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第3回CREST-SBM国際会議「がん細胞の数理科学」開催報告
-2011年06月08日(水)~09日(木) 広島大学医学部広仁会館

第3回CREST-SBM国際会議「がん細胞の数理科学」は、CERST研究領域「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」で推進中の研究課題「数理医学が拓く腫瘍形成原理解明と医療技術革新」の研究代表者、鈴木貴教授(大阪大学 基礎工学研究科)が主催し、広島大学医学部広仁会館で2011年6月8日(水)-6月9日(木)に開催された。

鈴木チームは腫瘍形成とその診断を題材として、数理科学と医学の協働研究を実施している。この研究領域は、米国やヨーロッパでの巨大プロジェクト、そこで展開される生物学と数理科学の融合研究、細胞生物学の進展に裏づけされた数理モデリングと数学解析の新しい方法の確立など、近年国際的な広がりを見せている。本研究会は海外から主導的立場で活躍している5名(米国2名、イギリス1名、ドイツ1名、韓国1名)を招聘し、報告・討論を通して運営・研究両面から国際的な連携を確立するとともに、数理細胞生物学研究の最新の動向・プロジェクトのこれまでの成果を広く社会に発信して、実用化研究への道筋を探索することを目的としたものである。

広島開催は、外国招聘研究者の関心が最も高かった場所であることと、がん研究の聖地として生まれたばかりのプロジェクト研究の情報発信の地として最適であると判断したことから決定した。 幸い「広島がんセミナー学術講演会」との共催を実現することができ、予想を超えて数理科学、 臨床・基礎医学、医療、 企業など多くの業務に従事している参加者を受け入れることができた。参加者総数は87名(日本人75名, 外国人12名)である。

研究会では、1日目午前にJST市丸修上席主任調査員によるJSTおよびCRESTに関する概要説明、鈴木研究代表者によるこれまでのCRESTでの数理医学研究に関する基調講演、海外連携研究拠点代表のVito Quaranta教授(米国、バンダービルト大学 医学部)とCRESTの主たる共同研究者である清木元治教授(東京大学 医科学研究所)による対象と方法の確認と最新成果報告を行った。ついで1日目午後は初期浸潤過程に現れる細胞変形・細胞外マトリクス分解に焦点を合わせた細胞生物学・数理モデリング、2日目午前は外国招聘研究者による腫瘍形成に関わる新しい数理研究、2日目午後は接着剥離、がんの遺伝子レベルでの発現抑制・診断の現況についての報告を実施した後、最後にプロジェクト展開されるモデリング・シミュレーション・アルゴリズム開発についての4件のショートプログラムで締めくくった。講演は基調講演1件, 招待講演7件(国外5件、国内2件)、CRESTチーム研究紹介12件の計20件であり、各講演後に設定された討論時間では活発な研究質疑、応答を行った。

鈴木研究代表者による基調講演では腫瘍形成過程と生体階層を確認し、細胞レベルでの浸潤過程を基本的な対象とすること、この対象に対する5つの数理的方法(ネットワークモデリング、ボトムアップモデリング、トップダウンモデリング、ホモロジー診断、逆源探索理論)と分子細胞生物学・ 臨床医学との協働によるいくつかの研究成果が紹介された。また清木教授からは腫瘍の微小環境を多次元に調整する因子としてのMT1-MMPについて、研究会組織委員の東京大学医科学研究所、村上善則教授からは、がんの浸潤・転移に関わる細胞接着分子CADM1について解説と報告があった。招待講演ではQuaranta教授により、自動顕微鏡を用いて定量化したがん細胞の個体数と単一細胞の薬に対する応答モデルの数理研究、特にシミュレーションから、自死細胞より休止細胞に移行する割合の大きいことが予想されること、バンダービルド大学のAlissa Weaver教授により、浸潤時に重要な役割を担う浸潤突起の実験研究の報告があった。イギリス、ダンディー大学のMark Chaplain教授からは接着・剥離に関するマルチスケールモデリング、特に連続・個別ベースシミュレーションと実験結果の比較について、ドイツ、ミュンスター大学のAngela Stevens教授からは数学モデルにより細胞外マトリクスのフィラメントの構造が細胞運動に果たす役割が解明されること、韓国、浦項科学技術大学のHyung Ju Hwang教授からはバクテリアの走化性に関する双曲型モデルと進行波について発表があった。広島大学大学院医歯薬学総合研究科の安井弥教授からは新規の診断や治療の対象となる胃癌の標的を見つける方法、同じく田原栄俊教授からはテロメアやG-tailががんの治療及び診断に適用できることについて報告があった。

今回の国際会議では、がん細胞の数理生物学研究を行っている米国・ヨーロッパ・韓国の研究者を招聘し、医学実験・数学・システム生物学などの様々な分野の国内研究者が集まり、最新のがん細胞の数理医学ついて活発な議論をすることができた。また今まで以上に最先端の数理医学の研究を行っている海外の研究者達との関係が深まったこと、日本でのがん細胞の数理医学研究の進展を海外に紹介することができたこと、広島で開催したことによりがん研究に造詣の深い広島の医学関係の研究者とプロジェクト参加者との間に新たにつながりができたこと、これまで数理医学について関わりのなかった医学・数学各分野の研究者への啓蒙となったことなども大きな成果である。