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指先の細やかな触感を伝えることができる遠隔操作ロボットシステムを開発


ユーザー(左)の身体の動きがロボット(右)で再現され、ロボットの感覚情報がユーザーに伝わる。


ロボットが触った布の触感は、ユーザーのグローブ(左上)に伝達される。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の舘 暲(たち すすむ)特任教授らは、細やかな触感を伝えられる遠隔操作ロボットを世界で初めて開発しました。

近年、災害救助や医療などの分野で遠隔操作ロボットの利用が進んでいますが、これらのロボットを操縦者の分身として自在かつ安全に扱うためには、ロボットがいる遠隔地に自身が存在しているかのような高い臨場感が得られることが不可欠です。舘教授らは1980年から、このような高臨場感伝達技術の基本概念を「テレイグジスタンス」として提唱し、研究開発を進めてきました。

「テレイグジスタンス」の実現に向け、本研究グループはロボットとは離れた場所にいるユーザーの動きをロボットに伝える技術と、逆にロボットが得たさまざまな感覚情報をユーザーに伝える手法を追究してきました。カメラやマイクを通した視覚・聴覚の伝達だけでなく、ロボットが手に取った物の材質や温度などの触覚の伝達に着目して研究を進め、2011年には、指先への反力や温度を伝えられるテレイグジスタンスシステム「TELESAR V」を開発しました。しかし、絹布のサラサラ感、デニムのゴワゴワ感などの触感の違いまでは伝達できませんでした。

本研究グループは、色が「赤・青・緑」の三原色の組み合わせで表現できるのと同じように、皮膚感覚も圧覚、温覚、痛覚など、7種類の感覚要素を運動と同期して組み合わせることで表現可能であるとする「触原色原理」を独自に提案しています。これにもとづいて、これまで開発していた圧覚・温度覚に、新たに振動覚をも伝える触感伝達技術を「TELESAR V」と統合することにより、遠隔環境の細やかな触感を伝えるテレイグジスタンスの実現に成功しました。

今後、遠隔コミュニケーション、旅行やショッピングなどの遠隔体験、極限環境下における作業、遠隔医療、介護、サービス産業、エンターテイメント分野など、さまざまな応用が期待されます。

本記事は、JST news 9月号のNews Clipより引用しました。