細な実験を行ったところ、1つの受容体で暗型が紫外線光受容を担い、可視光に反応する光産物が可視光受容を担うことがわかりました。

「色を感じる」機能は、光受容たんぱく質などの進化に伴い獲得されたと考えられてきました。今回の発見は、パラピノプシンのような光相互変換型のたんぱく質を含んでいれば色の識別が可能であることを示し、進化の側面からも注目されます。さらに、1種類の光受容たんぱく質による色検出システムは、光遺伝学にも応用でき、色で細胞や動物の行動をコントロールできるようになれば、生命機能解明への貢献も期待されます。


(左)松果体の光受容細胞では1つの光受容細胞が、1種類の光受容たんぱく質を用いて紫外線と可視光を検出する。(右)松果体の光受容たんぱく質(パラピノプシン)は暗型と光産物の2状態を光相互変換し、それぞれ紫外線と可視光(緑)をキャッチできる。

「ぱっと開く笑顔」や「おふざけ顔」表情豊かな子供型アンドロイドロボットを開発

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2019年1月号掲載

アンドロイドロボットの表情は、柔らかい顔被覆の内部に搭載された機構の動きを操ることで作り出されています。しかし、これまでは表面を精密に変形できず、表情の変化の過程に意味や感情など、ニュアンスを載せて幅を持たせることができませんでした。

大阪大学大学院工学研究科の石原尚助教らは、子供型アンドロイドロボットの頭部を新たに開発し、皮膚の質感だけでなく、内部機構の可動部の数や動きの再現性の点でも性能を向上させました。

ロボットの大きさは2歳児相当。内部機構の動きに伴う顔表面の動きを精密に計測し、表面の操りやすさと変形の特性を機構ごとに調べました。そして、笑顔の表現に最も適した3つの機構それぞれに対して表面の変形の特性を考慮に入れた制御器を設けることで、無表情から笑顔に至る5パターンの表情の変化を作り分けることに成功しました。

今後は、細かなニュアンスが人にどのように伝わり、コミュニケーションをいかに変えるかを調べることが可能になります。また、コミュニケーションロボットが状況に応じて情報をより効果的に、ニュアンスを含んだ生き生きとした表情で人と交わすことができると期待されています。


子供型アンドロイドロボットの頭部(左:ぱっと開く笑顔、右:おふざけ顔)

開花を誘導する遺伝子は朝に働くことを解明 作物の品種改良や収穫時期の制御が可能に

戦略的創造研究推進事業CREST

JSTnews 2018年12月号掲載

植物の開花を誘導する「フロリゲン」と呼ばれる分子は微量でも効果を発揮するので、「花咲かホルモン」という異名があります。この分子をつくる遺伝子は、実験室内での研究を通じて夕方に最も働くと考えられてきました。

横浜市立大学木原生物学研究所の清水健太郎客員教授らと米ワシントン大学、スイスのチューリヒ大学をはじめとする国際共同研究グループは、野外で4時間ごとに24時間にわたってモデル植物のシロイヌナズナの組織を採集し、フロリゲン遺伝子の発現を調べました。その結果、これまで考えられていた夕方に加えて朝にも働くことを見つけました。

研究グループは、従来の実験室の長日条件の温度と光質 (赤色光と遠赤色光の比率) を野外に近づけることで、野外におけるフロリゲン遺伝子の発現様式と植物の花成時期を再現することに成功しました。また、この過程で、遠赤色光シグナルと低温シグナルが、朝のフロリゲン遺伝子の発現に相反的に働くことを見いだしました。

従来の実験では、自然界の植物の挙動を再現できていなかったことを確認したことにより、穀物や果実、野菜などの栽培に野外環境を反映し、収量の拡大や品種改良を図る新しい取り組みのきっかけになりそうです。


従来用いられる実験室条件では、フロリゲン遺伝子は夕方にのみ発現するが、野外では主に光の波長や温度条件の違いから朝に発現することがわかった。(ワシントン大学(現・奈良先端科学技術大学院大学)久保田茜博士作成)

次世代発光材料の新製法を開発 赤色ペロブスカイト量子ドットLEDで世界最高発光効率を実現

センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム

JSTnews 2018年12月号掲載

ペロブスカイトは、高効率太陽電池の材料だけでなく、新しい発光材料としても期待されています。中でも10ナノメートル程度の大きさのナノ結晶材料であるペロブスカイトの量子ドットは、発光効率が高く色純度が良いため次世代発光デバイス材料として注目を集めています。しかし、赤色の発光材料としては結晶構造が不安定で、LEDへの応用や高性能化が困難とされていました。

山形大学学術研究院の千葉貴之助教と城戸淳二教授らは、ペロブスカイト量子ドットの新たな製法を開発し、この材料系を用いた赤色LEDとしては非常に高い、21.3パーセントの発光効率(外部量子効率)を実現しました。

新製法では、結晶構造が比較的安定な緑色ペロブスカイト量子ドットを合成した後、それに含まれる臭素の一部を塩素やヨウ素などのハロゲン元素に置き換えることで、発光波長を簡単に制御することができ(ハロゲンアニオン交換)、発光色を緑色から深赤色へ変えることに成功しました。

この製法により、赤色の発光効率は従来の2倍を実現し、色純度では4Kや8Kといった超高精細なテレビの国際規格を上回りました。さらなる高性能化に向けたデバイスの開発指針を確立することで、ディスプレーや照明などへの展開が期待されます。


ヨウ素含有アンモニウム塩を利用したハロゲンアニオン交換

5種類の金属からナノ粒子を合成

戦略的創造研究推進事業ERATO

JSTnews 2018年12月号掲載

さまざまな金属元素を自在に混ぜ合わせることができれば、高機能材料の開発や新物質の発見につながります。しかし、金属の種類が多いと、物質中で異なる金属同士が分離してしまうため、これまでは最大で3種類までしか均一に混ぜ合わせることができませんでした。

東京工業大学科学技術創成研究院の塚本孝政特任助教と山元公寿教授らは、極微小な物質(ナノ粒子)中に多種の金属元素をさまざまな比率や組み合わせで配合できる「アトムハイブリッド法」を開発し、5種類あるいは6種類の金属を配合した多元合金ナノ粒子の合成に成功しました。

アトムハイブリッド法とはデンドリマーと呼ばれる樹状の高分子を鋳型として利用する合成法です。デンドリマー構造中に多種多様な金属イオンを取り込み、その金属イオンを化学的に還元することで多元合金ナノ粒子を合成します。この手法により、粒子のサイズや合金の混合比率を精密に制御して合金ナノ粒子を合成することができます。

これにより通常では混ざらない多種類の金属元素を混ぜることが可能になり、未知の物質群の発見や新分野の開拓に結び付きます。将来は未知の物質群から新たな機能材料を作り出せると期待されます。


デンドリマーを鋳型とした多元合金ナノ粒子の合成法(アトムハイブリッド法)。
1ナノメートル程度のナノ粒子の中に、5種類の金属元素が混ざり合っている。

AIによる合成可能な有機分子の設計とその実験的検証に成功

イノベーションハブ構築支援事業

JSTnews 2018年11月号掲載

深層学習による人工知能(AI)技術の発展によって、複雑な有機分子の設計が人手を介さずにできるようになってきています。しかし、設計された分子の構造は自然界に存在する分子や過去に合成された分子の構造とはかけ離れていることが多く、安定に存在できるのか、実際に合成できるのか、望みの特性を示すのかなどについてはわかっていませんでした。

理化学研究所革新知能統合研究センターの隅田真人特別研究員、津田宏治チームリーダー、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の石原伸輔主任研究員、田村亮主任研究員らは、量子力学に基づいた分子シミュレーション技術(DFT)とAI技術である再帰型ニューラルネットワーク(RNN)、囲碁AIにも使われているモンテカルロ木探索法(MCTS)を組み合わせることにより、光の吸収波長を対象とした分子設計を実行し、望みの性質を有した合成可能な分子を設計することに成功しました。さらに、数個の分子を実際に合成して望みの特性があることを確かめました。

将来、太陽電池の集光材料や電気貯蔵材料、有機EL用の発光といった有機エレクトロニクス分野における機能性分子の開発が加速すると期待されています。


AI技術による有機分子設計のフロー図

光によって活性化される天然型、人工型の陰イオンチャネルの構造を明らかに新しい光遺伝学ツールの開発に成功

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2018年11月号掲載

神経細胞は、細胞膜にあるたんぱく質であるイオンチャネルが開閉し、イオンが出入りすることで活動します。そのため、光照射によって活性化するイオンチャネルを脳の神経細胞に埋め込むと、光を用いて神経細胞を刺激あるいは抑制することができます。この方法は光遺伝学とも呼ばれ、注目を集めています。

陰イオンを通す光駆動性のイオンチャネルは、2014年に人工的に開発され、翌年には自然界から発見されました。これらは神経活動を抑制する上で重要ですが、神経を活性化させる光駆動性の陽イオンチャネルより研究が遅れており、改良のためには詳細な立体構造の解明が求められていました。

米国スタンフォード大学の加藤英明博士研究員らは、X線結晶構造解析により、天然型であるGtACR1と人工型であるiC++という2種類の光駆動性陰イオンチャネルの立体構造を高い解像度で決定しました。さらに、立体構造情報を基にGtACR1に変異を導入し、陰イオンを良く通すという性質を保ったまま素早い開閉を実現させたFLASHと呼ばれる新しい陰イオンチャネルを開発しました。

神経活動のより精密な制御ツールとして、これまで困難だった光遺伝学実験を可能にし、ヒトの脳機能やパーキンソン病など神経疾患の理解が進むことが期待されます。


(左)天然型光駆動性陰イオンチャネルGtACR1の結晶構造。FLASHの開発に当たって導入した変異部位を青と緑の球体モデルで示している
(右)人工型光駆動性陰イオンチャネルiC++の結晶構造

生体を長時間「ありのまま」観察できる近赤外蛍光標識剤を開発

戦略的創造研究推進事業さきがけ

JSTnews 2018年9月号掲載

特定のたんぱく質や細胞器官に蛍光の目印を付け、生体の機能や構造を観察する蛍光イメージングには、照射光による細胞障害や、生体の内在性物質に由来した蛍光バックグラウンドの影響といった問題がありました。波長が長い近赤外光蛍光を利用できれば解決できますが、従来の近赤外蛍光色素は化学的な安定性や、照射光への耐性が乏しく、生体観察への応用には限界がありました。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の多喜正泰特任准教授らは、代表的な蛍光色素の1つとして知られるローダミン色素にリン原子を導入し、これを酸化することによって、化学的にも光に対しても極めて安定な近赤外蛍光色素PREX 710の開発に成功しました。実際に、強い光照射を必要とする1分子蛍光イメージングを行うと、シアニン系の色素では数秒で蛍光シグナルが消失したのに対し、PREX710からの1分子蛍光シグナルは数分間も検出できることが明らかになりました。

また、PREX 710の蛍光波長は従来の蛍光標識とほとんど重ならず、生体の多色蛍光観察に極めて有効です。さらに、血液中にも長時間安定して存在できるため、脳血管の3次元画像も取得することに成功しました。

PREX 710は長時間の生体1分子や戦略的創造研究推進事業さきがけ研究領域「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」研究課題「脂質ダイナミックスの精密解析技術の創出」組織深部の観察、さらに既存の蛍光標識との多色蛍光観察など、幅広い生命科学分野での応用が期待されます。


1分子蛍光イメージングによる光安定性の評価
PREX 710(上段)とシアニン系の近赤外蛍光色素(下段)の1分子蛍光イメージングにおける光安定性の比較。各輝点は1分子からの蛍光シグナルを表している。下段のシアニン色素では20秒以内に半分以上の蛍光シグナルが消失しているが、PREX 710の蛍光シグナルは、120秒間観察を続けても80パーセント以上残っている。

洪水で沈んでも背を伸ばす「浮きイネ」の仕組みと起源を解明

戦略的創造研究推進事業 CREST

JSTnews 2018年9月号掲載

東南アジアでは、毎年雨季になると水かさが数メートルにもなる洪水が発生し、この過酷な環境が4〜5カ月続くこともあります。バングラデシュをはじめとしたアジアの洪水地帯で栽培される「浮きイネ」は、水没しても急激に草丈を伸ばし、水面から葉を出して生き延びることが知られていますが、その詳しい仕組みや起源は明らかになっていませんでした。

名古屋大学生物機能開発利用研究センターの芦苅基行教授らは、アジア各国で栽培されている68種類のイネのDNA配列などを比較し、バングラデシュの浮きイネにある特異な変異から、水没に応答して草丈を伸ばす鍵遺伝子のSD1遺伝子を発見しました。

SD1たんぱく質は、植物の草丈の伸長を促す植物ホルモンのジベレリンを合成する酵素です。浮きイネは水没すると植物ホルモンのエチレンを体内に蓄積し、このエチレンの働きによりSD1たんぱく質が大量に生産されます。一般的なイネに比べ、浮きイネのSD1たんぱく質の酵素活性は20倍も高い上、草丈の伸長をより強く促すタイプのジベレリンを生産することがわかりました。

近年、世界各地で気候変動が起きています。今後は、高収量の浮きイネ品種の開発や、さまざまな環境変化に応じたイネの開発技術へ貢献が期待されます。


水没に対する浮きイネの草丈の伸長

ゲノム中の配列の違いに関連する情報をプロジェクトを越えてワンストップで提供

ライフサイエンスデータベース統合推進事業 バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)

JSTnews 2018年8月号掲載

薬の効き方や疾患のかかりやすさ、お酒を飲むと顔が赤くなる体質などの「表現型」は、ゲノム配列の個人による違い(バリアント)と関係しています。表現型とバリアントの関係を発見するためには、研究対象とする集団に存在するバリアントの頻度情報が必要であり、多くのデータを活用できることが成功の鍵となります。しかし、日本国内ではこれまで研究プロジェクトごとに情報が公開されてきたため、横断的なバリアントの頻度情報の活用が、十分にはできていませんでした。

この課題を解決するために、JSTは各プロジェクトで生産された個人ゲノムを集計したバリアントの頻度情報や文献情報などを収集、整理し、さまざまな条件(バリアントのヒトゲノム上の位置、種類など)を用いて、ワンストップで検索できるデータベース「TogoVar」を作成し、公開しました。検索対象には、NBDCが運用するデータベースに登録されている日本人のゲノムデータから集計した、大規模なバリアントの頻度情報も含まれています。

今後、バリアントに付随する遺伝子発現データなどの情報を追加し、バリアントの頻度情報をさらに充実させ、日本人を対象とした高精度医療に向けたゲノム医科学の発展に寄与するゲノム情報基盤を目指します。

TogoVar https://togovar.biosciencedbc.jp/

開発したデータベース「TogoVar」のトップ画面

がんの血管構造を可視化「見ながら治療」に一歩

研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム

JSTnews 2018年8月号掲載

がんの病態を個別に詳しく観察し、的確に治療し、効果を予測することへの注目度が高まっています。その観察対象の1つが、がん内部の血管です。がん組織に酸素や栄養を送り込む血管は、がん内部では非常に細く3次元的に複雑な構造を持つため可視化が困難でした。

量子科学技術研究開発機構の青木伊知男グループリーダーらは、@高感度のナノ粒子型MRI造影剤、A高感度の高磁場MRI、B低ノイズの低温受信コイルを組み合わせ、がん内部の血管構造を高解像度で3次元かつ安全に可視化する技術を開発しました。

実験では、大腸がん細胞をマウスの皮下に移植後、がんの直径が5ミリメートルになるまで育て、造影剤を尾静脈から投与しました。がん局所を高磁場MRIで撮影したところ、がん内部の小血管(細動静脈)の立体構造を50マイクロメートルの高い解像度で描き出すことに成功しました。

がんの血管形成を抑制する抗がん剤スニチニブを毎日投与すると、治療7日目には、がん表面の血管の一部が崩壊し、漏れ出したナノ粒子が組織内にたまり白いもやのように写りました。10日目にはナノ粒子がたまった白いもやの部分のがん組織の陥没が観察できました。ナノ粒子のたまり方には、腫瘍内でばらつきがあることも経時的に観察できました。

この造影剤には治療薬を搭載することも可能で、血管の可視化で薬剤が十分に届くかどうかを判断できます。もし不十分なら、放射線や粒子線治療の併用も考えられるでしょう。可視化情報に基づいて適切な療法を選び効果を予測する「見ながら治療」の実現が期待されます。


マウスの皮下に移植した大腸がん。がん内部の小さな血管の立体構造が明確に描出された(左)、
スニチニブを投与し、がん内部の血管構造の変化やナノ粒子型造影剤の分布を10日間追跡(右)。

磁性体中で電流を曲げるだけで加熱・冷却ができる熱電変換現象を観測

戦略的創造研究推進事業 CREST

JSTnews 2018年8月号掲載

金属や半導体において電流と熱流は相互に変換することができます。この現象は熱電効果と呼ばれており、温度差から電圧を作り出すゼーベック効果、逆に、電流を流すとそれに沿って熱流が生じるペルチェ効果が古くから知られています。磁性体において、これらの効果は磁化と電流のなす角度に依存する場合があります。ゼーベック効果が磁化と電流のなす角度に依存して異方的に変化することはすでに知られていましたが、その逆過程の異方性磁気ペルチェ効果については、これまで観測例がありませんでした。

物質・材料研究機構の内田健一グループリーダーらは、強磁性金属のニッケル(Ni)をコの字型に加工して一様に磁化させることで異方性磁気ペルチェ効果の観察を試みました。ロックインサーモグラフィ法と呼ばれる熱画像を精密に計測する技術を用いて、磁性体に電流を流した際に生じる温度変化を測定した結果、ペルチェ効果の性能が磁性体の磁化と電流のなす角度に依存して変化する振る舞いを直接観察することに初めて成功しました。

今後、異方性磁気ペルチェ効果の微視的メカニズムの解明や、より大きな効果を示す磁性材料の探索、開発を行い、電子デバイスの熱制御技術への応用を目指していきます。


異方性磁気ペルチェ効果の観測

有機太陽電池の材料を人工知能で予測

戦略的創造研究推進事業 さきがけ

JSTnews 2018年7月号掲載

有機太陽電池は、安価で軽量なことから実用化に向け世界中で研究が進められています。n型材料であるフラーレン誘導体など低分子化合物とp型材料である高分子化合物の混合物を溶かして塗布することで作られますが、高分子の構造には無数の組み合わせが存在します。混合膜の構造や太陽電池の性能は計算で予測できないため、これまでの方法では探索に限界がありました。

大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀准教授らは、情報科学の力を使って、高分子構造を一瞬で選別し、性能を予測する手法を開発しました。

今回、手作業で集めた1200個の混合膜材料の化学構造や性能のデータセットを基にランダムフォレストを用いた分類器を構築し、人工知能(AI)による機械学習を行って、材料のデータから性能の予測ができるようになりました。その結果、すでに学習した化学構造に対しては95パーセント以上の正答率が得られました。

今後は、この手法を低分子材料にも応用し、より高効率な太陽電池材料の探索を進めていきます。


電子供与基、電子吸引基、アルキル鎖から構成される高分子構造の例(上)。
化学構造を指紋キーに変換し、ランダムフォレストで変換効率を分類する(中央)。
機械学習、実験科学、研究者による判断の双方向の融合(下)


代表的なフラノステロイドの化学構造。赤字はフラン環を示す。

微生物の休眠遺伝子を目覚めさせて新たなステロイド生合成経路を発見

国際科学技術共同研究推進事業 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)

JSTnews 2018年7月号掲載

自然界の生物は、分子量の小さい低分子化合物を介して互いに生育を促進したり阻害したりして共生していますが、研究室では一種類の微生物ごとに培養されるため、一部の化合物しか合成されていないと考えられています。実際に、生成物の知られていない生合成遺伝子が数多く存在し、これらは研究室の培養条件では発現しない「休眠遺伝子」と呼ばれています。眠っている遺伝子を覚醒させ、生合成の経路を解析する方法を確立できれば、新たな活性物質の生産につながると考えられます。

東京大学大学院薬学系研究科の阿部郁朗教授および、中国曁南(ジナン)大学薬学部のガオ・ハオ(高昊)教授、フ・ダン(胡丹)副教授らの国際研究チームは、植物と共生している糸状菌が、抗炎症治療薬として働くフラノステロイド化合物を生合成する機能を持つことに着目。ゲノム編集技術を用いて酸化酵素遺伝子を破壊し、その過程で蓄積する化合物や生合成に関わる反応経路を発見しました。

今後、共生微生物の遺伝子や化合物資源の解析法、活用法が構築されたり、医薬品や化合物などの類似化合物の合成に大きく役立ったりすることが期待されています。

粘土遊びがヒントに 有機分子で自在にナノ構造体を作る

戦略的創造研究推進事業 さきがけ

JSTnews 2018年7月号掲載

自在に形を作れる材料は物づくりに欠かせません。目に見えない分子の世界でも重要で、さまざまな合成反応の開発によって、ベンゼンのように大きさが1ナノメートル程度の小さな分子であれば精密に構造を作れるようになってきました。一方、数十〜数百ナノメートルの巨大分子には高度な機能をいくつも持たせることができるため、世界中で活発な研究が行われています。しかし、小さな分子から巨大分子を作ることは困難でした。

北海道大学大学院工学研究院の猪熊泰英准教授らは、子どもの粘土遊びを見て、古代から壺や水瓶を作る方法の1つである「巻き上げ技法」に注目しました。そして、柔軟なひも状分子にカルボニル基を多く入れることで「互いにペタペタくっつく」という粘土のような性質を持つ「カルボニルひも」を合成しました。

カルボニルひもは、水素結合などがひものいろいろな部分で起こり、固体状態で直線、S字、コの字など、従来の手法では形の維持が難しかったひも由来の曲線部を持つ構造を簡単に作ることができる画期的な構造体です。

今後、これまで以上に精密で柔軟な巨大分子が作れるようになり、発光体や電子素子など機能性ナノ材料への応用が期待されます。

粘土を細長くひも状に伸ばし、グルグルと巻き上げながらつないで器を作っている(巻き上げ技法)(左)。
同じ巻き上げ技法をカルボニルひも分子で行うと、分子変換のための触媒やガス分子を取り込むための容器を作ることができる。模様はアセチルアセトン誘導体(右)。

合成に成功した最長のカルボニルひもとベンゼンの比較(上)。
柔軟なカルボニルひもは、例えば棒状の分子に巻き付くことで螺旋状に形を変えられる(下)。


繊維状ウイルスM13ファージの模式図(a)と規則的に集合化したM13ファージの上面図と側面図の模式図(b)

簡便な方法でウイルスでできた熱伝導フィルムの開発に成功

戦略的創造研究推進事業 さきがけ

JSTnews 2018年6月号掲載

電気製品や電子機器の小型化を受けて、優れた熱伝導材料の開発が求められています。電気を絶縁し、柔らかく簡単に加工できる優れた材料として、有機系高分子材料が有用であると考えられています。しかし、金属やセラミックスと比較すると熱伝導率が2〜3桁低い点が問題となっており、有機系高分子材料の熱輸送効率を向上させる簡便な手法の開発が求められていました。

東京工業大学の澤田敏樹助教らは、M13ファージという無毒でひも状の構造を持つウイルス(繊維状ウイルス)を集めて作ったフィルムが、熱伝導材として機能することを発見しました。分子が溶解した水溶液を乾燥する際、端の部分に効率良く集積する「コーヒーリング効果」を応用したところ、この「ウイルスフィルム」は、端部において無機材料のガラスに匹敵する高い熱拡散率を示し、階層的に集まる生体由来素材が、熱伝導材として有用であることを見いだしました。

今後、有機系高分子材料に簡単な手法で高い熱伝導性を持たせたり、新しい熱輸送の機構を解明したりするだけでなく、ウイルス以外のさまざまな天然由来素材のデバイス材料としての開発にもつながると期待されます。

@すべての精子を吸い込むA運動性に乏しい精子は、押し戻されるB高い運動性の精子は、流れをさかのぼりながら泳いでいく
運動性精子選別器具の概略図(上)と三日月状構造部内での流れの様子(下)

直進よりも蛇行が良い 泳ぎ方で繁殖に有利なウシの精子を選別

研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)

JSTnews 2018年6月号掲載

日本では、家畜用の牛の繁殖の主流は人工授精ですが、受胎率が低下傾向にあり、繁殖性の改善のためにさまざまな試験研究が行われています。人間の不妊治療では運動性を失った精子を取り除くなど、活発な精子を集めるといった前処理がされていますが、家畜の繁殖では凍結した精液がそのまま用いられています。また、従来の活発な精子を集める技術では集められる精子の数が少なく、体外受精はできても処理後そのまま人工授精に用いることはできません。

産業技術総合研究所の山下健一研究グループ長らは、精子が流れをさかのぼるように運動することに注目し、より健全な精子を多く集められる選別器具を開発しました。また、直線に泳ぐよりも、蛇行しながら泳ぐ精子の方が、受胎率が高いことも見いだしました。

開発した選別器具は3つの筒状の液だめ構造を持ち、液面の高低差で精液を送り出します。さらに中央にある液だめの底面に三日月型の構造を設置し、運動性の高い精子だけを誘導する流れになるよう設計しました。この選別器具で集めた精子の質を調べたところ、DNAに損傷を持つ精子の割合が処理前ではおよそ7パーセントだったのに対し、処理後は約0.4パーセントへと大幅に改善されました。

今後、健全性の高い家畜繁殖用精液の大量生産や、精子の生化学分析の前処理技術としての活用を目指します。

拡大図
大面積のナノチューブ配列薄膜

単層カーボンナノチューブ薄膜の特異な光吸収特性を発見

戦略的創造研究推進事業 CREST

JSTnews 2018年6月号掲載

産業から出る排熱の約70パーセントは200度以下です。有効利用の方法がなく大量に環境中に放出されています。今後IoT社会を実現するためにも、環境から効率良く熱エネルギーを取り出せる、柔軟で、伸縮性を備えた高性能な熱電変換素子の開発が求められています。半導体型単層カーボンナノチューブ自体は優れた熱電変換特性を持つことが知られていますが、電気特性の制御された大面積のフレキシブルな薄膜として利用することは困難とされていました。

首都大学東京の柳和宏教授らは、米ライス大学の河野淳一郎教授らと作製した単層ナノチューブが一方向に配向した直径2インチに及ぶ大面積薄膜を用いて高密度に電子を注入する実験を行いました。偏光を用いて薄膜の光吸収特性を観測したところ、ゲート電圧を加えることによって高密度の電子が注入され、ナノチューブに平行な偏光では光が吸収されず、垂直な偏光では強い吸収が起きるといった新たな現象がわかり、ナノチューブが配向していることと、電気的に制御できることを検証しました。

配列したナノチューブ薄膜の性質は未知な点が多くあり、今後、配向カーボンナノチューブ薄膜の熱電特性を解き明かし、高性能なフレキシブル熱電変換素子の実現を目指します。

(a)新技術(3.8nmまで)/膜厚を厚くすることで形状磁気異方性による垂直磁化容易軸を実現(b)従来技術(20nmまで)/膜厚を薄くすることで界面磁気異方性による垂直磁化容易軸を実現
提案した形状磁気異方性を利用した磁気トンネル接合(a)と、従来型の界面磁気異方性を利用した磁気トンネル接合(b)の模式図。

世界最小直径3.8ナノメートルサイズの磁気トンネル接合素子の開発に成功

産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)
革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

JSTnews 2018年5月号掲載

磁石の向きを電気的に制御して情報を記憶し、電気信号に変えて情報を読み出す不揮発性磁気メモリー(STT-MRAM)は世界中で研究開発が行われ、年内には本格的に量産が開始される見通しとなっています。

このメモリーには、2つの磁石層で絶縁体を挟んだ「磁気トンネル接合素子」が用いられますが、2010年東北大学のグループは、磁石の向きが絶縁体との界面に垂直に向こうとする性質を利用したSTT-MRAMの実用化のためのコア技術を開発しました。今後、STT-MRAMを大容量化、高性能化するためには、磁気トンネル接合素子を持続的に微細化していく必要があります。しかし、微細化すると情報の忘れにくさと磁石の向きの反転のしやすさを両立することが難しくなります。研究グループは、磁気トンネル接合素子を縦に長い形状にすることで磁石が長手方向に向こうとする性質を用いて、2つの要件の両立が可能であることを発見し、直径3.8ナノメートルの世界最小サイズの素子の作製に成功しました。

この技術によって、将来、現行の約100倍の100ギガビットクラスのワーキングメモリーが開発されれば、人工知能(AI)システムや自動運行システムの中核となる超低消費電力インテリジェントAIチップが実現されると期待されます。

(上)折れ線グラフ(下)実物写真

耐傷性の改良(上)と蒔絵調印刷を施した漆ブラック調バイオプラスチック(下)

漆ブラック調バイオプラスチックの実用化に向けて優れた耐傷性と蒔絵調印刷を実現

戦略的創造研究推進事業 ALCA

JSTnews 2018年5月号掲載

NECはこれまで、炭素循環型社会を実現するバイオプラスチックの普及拡大に向けて、非食用植物由来のセルロースを原料とする高度な環境調和性に加え、新たな付加価値として高級漆器が持つ独特の美しい漆黒(漆ブラック)を塗装無しで実現する「漆ブラック調バイオプラスチック」を、漆芸家の下出祐太郎氏(京都産業大学教授)と共同で開発してきました。

今回、漆ブラックの光学特性を保持しながら、布や紙で擦っても傷が入りにくい独自の添加成分の配合技術を開発しました。ガーゼ摩擦試験では100回程度擦っても光沢が保持され、一般的なプラスチックの中で最高レベルの耐摩耗性を実現しました。

さらに、下出氏が描いた最高級の蒔絵をモデルとして、特殊印刷に強いメーカーなどの協力を得て、インク組成や印刷条件を最適化しました。これにより、射出成形されたさまざまな形状の漆ブラック調バイオプラスチックに、精緻かつ立体感のある高品質な蒔絵調印刷が可能となり、量産品の大幅な付加価値向上を実現できます。

今後、実用化に向けて改良を進めると共に、樹脂材料メーカーと連携体制を構築して、装飾性と環境調和性を重視する耐久製品や高級日用品などでの利用を目指します。

(上)脳の右半球の画像(下)分布図
(上)大人の気持ちを推測する能力に関する課題を行った時、抑うつ気分が高まるほど脳活動が低下した部分(赤色)。(下)その課題時の脳活動値(縦軸)と抑うつ気分尺度(横軸)の変数間で示した逆相関。

気分の落ち込みを脳画像で「見える化」 子育て困難の予防に期待

社会技術研究開発センター(RISTEX)

JSTnews 2018年4月号掲載

少子化や核家族化などを背景に、養育者の身近に悩みを相談できる相手がいないなど子育ての孤立化が問題視されています。その中で、養育者のメンタルヘルスの重要性が指摘されています。

福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授、島田浩二特命助教らは、養育者の気分の落ち込みが深刻化する兆候を、脳の機能画像から発見する方法を見いだしました。脳の活動を見える化することで、目に見えない子育てのストレスや心の疲れを本人と周囲が客観的にわかりやすく把握できるようになれば、子育て困難に至る前に予防的な支援へつなぐことが期待できます。

実験では0〜6歳の子どもがいる母親30名を対象として、顔画像の表情からその人の気持ちを推測する課題を行いつつ、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて脳の活動を測定しました。その結果、気分の落ち込みが高い人ほど大人の気持ちを推測するといった共同子育てにとって重要な社会能力に関する脳右下前頭回)の活動が低下する傾向があることがわかりました。

今後、多くの施設で利用されるよう、企業との検出技術の共同開発や定期健康診査での活用を視野に入れた自治体との連携などを行い、養育者を支援するシステムとしての確立をめざします。

卵白写真と出来上がった卵白たんぱく質凝縮ゲルの写真
鶏卵より作製した卵白たんぱく質水溶液に、2種類のイオン性界面活性剤を加えると、水相と分離した透明な液状物質である卵白たんぱく質凝縮体が形成される。この凝縮体を熱処理(70度で加熱)すると高強度なゲルが得られた。

卵の白身を使った高強度ゲル材料を開発

戦略的創造研究推進事業 ERATO

JSTnews 2018年4月号掲載

生物の体を作る重要な成分であるたんぱく質は、金属やセラミックスに続く次世代の材料として注目されています。しかし、微生物や細胞を培養し生産するため時間も費用もかかるという問題がありました。

東京工業大学科学技術創成研究院の野島達也特任助教(現・中国東南大学准教授)、彌田智一教授(現・同志社大学教授)らは、大量かつ安く入手できる食品たんぱく質である卵白に注目しました。卵白は透明で流動性のある生の状態から、加熱により白く弾力を持ったゆで卵の状態(ゲル状態)に変わります。このよく知られた現象に着目して、ゆで卵の150倍以上の強度を持つ新材料を開発しました。

通常のゆで卵の白身では、たんぱく質はランダムに絡まり合ってゲル状態となっています。研究グループは、卵白たんぱく質を一定間隔に集積させて加熱すれば、たんぱく質は規則的に絡まり合って、強度の高いゲルが形成すると考えました。研究グループは、これまでに、たんぱく質にイオン性界面活性剤を加えることで、水中のたんぱく質が一定間隔に集積した物質「たんぱく質凝縮体」を形成させる技術を開発してきました。この技術を卵白に応用してみると、卵白たんぱく質が一定間隔に集積しました。さらにこの状態で、70度で熱処理することで実際に高強度なゲルができました。

手術糸や関節軟骨再生の素材など体内に残留せずに一定期間後に吸収されるような医療用の素材や、グミや麺など新たな食感を持つ低糖質食品への応用が期待されます。

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