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  3. 妊娠期から虐待・DVを予防する支援システムの確立
写真:藤原 武男

藤原 武男 東京医科歯科大学
国際健康推進医学分野 教授

妊娠届を活用した
保健師を支援するアプリの開発

児童虐待やDVの効果的な予防対策は確立されていません。ハイリスクの妊婦に対応する保健師を支援するアプリ”そだつWA”を開発しました。

概要

児童虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)は増加傾向にありますが、その効果的な予防対策はいまだ確立されていません。その理由として、母子保健の現場で集められる情報が電子化していないために、ハイリスク妊婦の抽出方法が不明確で介入効果の評価ができないこと、ハイリスク妊婦の多くにみられる保健師などの支援に対して拒否的なケースへのアプローチ方法が確立していないことがあげられます。
本プロジェクトでは、虐待・DVのリスクを同定するために必要な情報を含む妊娠届を電子化することに成功した東京都足立区をフィールドとして、ハイリスク妊婦を抽出する既存のアルゴリズムを精緻化しました。加えて、妊娠期からの保健師による家庭訪問などの支援に用いるアプリ「そだつWA」を開発しました。そのアプリを用いてハイリスク群に対する虐待予防システムを確立し、足立区において実証実験を行い、その費用便益効果も確認しました。

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研究開発の成果

支援アプリ「そだつWA」では、個人情報保護、情報セキュリティーに配慮した上で、妊娠届の情報から抽出したハイリスク妊婦に対して、支援を行う保健師が動画などを用いたコンテンツを提供し、その視聴履歴を確認することができます。費用便益分析の結果、医療費だけを考えてもこのシステムの費用便益は大きいと考えられました。また、他にも汎用可能な成果として、支援に拒否的な妊婦に対して動機付け面接の手法を用いたトレーニングモジュールも開発しました。さらに、妊娠届の情報から妊娠中のDVを予測する尺度を作成しました(特許出願中)。これにより妊娠中のDVの有無を妊婦本人に直接聞かずに把握することができるため、潜在的なDV群を保健師が把握でき、事態が悪化する前に介入できる可能性が示されました。

研究開発のアピールポイント

妊娠届を活用した保健師支援アプリ「そだつWA」の開発

「そだつWA」は、個人情報保護、情報セキュリティーに配慮した上で、ハイリスク妊婦に対して保健師が動画などのコンテンツを提供し、その視聴履歴を確認することができます。「そだつWA」は、訪問前の保健師のトレーニング、訪問中の介入コンテンツ提供およびアセスメント、そして訪問前後のデータ管理で構成されます。具体的には、訪問前に保健師が動機づけ面接をもとにした面接手法を学べるコンテンツ、妊婦自身のメンタルヘルス管理や栄養・健康管理を目的とした訪問中に閲覧できるコンテンツ、そして訪問中に簡便に視聴・入力しDVのリスクを把握することができるアセスメントなどが含まれています。

保健師支援アプリ活用システムの費用便益分析

このシステムの費用便益分析も行いました。具体的には、乳児期に最も多い虐待である、揺さぶりを主な原因とする頭部外傷を約50%減らすことができたことから、その発生率から推測した直接入院医療費を年間約1000万円削減できる可能性があることがわかりました。「そだつWA」の維持コストが400万円と見積もられていることから、医療費だけを考えても費用便益は大きいと考えられます。

妊娠届情報からDVを予測するアルゴリズムの開発

妊娠届の情報から妊娠中のDVを予測する尺度を作成しました。この尺度を用いたアルゴリズムによって妊娠中のDVの有無を妊婦本人に直接聞かずに把握することができるため、潜在的なDV群を保健師が把握でき、事態が悪化する前に介入できる可能性が示されました。これは、見えづらい「私」におけるDVという状況を、妊娠届という「公」のデータから明らかにするという意味において、「新しい公/私空間」の構築に示唆を与えるものです。

成果の活用場面

  • 妊娠届からハイリスク妊婦を抽出するためにどのような項目を聞けばいいのかわからない場合に、このシステムを活用することで抽出ができます。
  • 保健師がハイリスク妊婦を支援する際に活用できます。特に比較的経験の浅い保健師がハイリスク妊婦の家庭訪問に行く場合などに活用していただくと効果的です。
  • 保健師教育、保健師研修で最新のエビデンスに基づく支援方法をこのアプリを使って学ぶことができます。特に支援に拒否的な妊婦にどのようにアプローチするのか、またメンタルヘルスの問題を抱える妊婦にどのように支援をするのかについて、音声を含めた学習教材が揃っているので高い教育効果が期待できます。
  • 産科外来等における助産師外来での妊婦支援に活用することができます。
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成果の担い手・受益者の声

担い手
「そだつWA」を使うことに最初は戸惑いがあったが、実際に使ってみると妊婦さんはすんなりとタブレットの画面をみてくれました。普段はこのような絵や動画のついた資料は持ち合わせていないので、効果があると思いました。(保健師)
受益者
「そだつWA」は、解説を自分のペースで見れることや、イラストがかわいいこと、色合いがかわいいこと、説明がわかりやすいこと、音声が付いていることでイントネーションや速度までわかるところがよい。(看護学生)

目指す社会の姿/今後の課題

全国的に見れば妊娠届の電子化はまだ進んでおらず、情報共有とそれに基づく効果的なハイリスク妊婦の支援ができていない現状があります。支援のあり方についての標準化の課題も残ったままです。そこで、全国の自治体の保健師が妊婦への支援において「そだつWA」を活用し、「そだつWA」を用いた保健師の教育により、支援を望まない妊婦へも確実にアプローチすることができるよう、「そだつWA」の全国展開を目指します。これにより、ハイリスク妊婦をより確実に同定し、ハイリスク妊婦に対して標準化され、かつ効果が確認されている育児支援コンテンツを届けることを可能にし、妊婦および育児中の母親へのDV、産後うつ、虐待が減る社会を目指します。

研究開発の関与者

  • 東京医科歯科大学 国際健康推進医学分野
  • 国立成育医療研究センター研究所 社会医学研究部
  • 株式会社アルム
  • 早稲田大学 法学部
  • 大阪大学 情報セキュリティ本部
  • 慶応義塾大学 経済学部
  • 東京都 足立区

内容に関する問い合わせ先

国立大学法人東京医科歯科大学
fujiwara.hlth[at]tmd.ac.jp ※[at]は@に置き換えてください。

事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)
[連絡先] pp-info[at]jst.go.jp ※[at]は@に置き換えてください。