【終了】「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域について

「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域は、平成24年度に始まり、平成29年度に活動を終了しました。

平成23年に発生した東日本大震災は、日本各地に甚大な被害をもたらしましたが、同時に、地震・津波対策、危機管理、情報通信、物流、災害時医療など、広域・複合災害が持つさまざまな課題をも浮き彫りにしました。本領域は、こうした災害から得られた課題や教訓を科学的に検証し、今後予想される大規模災害に対して、私たちの社会をより強くしなやかなものにするための災害対策を実現していくことを目指して研究開発を推進しました。

本領域の詳細サイトは下記よりご覧ください。

領域総括

林 春男

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 理事長

20世紀が科学技術の発展によって経済活動の拡大と人口爆発を招いた結果、21世紀は「リスク社会」であるという指摘があります。リスク社会において安全・安心な生活基盤を守り、持続的な発展を続けていくためには、さまざまな種類のリスクに対して強くしなやかに対応できる社会を構築していくことが求められます。

災害や危機のない社会を作ることは理想ですが、私たちが投入できる資源には限界があります。限られた資源を使って少しでも「強くしなやかな社会」の実現を図るためには、社会にとって脅威となるリスクを同定し、社会が何に対してどう備えるべきかを明確化していかなくてはなりません。

強くしなやかな社会の実現に向け、確実に被害の軽減につながる研究開発を進めるためには、さまざまな分野の科学技術を集めて総合化することが不可欠であるとの考え方は、多くの分野の人が賛成しているところです。いま必要なのは、社会実装を目指して、こうした考え方を実践に移すことです。

本研究領域では、「コミュニティ」と「つなぐ」という2つの言葉を大切なキーワードとしています。特に広域かつ複合的な災害に対しては、既存のコミュニティの枠にとらわれることなく、産・学・公・市民などの多様な社会主体をどのようにつなぎ、それらがより一層大きな力を出せる場をいかにして作り出すか、といった視点からの検討が必要になります。

平常時のリスクコミュニケーション、そして緊急時のクライシスコミュニケーションを有効に機能させるためにも、その前提となる人間や社会の本質、さらには現実の課題が持つ本質に着目し、これまで蓄積された個別の知見や技術を出発点として、それらをつなぎ、「強くしなやかな社会」の実現を目指した社会実装を行おうとする試みを数多く世に送り出していきたいと考えています。

領域の目標

この研究開発領域で達成しようとする目標は次の3点です。

1.防災・減災に関わる既存の研究開発、現場における取組や施策、制度などの現状を科学的に整理・分析し、同時に起こりうるさまざまな危機・災害を一元的に体系化し、効果的な対応を図るために必要な新しい知見の創出および方法論の開発を行うこと。

2.危機・災害対応に関わる都市・地域の現状と問題を把握・分析し、安全・安心に関わる知識・技術、社会制度、各般の関与者(行政、住民、学校、産業、NPO/NGOなど)を効果的に連携させることにより、安全な都市・地域を構築するとともに、人々に安心を提供するため、現場に立脚した政策提言、対策の実証を行うこと。

3.研究開発活動および得られた研究開発の成果が、当該地域・研究領域の枠を超えて活用され、普及・定着するよう、情報共有・意見交換や連携・協働のための関与者間のネットワークを構築すること。

研究開発テーマの概要

領域の目標を達成するために、公募による研究開発プログラムを推進します。推進にあたっての問題意識と想定される主要な研究開発プロジェクトのイメージは以下の通りです。

  • 1.コミュニティの特性を踏まえた危機対応力向上に関する研究開発
     安全・安心な都市・地域づくりへのひとつのアプローチとして、種々の危機・災害へのコミュニティの対応力を向上させるため、各地域に共通する対策要素に加え、都市・地域の実状や特色、文化的背景、コミュニティの特性に合わせた対策等を検討し、新しいしくみの設計や方法論の開発を行います。
     (例:コミュニティの特性を生かした新たな防災拠点づくり、バーチャルなコミュニティと連携した危機対応力の向上、全国ネットワークを活用した災害時における専門的支援の最適配置 など)
  • 2.自助・共助・公助の再設計と効果的な連携のための研究開発
     公助の機能不全の要因及び自助・共助との補完関係に係る課題を整理し、こうした大規模災害に対する公助のあり方、災害時に機能する自助・共助・公助の連携のあり方を明らかにするとともに、自助・共助・公助が連携するための合意形成手法の開発とリスクコミュニケーション手法の高度化を行います。加えて、自助・共助の取り組みとして、学校教育等における防災教育との連携なども視野に入れた個人のリスク対応能力の向上方法、防災行動の地域への定着方法の構築を行います。
     (例:リスクリテラシー向上のための方法論構築、リスクへの対応・対策のための合意形成手法・プロセスの検討・実践、緊急時におけるコミュニケーション(クライシスコミュニケーション)手法の検討、効果的な共助・公助のしくみづくり、広域連携のための新たなしくみの検討と体制づくり など)
  • 3.安全・安心に関わる課題への対応のために個別技術・知識をつなぐしくみを構築する研究開発
     これまでは安全・安心に関わる学問分野ごと、リスクごとに個別の研究開発がなされてきましたが、具体的な課題への対応のためにこれらを統合することが求められていることから、既存の研究開発成果、過去の経験、個別技術や制度、関与者等を効果的につなぎ合わせるような研究開発、しくみの構築を行います。
     (例:地域における防災・救助・支援活動の体系化、G空間情報処理(GPS+GIS)を核とした地域情報の集約、災害経験の分析・記録・伝承のしくみづくり など)
  • 4.コミュニティをつなぐしくみの社会実装を促進するための研究開発(法規制や制度等の整理分析、新たな取り組みへの仕掛けづくり)
     具体的な社会実装を見据えた法的・制度的な視点、経済性等も考慮した総合的なシステムとしてコミュニティをつなぐしくみを実現するための制度面を中心とした戦略を検討し、これまでの災害で障壁になった、またはこれから起こりうる災害を想定した場合に障壁になるであろう法規制や制度等を整理・分析し、新たな取り組みへの制度面の仕掛けづくりを行います。
     (例:身近な日常的技術の緊急時への転用検討 など)
  • 5.その他
     上記の整理にとらわれず、問題解決のための新しいアイディアに基づく広い視野に立った研究開発を推進します。
     (例:コミュニティ参画型地域リスクアセスメントの検討・実践 など)

領域成果のまとめ

本領域で推進した個別プロジェクトを通じ、様々なフィールドにおいて災害という文脈の中でコミュニティがどのような働きをするのかについて検証した結果、以下の3点が明らかになった。

出発点となる地域コミュニティでは、空間的近接性により血縁や地縁で相互に依存しながら祭祀や労働奉仕などの多くの機能を一人の人間が重層的に果たしていた。

しかし、都市化や情報社会化などの社会の不可逆的な変化により、かつてのつながり方は弱体化・変質化・健在化してきた。このような基本的なつながり方は、生まれ落ちるものではなく、1人1人が選び取る形に変わりつつある。国際規模に至るまで、多様なプレーヤーがコミュニティの中に違った行動原理を持ちながら参画してきている。このような変化を捉えることで、どういうつながりをこれから伸ばしていけるかという評価も可能となった。

具体的には、災害によって顕在化する現在の様々なコミュニティが持つ6つの共通特性を踏まえることが肝要である。

また、災害のプロセスでは、平時に環境・社会・文化のバランスが取れて安定していたコミュニティに対し環境変化が起こり、住まいや仕事などが奪われて、つながり方も変化する。一方で、文化は人々を結び付けて留めさせる働きを持つ。災害からの回復の中で健在化するこのプロセスを捉えて様々なコミュニティを活用することがコミュニティ・レジリエンスを高める上で重要なことであることに確信を得た。

本研究開発領域の活動の記録やプロジェクト成果等は、領域webサイト上で公開しています。

1)社会の不可逆的変化につれて、コミュニティは変容している

コミュニティの変容
社会の不可逆的な変化によるコミュニティの変容

2)災害によって顕在化する現在の様々なコミュニティには6つの共通特性がある

  1. 災害にあっても旧に復する力がある
  2. 外力からの「刺激」によって、コミュニティは活性化する
  3. 「すまい」の確保の観点から総合的に立ち直りを考える必要がある
  4. 災害の未経験者は被災についての具体的イメージを持てない
  5. 暮らしが成り立つことがコミュニティの成立の基盤である
  6. 災害対応者のプロフェッショナル化が不可欠である

3)コミュニティが災害を乗り越えるプロセスには環境・社会・文化のダイナミクスが働く

コミュニティの成立
コミュニティはバランスの上に成立する

領域の評価

中間評価

活動報告書 評価報告書

事後評価

活動報告書 評価報告書

研究開発プロジェクト

平成26年度採択

【カテゴリーⅠ】:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標などの体系化など)。

災害マネジメントに活かす島しょのコミュニティレジリエンスの知の創出
岡村 純
(日本赤十字九州国際看護大学看護学部 教授)
都市部コミュニティを含めた自助による防災力と復興力を高めるためのLODE手法の開発
倉原 宗孝
(岩手県立大学総合政策学部 教授)
災害時動物マネジメント体制の確立による人と動物が共存できる地域の創造
羽山 伸一
(日本獣医生命科学大学獣医学部 教授)
災害救援者のピアサポートコミュニティの構築
松井 豊
(筑波大学大学院人間総合科学研究科人間系 教授)
医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステムモデルの開発
棟近 雅彦
(早稲田大学理工学術院 教授)

【カテゴリーⅡ】:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。

多様な災害からの逃げ地図作成を通した世代間・地域間の連携促進
木下 勇
(千葉大学大学院園芸学研究科 教授)

平成25年度採択

【カテゴリーⅠ】:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標などの体系化など)。

レジリエントな都市圏創造を実現するプランニング手法の確立
廣井 悠
(東京大学工学系研究科 准教授)
持続可能な津波防災・地域継承のための土地利用モデル策定プロセスの検討
山中 英生
(徳島大学大学院理工学研究部 教授)

【カテゴリーⅡ】:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。

災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発
太田 祥一
(東京医科大学 救急医学講座 教授)
借り上げ仮設住宅被災者の生活再建支援方策の体系化
立木 茂雄
(同志社大学 社会学部 教授)
大規模災害リスク地域における消防団・民生委員・自主防災リーダー等も守る「コミュニティ防災」の創造
松尾 一郎
(特定非営利活動法人環境防災総合政策研究機構 環境・防災研究所 副所長)

平成24年度採択

【カテゴリーⅠ】:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標などの体系化など)。

中山間地水害後の農林地復旧支援モデルに関する研究
朝廣 和夫
(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)

【カテゴリーⅡ】:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。

いのちを守る沿岸域の再生と安全・安心の拠点としてのコミュニティの実装
石川 幹子
(中央大学理工学部人間総合理工学科 教授)
災害対応支援を目的とする防災情報のデータベース化の支援と利活用システムの構築
乾 健太郎
(東北大学 電気通信研究機構 教授)
伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発
横内 基
(小山工業高等専門学校建築学科 准教授)

熊本地震社会実装推進

熊本地震社会実装推進

熊本地震における農業支援・農地等復旧ボランティア実装支援
朝廣 和夫
(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
コミュニティに依拠する歴史的市街地の震災復興
横内 基
(小山工業高等専門学校建築学科 准教授)
熊本地震におけるコミュニティを基盤とする復興と文化的景観の再生
石川 幹子
(中央大学理工学部人間総合理工学科 教授)

プロジェクト企画調査

平成25年度採択

コモンズ空間の再生がリアス式海岸集落における暮らしの再建に果たす役割に関する企画調査
窪田 亜矢
(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
原発災害に伴う被災住民の初動期対応に関する企画調査
中井 勝己
(福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター 教授)
安全安心と活力賑わいが両立する地方都市づくりに向けてのコンパクトシティの有効性調査
中川 大
(京都大学 大学院工学研究科 教授)

平成24年度採択

借り上げ仮設住宅被災者の生活再建支援方策の体系化
立木 茂雄
(同志社大学 社会学部 教授)
新たな命を取り巻くコミュニティのレジリエンシー向上のための基盤研究
富田 博秋
(東北大学 災害科学国際研究所 教授)
大規模災害リスク地域における消防団・民生委員等の地域防災コミュニティの危機対応力向上に関する企画調査
松尾 一郎
(特定非営利活動法人 環境防災総合政策研究機構 環境・防災研究所 首席研究員)
長期的な視点からのレジリエントな都市圏創造に関する研究
廣井 悠
(名古屋大学 減災連携研究センター 准教授)

アクションレポート

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