RISTEXは、2025年度の新規研究開発領域として「ケアが根づく社会システム」を設定し、2025年4月より活動を開始しました。
領域総括

西村 ユミ
東京都立大学 健康福祉学部 教授近年、人口減少、少子高齢化及び人口偏在、さらには激甚化する自然災害等は、現代、そして未来社会の課題としてさかんに論じられています。これらはいずれも、私たちが暮らしてきたコミュニティの機能を大きく変え、ともすれば弱体化させるものであると考えられます。これらの急激な変化に対して、私たち人間は、これまでの振る舞いを顧みながら、他者や地球環境との向き合い方を捉えなおすことで、危機的な状況にあってもしなやかに回復し、生き抜くことのできる社会を築く力が求められているように思います。こうした事態を振り返ると、私たちが他者や環境を気にかけ、それを大切にしたり配慮したりする「ケア」という営みが不足していることに、根本的な課題があるように思えてなりません。
今まさに私たちは、世界の維持が難しい現実を突きつけられています。どうしたらこの世界を維持し、あるいは回復することへと向わせることができるのでしょうか。やはり、多様ないのちと地球環境と「共にある」こと、共存や相互依存を自覚し価値づけをする、ケアの態度が必要なのではないかと思います。
他方で、何かを配慮し、大事にするというケアは、ときに暴力となったり、差別を生み出したりすることがあります。ケアが、一方から他方に行われるものと考えると、受ける他方は弱者として位置づけられかねません。また、家庭内の分業によってケア労働ともいわれる家事や育児、介護を、皆で分けもつのではなく、限られた人びとが担ってきたこともたびたび指摘されます。これが差別や格差という問題になったとき、ケアは重荷という意味をもつことになります。ケアが、こうした社会的課題を孕んでしまうのはなぜなのでしょうか。これらの「ケア」とかかわる事象について改めて問いなおし、価値づけなおし、ケアする身体や場所、環境に学び、「共にある」ことを復活させる斬新なアイデアとデザインが、今求められています。本研究開発領域では、こうしたケアを生み出す研究開発を推進し、ケアを基盤とした社会の構築を目指します。
領域の目標
人口減少・少子高齢化が加速するなか、人びとが互いの暮らしを支え合える自発的・機能的なコミュニティや、取り巻く環境と互恵的に作用できるインフラの実現が求められています。そのためには、介護・育児に限らず、家事・見守り・人助け・教育・まちづくり・地域活動等をはじめとして、他者、自身、さらには外的環境を意識することから自然に発せられるケアの価値を科学的に示し、それを実社会のコミュニティや生活環境に波及させていくことが必要です。本研究開発領域全体としては、「私たち人間は、相互にケアし、ケアされることが必要な弱い存在である」という相互依存的な観点に立ち、ケアが社会に根づいていくための研究開発活動を推進し、「互いを自然に気にかけながら助け合えるコミュニティ形成や、人びとが環境と互恵的に関わり合えるインフラ等の生活基盤の自発的な実証が複数地域で始まっていること」を本研究開発領域の達成目標とします。また、本研究開発領域で採択された研究開発プロジェクトに対しては、実際の社会における現場(フィールド)を定めたうえで研究開発の成果を検証し、互いに助け合えるケアコミュニティの実証、もしくは人びとが環境と互恵的に関わりあえるインフラ等の生活基盤の実証に目途をつけることを達成目標として、ケアの可視化・実践の両面から研究開発を実施していただきます。
研究開発テーマの概要
本研究開発領域の研究開発は、「ケアとその価値の可視化及び実践」を対象とします。「可視化」とは、ケアがなされている現場を分析することにより、ケアとその価値を見えるようにする研究開発に限りません。歴史・社会・芸術・文化・教育等の観点から、人間にとってのケアの価値を再定義しながらケアのあるべき姿を解明する研究開発や、そのようなケアが根づいた社会システムの概念を構築する研究開発も「可視化」の対象に含めます。「実践」とは、見出されたケアの価値が人びとに浸透していくためのモデル等を構築し、それを実社会の現場に導入し、検証・改善を行うことを指します。
- 研究開発要素① ケアとその価値の可視化
可視化されにくいケアとその価値を、以下①―1または①―2の研究開発要素の実施により明らかにします。
研究開発要素①―1 ケア当事者等の分析によるケアとその価値の可視
不可視化されやすいケアとその価値を、ケアがなされている現場の当事者ならびにその背景をつぶさに観察・分析する研究開発
研究開発要素①―2 歴史・社会・芸術・文化・教育等の視点からのケアとその価値の可視化
歴史・社会・芸術・文化・教育等、「人間としての営み」という広範な視点から分析する研究開発 - 研究開発要素② 可視化されたケアの価値に基づく社会システムの実践
研究開発要素①で可視化されたケアの価値を踏まえた、相互依存的な人間観に基づいた社会システムの見直しの方向性や改善策を実社会の現場で実践し、検証・改善を行います(PoC:Proof of Concept)。これに加えて、ワークショップ・住民対話等の機会を通じて、研究開発プロジェクトの成果がもたらす「ケアが根づく社会」のあり方を問いながら、住民をはじめステークホルダーが徐々に主体的にその実践活動に携わる状況に繋げていく活動も実施します。
領域の評価
中間評価
| 活動報告書 | 評価報告書 |
|---|---|
| (掲載予定) | (掲載予定) |
事後評価
| 活動報告書 | 評価報告書 |
|---|---|
| (掲載予定) | (掲載予定) |
マネジメント・チーム
領域総括
- 西村 ユミ
(東京都立大学 健康福祉学部 教授)
領域アドバイザー
- 臼井 恵美子
(一橋大学 経済研究所 教授) - 岡田 美智男
(筑紫女学園大学 現代社会学部 教授) - 岡部 美香
(大阪大学 大学院人間科学研究科 教授) - 木多 道宏
(大阪大学 大学院工学研究科 教授) - 木村 篤信
(一般社団法人 日本リビングラボネットワーク 代表理事/株式会社地域創生Coデザイン研究所 ポリフォニックパートナー) - 桐山 伸也
(静岡大学 学術院情報学領域 教授) - 熊谷 晋一郎
(東京大学 先端科学技術研究センター 教授) - 榊原 哲也
(東京女子大学 現代教養学部 教授) - 千村 浩
(代官山やまびこクリニック 院長) - 二瓶 美里
(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授) - 細馬 宏通
(早稲田大学 文学学術院 教授) - 和気 純子
(東京都立大学 人文社会学部 教授)
(五十音順)
研究開発プロジェクト
2025年度採択
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人間と非人間の惑星的ケア 中島 岳志 (東京科学大学 リベラルアーツ教育研究院 副院長・教授) |
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相互期待感に基づくケア省察支援プログラムの創出 中谷 桃子 (東京科学大学 工学院 准教授) |
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科学技術と社会をつなぐためのケア概念に基づく対話実践の再構築 八木 絵香 (大阪大学 COデザインセンター 教授) |
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