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JST国際会議「凝集反応系のマルチスケールシミュレーション2012」(JST International Symposium on Multi-scale Simulation of Condensed-phase Reacting Systems:MSCRS2012)開催報告
2012年5月10日(木)~12日(土)名古屋大学ESホール

CREST研究領域「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」における研究課題「凝集反応系マルチスケールシミュレーションの研究開発」(研究代表者:長岡正隆 名古屋大学 大学院情報科学研究科 教授)におけるJST国際会議『凝集反応系のマルチスケールシミュレーション2012』が名古屋大学ESホールにて5月10日~12日の3日間にわたり開催された。参加登録者83名、口頭発表22件(海外6件、国内16件)、ポスター発表38件を得て成功裡に終了した。

本国際会議は、凝集反応系に関するマルチスケールシミュレーションの研究集会ではあったが、その実証科学としての役割と実験科学との連携を見据えて、互いに密接に関連する実験科学者を招待して、討論を深化させようと意図した。また、米国、フランス、スペインという欧米諸国の代表的研究者が招聘参加すると共に、インド、タイ、中国といったアジア諸国で近年活躍中の新進気鋭の若手研究者(含、女性研究者)も討論に参加するように配慮した。その結果、「凝集反応系におけるマルチスケールシミュレーション」に関する、原子・分子階層からの凝集系計算科学の到達点を、一線の研究者が凝縮して相互報告する場となったのと同時に、マルチスケールシミュレーションによる計算科学の実証科学としての国際的な現状を確認し合う有意義な場となった。こうした意味で本国際会議は、JSTのCRESTを初めとする国際的活動の情報発信の役割を十分に果たすことができたと言える。

発表内容は大きく4つの分野からなる。第1は『凝集反応系の量子化学』で、本CRESTプロジェクトの研究分担者である古賀を中心に、実験研究者も交えて、最先端量子化学による凝集反応系に関する研究が報告された(古賀、中村、Suresh、Ihre、井内、山田)。とくにC . H . Suresh 博士は、有機物質や有機金属化合物及び、生体関連物質のシミュレーション研究を活発に行っており、インド国立学際科学技術研究所における、農業技術、バイオテクノロジー、化学、材料、プロセス工学と環境技術に関する学際的な研究の中心的な役割を果たしている若手研究者である。

第2は『凝集反応系のQM/MM計算』で、CRESTプロジェクトを通して生まれた成果の一つである、分子数適応マルチスケールQM/MM分子シミュレーションとその適応例を紹介すると共に、実用化が進んだ自由エネルギー計算や、自由エネルギー勾配法の実在系への展開について、欧米における現状を交えて報告討論された(竹中、松林、Ruiz-Lopez、Aguilar、Galvan、麻田)。とくにフランス ナンシー大学理論化学生化学グループを、長年、ディレクターとして牽引しているM . F . Ruiz-Lopez 教授は、統計性重視の観点のもとで、各種の凝集化学反応系について、QM/MM法を積極的に用いた計算を行い実験家との共同研究で多くの成果を得ている。こうした研究はQM/MM法に基づく統計計算の意義を示すと共に、マルチスケールシミュレーションの可能性を示している。またスペイン エクストラマドゥラ大学 物理化学科のM . A . Aguilar 教授は、溶質分子系の電子状態を正確に求めることを優先する立場から、溶媒系について独自に考案した平均溶媒静電ポテンシャル(ASEP)近似を適用して、長岡らが開発した自由エネルギー勾配法を近似的に実行して、多くの実在系を対象に化学反応機構を明らかにしてきた。ASEP近似はタンパク質などの巨大分子系のマルチスケールシミュレーションにも有効な手法である。

第3の『酵素反応の計算科学』では、我が国において独自に開発されたQM手法であるフラグメント分子軌道法の成果や、その分子シミュレーションと結合したダイナミクスの研究や、ドラッグデザインなどについて報告された(石川、北浦、Hannongbua、小谷野)。とりわけ、フラグメント分子軌道法の提唱者である北浦教授は、基調講演として、今後の「凝集反応系におけるマルチスケールシミュレーション」について,ますます統計的取扱いが重要となるであろうという展望を紹介した。また、タイ カセサート大学のナノテクノロジーセンターで中心的役割を果たす女性研究者であるS . Hannongbua 教授は、化学、材料、ナノ・バイオテクノロジーなどに関する、自国でトップクラスの研究実績を踏まえて、国際的共同研究の成果を披露した。

第4の『タンパク質活性の計算科学』では、タンパク質の機能発現の分子的な起源の解明に向けて、熱変性・圧力変性を初め、アロステリック効果についてのマルチスケールシミュレーションについての研究報告がなされた(森、優、高柳、寺嶋、Straub、中迫)。とくに理論化学と計算化学の手法を用いて、タンパク質のダイナミクスと熱力学について探求している著名な化学物理学者であるJ . E . Straub 教授(ボストン大 化学科・教授)は、タンパク質のエネルギー移動、シグナル伝達、フォールディング、凝集に関係した経路や構造変化について焦点を当てたマルチシミュレーションの成果を総括的に報告し、本シンポジウムとの関連性や将来展望についても触れた有意義な講演を行った。

最終日には、シンポジウム最後に、会期中に設ける「ポスターセッション」での議論も含めて「全体討論」の場を設け、参加者全員の自由な意見交換を行い、本シンポジウムの総括とテーマ「凝集反応系におけるマルチスケールシミュレーション」についての将来を議論した。


ポスターセッション


参加者集合写真