「幸せになりたい」を叶えるために必要な3つの要素とは。幸福の指標を開発し、地域や社会との関係性を明らかに

  • 多世代共創

2021年4月19日

  • 研究開発プロジェクト名
    「地域の幸福の多面的側面の測定と持続可能な多世代共創社会に向けての実践的フィードバック」
  • 研究代表者
    内田 由紀子(京都大学こころの未来研究センター 教授)(2021年3月)
  • 研究開発期間
    2015年10月~2019年3月
  • 報告書
    実施報告書(3年次)(PDF: 970KB)
  • 領域・プログラムWebサイト
    「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域Webサイト 内田PJページ
  • プロフィール (2021年3月) 
    2003年 京都大学 大学院人間・環境学研究科 博士課程 修了。2003年 ミシガン大学 Institute for Social Research 客員研究員 (~2004年)。2004年 スタンフォード大学 心理学部 客員研究員 (~2005年)。2005年 甲子園大学人文学部講師 (~2008年)。2008年 京都大学 こころの未来研究センター 助教 (~2011年)。2010年12月~2013年3月 内閣府 幸福度に関する研究会 委員。2011年4月~2017年3月 京都大学 こころの未来研究センター特定准教授。2017年4月~同准教授を経て、2019年4月~現職。京都大学 人間・環境学博士。
    http://kokoro.kyoto-u.ac.jp/staff/yukiko-uchida/

プロジェクトの概要

地域共同体が衰退しつつある現代日本社会においては、人口減少や高齢化に加え、自他のつながりの希薄化や世代間交流の断裂が、幸福感低下を招いています。地域社会のwell-beingの実現に向け、個人の幸福を追求するだけではない、新たな幸福度の考え方が求められています。

本プロジェクトでは、地域の幸福を多側面から測定し、地域の幸福指標を開発するとともに、地域の幸福と、世代間あるいは地域内外におけるソーシャルキャピタルやシェアド・リアリティ(価値や経験の蓄積と共有)との関係を明らかにすことを目指しました。それらを基に、持続可能な地域の実現に向けての多世代共創の効果を検証するとともに、さまざまな地域で活用可能な多世代共創を促す実践プログラムの開発を産官学民連携で取り組みました。

3月20日(土)は、国連が制定する「国際幸福デー」/世界幸福度ランキング発表

令和時代の集団的幸福とは?社会や企業のリーダーが「幸福」を考える時代へ

3月20日(土)は国連が制定する「国際幸福デー」。国連が毎年「世界幸福度ランキング」を発表します。例年、欧州諸国が上位を独占。2018年は54位、2019年は58位、2020年は62位だった日本は、今年は56位。昨年の62位から上昇したとはいえ、依然として主要先進国・G7のなかで断トツの最下位。「幸福感」とは、個人の主観なものである一方で、現代では、社会のリーダーとなる人がそのグループの幸福を考えなければいけなくなっています。

幸福についての考え方や議論は、これまでヨーロッパを中心に行われ、それが日本に輸入されてきていました。しかし、幸福の感じ方は、文化的背景に大きく依存します。また、GDPや日経平均株価などの経済指標が豊かであっても、そこで暮らす人々が必ずしも幸せとは限りません。人間は社会生活を営んでいる以上、社会状況も人の幸福感に大きく影響すると考えられ、実際に暮らしている人たちがもつ主観的な状態も加味する必要があります。
そこで、内田教授は、「個人の主観的な幸福」と「社会(地域)の状態」を統合した考え方を提唱。ランキングに基づく評価ではなく、地域の強みや弱みを検討できるような持続可能な幸福の測定指標の開発と、日本各地で自治会や集落を対象としたフィールド調査を実施。次のような研究成果を明らかにしました。

●幸福を構成するコンポーネント(要素)とは?>>>> 「感情」×「過去の評価」
「感情」は一過性のものではなく、感情が原因で健康を害することもあるため、とても重要な要素です。また、「過去の評価」は人の意思決定に影響するため、これもまた重要です。

ぐるぐるモデル●「幸福の循環モデル」 >>>>>>>>>>>>>
“周囲との信頼感を強く感じている人が多い地域ほど、幸福感を感じている人が多く、個人が幸福感を感じている状態では、何らかの形でその地域のためになるような行動(向社会行動)が増加傾向に。そして、改めてそこに住んでいて幸せだと感じる。このように、「幸福感」「信頼感」「向社会行動」の3つは循環している”。大切なのは、何が幸福感の要因か、ということでなく、この3つの要素がつねに循環していることだとわかりました。また、このようにうまく循環している地域では、移住者などの地域外の人へも開放的な傾向がみられました。

<都市部や若年層を対象とした場合>
都市部では地域社会のような交流が薄くなっています。それを補完するのが、会社の同僚や趣味の友人などの人間関係です。これがいわば「地域」としての役割を持ちます。「企業に勤めている人にとっては、(幸福に求める要素として)報酬や達成感のようなフィードバックの重要度が地域社会よりも高くなります。一方で、地域モデルでも示した社会関係資本(人間関係)と向社会的行動の循環関係は似ています」(内田教授)

幸福のサイクルを循環させる3つの要素、「幸福感」「信頼感」「向社会行動」は、どんな地域にも当てはまります。このサイクルにあてはまるものがない場合は、そこをうまく補う施策や取り組みをすれば、その地域または企業全体の幸福度も増すといえるでしょう。

インタビュー(2021年2月)

「幸せになりたい」

誰もが少なからずこう思っているはずだ。

おいしいものをお腹いっぱいに食べられること。好きな仕事につけること。お金に不自由しないこと。多かれ少なかれ、周囲の人間関係にストレスを感じないこと……

ある人にとって幸せだと感じることが、他の人にとっても必ずしも幸せなことだとは限らない以上、幸福感とは非常に主観的なものだ。

「『幸せになるためにお金を稼ぐ』といったように、『幸福』は最終ゴールにされることが多いんです。それは個人的な願いのようなものでもある一方で、現代では社会のリーダーとなる人がそのグループの幸福を考えなければならなくなっています」

そう話すのは、京都大学こころの未来研究センターで、国や地域文化と幸福の関係について研究をしている社会心理学者の内田由紀子教授だ。

内田教授によると、「幸福」についての議論はこれまでヨーロッパや北米を中心に行われており、それが日本に輸入されている状況だという。しかし、幸福の感じ方は、その文化的背景に大きく依存する。

「輸入された『幸福』に対する考え方が、本当に日本にとって適しているのかという部分に興味があります」(内田教授)

幸福の源泉とは

内田教授は今、心理学的な手法を用いて、地域社会の中で多世代がともに幸福を感じるためには何が必要なのかを研究している。

幸福感の構成要素として重要なのは、「感情」と「人生の意義についての評価」だという。

「感情は一過性のものではありません。感情が原因になり人の健康が害されることもあるため、幸福のコンポーネント(要素)として重要な位置づけになっています。また、『自分の人生を振り返ったときの評価や、今やっていることに意義を感じるかどうか』といった要素も幸福感にとって非常に重要です」(内田教授)

子供神輿
子供神輿 2017年10月(京都市)

一方で、人間は社会生活を営んでいる以上、社会状況も人の幸福感に大きく影響するはずだ。

「ただしマクロな状態は、経済状況や人口の増減といった統計情報でしか測定することができませんでした。『幸せ』について考えるには、そこで実際に暮らしている人たちが持つ主観的な状態も加味しなければなりません」(内田教授)

GDPや日経平均株価などの経済指標が、その国の豊かさを示す指標として使われることは多い。しかし残念ながら、たとえ経済的に豊かであっても、そこに住んでいる人々が「幸せ」であるとは限らない。

そこで求められるのが、「個人の主観的な幸福」と「社会(地域)の状態」を統合した考え方だ。

幸福感を支えるのは「信頼感」

例えば、日本では今、人口の減少問題が大きな課題となっている。特に地方都市ではより深刻に捉えられている。

だが内田教授によると、フィールド調査などで、人口が減ること自体が地域の幸福を大きく減じる要素にはなっていないことが分かってきたという。

いったい何が地域の「幸福」を支える要因なのか。

曲り屋 曲り屋

内田教授らの研究グループでは、日本各地にある400程度の地域を対象に、地域で行われるイベントの観察や、ウェアラブルデバイスを利用してコミュニケーションの発生数をデータ化するなどの調査を実施。加えて、アンケートを用いて住民に幸福度を尋ねる調査を組み合わせることで、地域の状態(コミュニケーションの量や地域環境のメンテナンス具合など)と住民の幸福度の相関関係を紐解いていった。

このプロジェクトに参加した住民の数は、のべ約1万人。対象とした地域は東京や大阪といった都心部を除いた領域で、いわゆる「小学校区」程度である約100世帯の集団を1地域として実施された。

内田教授は、「肌感覚で人が地域と思っている領域はかなり小さいんです」とその枠組みを説明する。

「個人の幸福は大事なものです。何がその幸福を支えているのかを見ていくと、その一つとして地域の社会関係、信頼感や助け合える空気感が幸福感にとって重要なことが分かりました」(内田教授)

幸福は社会の中で循環する

周囲との信頼感を強く感じている人が多い地域ほど幸福感を感じている人が多く、個人が幸福感を感じている状態では、何らかの形でその地域のためになるような行動(向社会行動)が増加傾向になる。そして、改めてそこに住んでいて幸せだと感じる。

このように、「幸福感」「信頼感」「向社会行動」の3つは循環している。大切なのは、何が幸福感の要因か、ということでなく、この3つの要素がつねに循環している状態であることなのだ。それが結果として、地域住民に幸福感を与え続ける要因となっている。

また、こういったサイクルがうまく循環している地域では、移住者などの地域外の人へも開放的な傾向がみられた。アメリカの調査では、地域における信頼感が強い場合、逆に排他的になることが知られている。内田教授は、この日米での違いについて、「もしかすると、日本の今の地域状況にとても関連しているのかもしれません」と語る。

人口が減少している中で地域が生き延びるには、外部からの意見を取り入れていくほかない。

「多くの意見を取り入れて変わっていきたいという気持ちが、向社会的行動に向かわせ、個人の幸福度を高めていく。こういう循環関係がみられました。住みよい地域について考えることが、自分がそこで得られる幸福感につながっているということは、今回の調査で分かった大きなポイントです」(内田教授)

「地域」によって、幸福の要素は変わらない

内田教授らの調査で、都市部を除外した地域社会では、「幸福感」が地域の場としての状態と個人の幸福の循環モデルによって支えられていることは分かった。

では、この幸福の循環モデルは都市部、あるいは若者を対象としたときにも通用するのだろうか。

都市部では地方の地域社会のようなご近所関係を基本とした交流が薄い。それを補完するのが、同じ企業で勤めている同僚や、同じ趣味の友人といったような「交流のある人間関係」だ。これがいわば「地域」としての役割を代替している。

内田教授は、企業に勤める人たちを対象とした幸福感の調査も行っている。

「企業に勤めている人にとっては、(幸福として求める要素として)報酬や達成感のようなフィードバックの重要度が地域社会よりも高くなります。

一方で、地域モデルでも示した社会関係資本(人間関係)と向社会的行動の循環関係は似ています」(内田教授)

企業が経済活動を行う単位であり、生活の糧を求める場であることから、個人の幸福として報酬や達成感に対する比重が大きくなるのは当然だ。一方で、それを実現するための要素は、地域社会における循環サイクルと大きく変わりはないという。

例えば、同僚をどの程度信じられるか、部署を超えた関係性がどのぐらいあるのかといった要素は、生産性や企業に対する「貢献意識」にも影響する。

「不信感があると、『こんな意見言っても潰されるんじゃないか』と思ってみんな黙ってしまいますよね。社内の人を信頼していれば、意見が活発になり、会社の状態が良くなり、結果として自分に返ってくる。やはり信頼関係と向社会的行動と、個人の幸福は似たようにつながっていると思います」(内田教授)

内田プロジェクト

幸福は人を知るリトマス紙

地域とひと言で言っても、その枠組みはさまざまだ。集落かもしれないし、都心部のように企業や社会関係資本で結ばれた人間関係かもしれない。

ただし、幸福のサイクルを循環させる3つの要素の「幸福感」「信頼感」「向社会行動」は、どんな地域にでも当てはめることができる。

「地域ごとに最適化していくには、その要素として何が必要なのかを、各地域が考えることがおそらく重要なのだと思います」(内田教授)

特定の地域(あるいは企業)において、このサイクルに当てはまるものがない場合は、幸福感を満たすための要素が足りておらず、全体として良い循環は起きない。逆に言えば、そこをうまく補う施策や取り組みをすれば、その地域全体の幸福度も増す。

その前提として重要となるのは、その地域や企業に所属している個人にとって、何が幸せなのかという問題だろう。

「幸せについて考えることは、人を知るリトマス紙のようなものだと思います。最終的にうまくみんなで意見が合致できれば、幸福のサイクルを回す歯車になれるのではないでしょうか。

誰もが幸せを求めていて、そのために場の状態を良くすることが重要であるのなら、地域社会や政治の現場、あるいは会社などでも、リーダーとなる人にとって幸せは考えなければいけない目標変数なのだと思います」

(文・三ツ村崇志)

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