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「循環型社会の構築を目指した水の再利用と農業システム」~CREST特別セッションを京都で開催~
2013年07月25日(木)~26日(金)京都大学 百周年時計台記念館

7月25日・26日と2日間にわたり、京都大学環境衛生工学研究会 第35回シンポジウムが開催された。この研究会は1981(昭和54)年に発足し、環境衛生工学に関連する幅広い分野を対象として、毎年シンポジウムを京都で開催している。

このシンポジウムの初日午後に、CREST「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」研究領域(以下、CREST「水利用」領域)の特別セッション「循環型社会の構築を目指した水の再利用と農業システム」が開催された。

セッションでは、CREST「水利用」領域の大垣眞一郎研究総括(公益財団法人 水道技術研究センター 理事長)による開会挨拶で、CREST水利用領域の概要が紹介されたあと、京都大学・田中宏明教授、京都大学・伊藤禎彦教授、高知大学・藤原拓教授より、それぞれが研究代表者として実施しているCRESTプロジェクトの研究内容についての発表があった。

田中教授の研究チームは、再生水に含まれるウイルス、微量汚染物質などリスク要因を制御する分離膜などの水処理技術やシステムを開発し、エネルギー面での効率性やリスク抑制性、さらには国内外に導入した場合の安全性や環境負荷性などを評価するという研究を進めている。伊藤教授の研究チームは、高度なリスク管理のもと、自然の浄化作用 (土壌浸透処理)を最大限用いた上で、必要最低限の下水処理・浄水処理を組み合わせた、低エネルギー・低コスト型の間接的飲用水再利用システムの構築に取り組んでいる。藤原教授の研究チームは、食料生産の場である農業地域の持続可能な水管理システムの構築を目指し、農業地域における分散した水質汚染源に対応した「面的な浄化技術」と、バイオマスの質と分布状況に応じた「カスケード型資源循環システム」を開発し、水質汚染抑制や温室効果ガス排出抑制などを同時に実現しようとしている。

セッションの後半では、大垣総括、田中教授、伊藤教授、藤原教授によるパネルディスカッションが設けられ、CREST「水利用」領域に参画する17の研究チームがカバーしている研究分野や、各研究で提案しているシステムの想定規模などについての議論があった。

会場には100名近くの参加者があり、CREST「水利用」領域の活動への期待をうかがわせる質疑応答があった。その中で大垣総括からは、「今、水の環境は大きく変化している。人口増加や気候変動、また地震や渇水といった不連続な変化も起きている。全体を見渡せる技術開発が必要となってきている。」とのコメントがあった。

またシンポジウムでは、CREST特別セッション以外にも、水処理や水環境などに関するセッションが開催されていた。「上水道」をテーマとしたセッションでは、災害時を考慮した水道のあり方についての発表があった。その中では、ロサンゼルスに日本の耐震水道管を導入した事例の紹介があり、日本の水道技術は高いレベルにあるにも関わらず、なかなか海外への展開事例は少ない中での先進的な取り組みであると評価を受けていた。「水環境」のセッションでは、水に関する国際標準化の最新動向が紹介され、日本が水分野における規格作りに関わるなど、主導権を持って進めていくことが重要であるとの認識が示された。

CREST特別セッションを通じてシンポジウムに参加して改めて感じたことは、水に関する技術やシステムの国際貢献・国際標準化の重要性である。折しも、今年6月には水再利用のISO国際規格の策定に向けて、日本が中国と共に幹事国を務めることが決定されたところである。田中教授の研究チームにおいても、北東アジア標準協力フォーラムにおける再生水利用マネジメント規格やISOPC253再生水農業利用の規格に、CRESTでの研究成果が反映され始めている。CREST「水利用」領域としても、このような国際規格策定に大いに貢献できる可能性を感じた今回のイベントであった。

(JST戦略研究推進部・CREST「水利用」領域担当 吉田有希)