【プロジェクト訪問】あまみずコーディネータ養成講座で学ぶ、今日からできる雨庭設計。裏庭の手入れから自治体・企業のECO-DRRまで。

開催日:2019年(令和元年)11月15日(金)・16日(土)
会場: 京都先端科学技術大学

『持続可能な多世代共創社会のデザイン』領域 (RISTEX)
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都市型水害への効果が期待できる「分散型水管理」は、島谷プロジェクトが取り組む「あまみず社会」の主軸となるシステムです。個人の庭や公共施設を利用し、雨水を溜めて活用したり、緩やかに土に浸透させたりする技術で、その土地の浸透能を計測し必要な貯水量を計算し、雨が降ったらどこへどう流して浸透させるかの計画を立てて設計します。
「あまみずコーディネータ」養成講座は、そうした雨水の利活用技術や、雨水の管理を地域ぐるみで行う際のコミュニティデザイン等を学ぶ場として開催され、技術士CPD、建築士会CPD、造園CPDの単位としても認定されています。

「雨庭を知る」一般向けの1日目。
どんな技術がどう活かされているか、
国内外の最新情報も満載!

1日目は一般向け、2日目は専門家向けですが、2日間通して受講される方が多い様子です。
1日目のプログラムも、要素技術の解説から雨庭設計の考えかた、実例、最新情報まで盛りだくさんでした。

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【プログラム】

1.グリーンインフラ・Eco-DRR あまみず社会
島谷幸宏氏(河川工学・河川環境 九州大学工学研究院教授)

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まずはプロジェクトの島谷代表が、日本のグリーンインフラの現状と、雨庭の効能からおさらいです。
ECO-DRRの一種として、都市型水害を防ぐ大きな効果が期待できる雨庭ですが、「自宅の庭を雨庭として整えて、これで終了」とはいきません。たとえば周囲から自宅に水が流れ込む状態だと、雨量によっては対処できないかもしれませんし、草木を育てず土を剥き出しにしておくと、表面が雨に叩かれ粘土層ができてしまいます。地域全体で取り組むこととや、草木を植え育てることが大切です。
「草が生えてミミズがいる土は、水が入る」という事実。「『都市型』水害」という単語との対照性が、まざまざと浮かび上がってきます。

2. 豪雨と社会
山下三平氏(景観・デザイン・まちづくり 九州産業大学教授)

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プロジェクトの「他分野・空間をつなぐチーム」リーダー山下氏は、研究開発拠点である福岡の樋井川流域で「あまみず社会」の構築を牽引してきました。
世界と日本とを比較し、さらに地球規模での都市型水害対策の歴史をひもとけば、日本では「あまみず社会」構想のような、小規模分散型かつ多機能なシステムが求められるのではないかと考えられます。実際に、京都の禅寺に設けられた枯れ流れの庭は、優れた浸透機能を備えています。京都では昔から、この方法で雨水を管理していたと考えられます。
「あまみず社会」は、水害対策として金銭的には低コストで実現できますが、合意形成やコミュニティ構築に時間的なコストを割く必要があります。今回は、樋井川流域での試みがどのように展開していったかも、丁寧にご解説いただきました。

3. あまみず活用の技術と認定制度
神谷博氏(雨の建築 法政大学兼任講師)

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「カタくて退屈な話担当」との前置きで笑いを誘いつつ、法律の講義。
2016年3月、日本建築学会では「蓄雨」という新語をもとに、雨水の活用を提案しました。それまで雨水には「うすい」とルビが振られ「廃棄するもの」のイメージが強かったのですが、このときから「あまみず」とルビが振られ、上水(飲用水)とも雑用水(飲用以外の水)とも違う水として説明されたわけです。雨水を集め、保管し、キレイにして活用し、あるいは土に浸透させる。水の循環を意識した建築のガイドラインは、整いつつあります。
とはいえ、原則として雨水排水は下水道に直結することになっています。現行法でどのような形ならOKか、試行錯誤が続いています。

4. 雨庭の思想と実践
森本幸裕氏(景観生態学 (公財)京都市都市緑化協会長)

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雨庭といえばこの方! 自然を人の生活に役立てるさまざまな工夫の中での雨庭の位置づけから、その多彩な機能の応用と、雨庭の魅力を存分に語っていただきました。そのうえで、今後の展開としてご紹介いただいたのが、雨庭を通じた生物多様性への取り組みです。
雨庭の機能とは、雨の恵みそのものの機能でもあり、極めて多彩です。水質浄化、コミュニティの交流促進、ヒートアイランド現象の緩和......。多機能ぶりを活かし、雨庭に在来種の草木を植え、多様な生き物との共生を図るというアイデアがあります。環境教育にもつながり、訪れた人に憩いの場も提供します。
この設計、実は京都駅の『緑水歩廊』等で既に実現しています。京都市が取り組む「KESエコロジカルネットワーク」の活動の一環で、今後更に活動を広げてゆく予定です。

5. あまみずの建築と庭の仕組みと課題

ここからは、実際に雨水の貯留・活用・浸透を実装した建築と庭の、実例紹介です。

1) 雨水ハウス

渡辺亮一氏(水環境工学 福岡大学教授)

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 自宅地下に6槽の雨水タンクを設置した実例です。地下水槽の貯留量は42トンで、常に容量の4割程度が貯留。沈殿を行った水を、最初はトイレ、洗濯、庭の散水などに使っていましたが、水質検査の結果問題なしとして、お風呂にも使っています。2012年の完成以来、2回のオーバーフローによる浸透を行いました。

2) あめにわ憩いセンター

浜田晃規氏(物質循環 福岡大学助教)

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利水と治水を強く意識した設計。甕やベビーバスタブを並べて貯留するとともに、浸透できる土の面積を可能な限り大きくとりました。もともと家庭の庭には高い保水力が期待できますが、この庭では草木を手入れしふかふかの状態を保つことで、高い浸透能を維持しています。

3) 事務所敷地の雨庭のデザイン

阿野晃秀氏(環境デザイン 京都先端科学大学講師)

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 「雨庭といえば、大きな庭」という思い込みを覆し、プランターを活用。「小さな庭」を複数使い、雨水を導いていきます。浸透も、直接土壌に触れない形で行います。都市部でも設置可能な雨庭としてワークショップで出た案ですが、雨庭はさまざまなスケールで考えられることがわかります。

4) 精密観測に基づく雨庭の形態と機能

丹羽英之氏(景観生態学 京都先端科学大学准教授)

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雨庭の体積を簡単に安上がりに計測し、機能評価できるツールをご紹介いただきました。フォトグラメトリ/SfM-MVS Photogrammetry(SfM多視点ステレオ写真測量)という測量システムは、被写体をさまざまな方向から撮影しソフトに読み込ませると、自動計算で3DCGモデルが完成するというもの。雨庭の普及を手助けしてくれそうです。

1日目の講習終了後、亀岡キャンパス食堂「ゆう愛」で懇親会が開かれました。講習会でしそびれた質問や、本筋とは関係ないユニークなエピソードが飛び交う中、盛り上がったのがグリーンインフラならぬ「グリーンウォッシュ」な緑地について。グリーンウォッシュとは「環境に配慮したふりをしている商品」を揶揄する呼び方です。今日の講習の資料にちらっと登場したグリーンウォッシュな緑地を、「どこがどうダメなのか、もっと詳しく聞きたい」「他にもあるならWEBでどんどん名指しで公開してほしい」と、冗談混じりのリクエストが飛んでいました。
「グリーンウォッシュと批判されることのない、たとえば環境が改善される緑地や、人が集まってくつろげる緑地を作りたい」
と考える企業や自治体の方々にも、雨庭の発想をご活用いただけたらと思います。

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懇親会では、名物の鹿肉カツカレーも登場。学食でも月に数回しか提供されない、希少なメニューです。

「雨庭をつくる」専門家向けの2日目。
実在する場所と数値をもとに、
理想の雨庭を設計してみた。

2日目は、いよいよ雨庭の設計です。参加者は5つのグループに分かれ、雨庭の設計に取り組みます。

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最初に、竹林知樹氏(景観デザイン (株)Takebayashi Landscape Architects)から、あまみずデザイン演習の手順について解説をいただきました。
1.蓄雨計算による不足分の算出(計算条件の算出ののち、治水蓄雨、利水蓄雨、防災蓄雨を算出し合算)
2不足分の補足策と雨庭等のデザイン(蓄雨高が足りているか、1に戻って算出)
最後にグループの設計案を発表します。

実は各グループで取り組む「課題」が違います。配布された平面図に描かれたのは、なんと京都の実在のエリア。それぞれの個性を活かして設計することが期待されています。
とにかく現状を把握しなくてはなりません。どの程度の浸透能を持った土地がどの程度の広さなのか、その結果溜められる水がどの程度になるのか。建築学会の基準を用い、敷地面積や建築面積、地面の状態ごとの蓄雨係数など与えられた数値をもとに、電卓を使って細かく計算していきます。
蓄雨計算による不足分の算出が終わったところで、目標値が提示されました。
「治水蓄雨としては100ml、水蓄雨としては、7日分×人数分の水を溜めたい」
どうやって? と考えるほどに、単に貯水タンクを地下に埋めただけでは終わらないと感じ始めます。溜める、使う、あえて溢れさせ浸透させる。バランスよく循環させることの難しさ。地域性やコミュニティ、その場所の歴史や今の環境を考えながら、アイデアを出しあっていきます。

水、緑、風、人。

すべてを合わせて考えた結果、ちょっと身を乗り出したくなるような設計が、次々生まれました。

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(写真左上・左下)建築ではおなじみの三角スケールですが、「今日初めて使う」という参加者も。各テーブルに最低ひとりは使ったことがあるメンバーが入っているので、最初は「なにこれ?」でも大丈夫。平面図も、教えてもらえば意味がつかめます。(写真中・右)テーブルごとに、設計面での専門的な助言ができるメンバーがいるだけでなく、テーブルの間を先生方が巡回し、難しい箇所は個別にレクチャー。島谷代表もすかさず参加です。

<<グループワーク発表>>

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四条堀川の交差点グループ。車道が舗装され、水が浸透しにくいのが難点ですね。
強度上の問題から、車道の舗装は現行のままという結論に至りました。代わりに歩道を改良します。透水性舗装を施し、車道側やバス停の屋根を緑化。将来的には、交差点をラウンドアバウト(環状交差点)にして緑化を、という構想も追加しています。

指物横丁通り戸建て住宅グループ。古い町並みを活かす工夫が必要かも。
建築面積が70%ということもあり、できることが少なく苦労しました。各戸への防火用バケツや浸透枡の配布、屋根・壁の緑化など、細かい箇所へ手を入れたほか、水桶を重ねての「京都風シャンパンタワー」という案も飛び出しました。

十条の集合住宅グループ。住む人みんなのことを考えなくては。
貯水を用いて敷地内の公園を整えます。屋上には菜園や養蜂の設備、建物まわりには小川や草木をふんだんに配置。都市緑地としての存在をアピールしながら、幅広い世代の交流の場として活用し、コミュニティの活性化を図ります。

梅小路の小学校グループ。隣地との連携や、教育の活用も視野に入れて。
蓄水の苦手なグラウンドには無理をさせず、目の前にある公園を雨庭化することにしました。校舎側としては、グラウンドと屋上を緑地化。プールの水も、日常的な植栽の管理には使えそうです。また、甕は敷地内に140個も置けるという計算結果が。

京都先端科学大学太秦キャンパスグループ。有事には1700人分の水が必要です。
まずは人数分×日数分の水を溜めるために、1200トンの貯水タンクを地下に埋めました。浸透性を考えて、地表から順に芝生、砂、瓦砕石を敷き詰めています。さらに、3つの建物すべての屋上を緑化。プランターも活用するという徹底ぶりです。

演習終了後、各自昼食を摂ったあと、京都市内の雨庭を巡るエクスカーションに向かいました。京都の地理に明るい参加者のかたにアクセスをご案内いただき、徒歩とバスを駆使して雨庭3箇所を見学。それぞれの内容や設計のポイント、エピソード等を、設計に携わった方にご説明いただきました。

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日新電機研修センター。エントランスは、「京都市緑の基本計画」に沿って「生物多様性+雨庭」をコンセプトに設計。京都の植生を再現する草木を厳選して配し、多様な生物が生きられる環境を整えています。固有種や希少種が育てられているという点でも、貴重な緑地です。
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四条堀川交差点。京都の庭園文化を反映したビジュアルで、交通量も多いこの場所に設けられたことは大きなインパクトです。業者さんに材料を提供していただいたり、地域のボランティアグループがお手入れをご担当されていたりと、市民主導での管理が行われています。
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京都駅の『緑水歩廊』です。屋根の上で溜めた雨水を、上層階の階段から下層階の屋外通路まで並べたプランターにかけ流し、上から順に京都の「里山」「棚田・湿地」「池沼」に育つ植物群を展示しています。池沼エリアのプランターでは、植物の根に卵がついてきたのか、小さな魚が泳いでいました。

養成講座に参加したあとのせいか、目にした瞬間「これは雨庭では?」とピンとくるのも、面白いところです。地元の参加者からは、「これが出来たとき、なんだか不思議な緑地が出来たなと思ったけど、雨庭というものだったんですね」という声も聞かれました。
これが「ピンとくる」ではなくで、「珍しくはない、普通の雨庭」と思われるほどに広まっていけば、都市型水害の被害が小さくなるだけでなく、さまざまな生き物やさまざまな自然の在りようと人とが共存してゆく、豊かな社会の姿が見えてくるかもしれません。

※所属・役職は、取材当時のものです。
(文責:RISTEX広報 公開日:令和2年3月27日)