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現代科学の新地平:生物学と医学の接点に関する国際シンポジウム開催報告
-2010年08月19日(木)~20日(金) 福岡市・ホテルルイガンス-

現代科学の新地平:生物学と医学の接点に関する国際シンポジウム開催報告_1 
現代科学の新地平:生物学と医学の接点に関する国際シンポジウム開催報告_2 
現代科学の新地平:生物学と医学の接点に関する国際シンポジウム開催報告_3 

CREST研究課題 「ユビキチンシステムの網羅的解析基盤の創出」(研究代表者:九州大学教授、中山 敬一:CREST研究領域「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」)において、平成22年8月19~20日の日程で「現代科学の新地平:生物学と医学の接点に関する国際シンポジウム(New Horizons for Modern Science:Biology and Medicine at the Crossroads)を福岡市・ホテルルイガンスにて開催しました(参加登録者:208名)。

冒頭の藤木 幸夫グローバルCOEリーダーの挨拶に続いて、招待講演(海外4件、国内17件、うちCRESTチーム研究4件)の計21件の講演を実施しました。

本シンポジウムでは、2004年ノーベル化学賞受賞者のAaron Ciechanover (Technion, Israel)博士が講演する予定でしたが、来日2日前に階段から落下して前腕・足首骨折という重傷を負われ、急遽来日が不可能となりました。その他の海外招待講演者と内容を以下、簡単に紹介します。米国ノースカロライナ大学・Yue Xiong教授は、アセチル化・プロテオミクス解析によって予期しない多くのタンパク質のアセチル化を発見し、特に代謝酵素のほとんどがアセチル化されていることを述べられました。米国ハーバード大学・Tom Rapoport教授は、タンパク質が小胞体へ輸送されるメカニズムを、構造機能連関の観点から解説しました。米国Dana Farber癌研究所・Peter Sicinski教授は、サイクリンDの新たな機能について解説し、特にNotchの転写制御に関わる一面について、マウス個体レベルの解析を紹介しました。米国ノースカロライナ大学・Yi Zhang教授は、DNA脱メチル化について全く新しい化学経路を発見し、その意義について解説しました。

次に、国内発表者の講演概要は以下のとおりです。九州大学・藤木 幸夫教授および中山 敬一教授は、自身が主宰するCRESTプロジェクト(ペルオキシソーム形成とユビキチン網羅解析)について紹介しました。東京医科歯科大学・水島 昇教授は、オートファジーの個体レベルの生理機能を、また、産業技術総合研究所・夏目 徹チームリーダーは、ロボット技術を駆使した新たなプロテオミクス解析を紹介しました。東京大学・白髭 克彦教授は、次世代シークエンサーを使用したコヒーシンの新たな機能について紹介し、理化学研究所・宮脇 敦史チームリーダーは、蛍光タンパク質の種々の応用技術を示し、特に細胞周期の可視化の実例を紹介しました。同じく理化学研究所・上田 泰己チームリーダーは、生体時計遺伝子群の概説とその現状について解説を行いました。また、九州大学・近藤 久雄教授はゴルジ装置の形成に重要な新たな分子メカニズムを、京都大学・上村 匡教授は自身が主宰するCRESTプロジェクト(極性の形成メカニズム)研究について紹介しました。九州大学・赤司 浩一教授は癌幹細胞の位置づけと現在の理論を紹介されました。さらに、東京大学・後藤 由季子教授は自身が主宰するCRESTプロジェクト(神経の分化決定と神経幹細胞)研究を紹介しました。京都大学・眞貝 洋一教授はレトロウイルスの転写が抑制されるメカニズムについて解説しました。九州大学・佐々木 裕之教授は発生期における多くの非翻訳RNAについてその意義を紹介されました。

また今回の国際シンポジウムでは、わが国の将来を担う若手の研究者にも発表の機会を設け、九州大学・白根 道子准教授、理化学研究所・今井 猛チームリーダー、名古屋市立大学・島田 緑講師、名古屋大学・五島 剛太教授に、先端的な研究の最前線を紹介していただきました。

最後に本シンポジウムに招聘していましたが急遽所用のため参加できなかったCold Spring Harbor研究所名誉所長のJames Watson博士から、Hot Spring Harborシンポジウム(→このシンポジウムの通称:以前は九州大学生体防御医学研究所の支部がある温泉地・別府で行っていたため)に向けて第20回記念を祝うメッセージが届けられ、「from COLD to HOT」として全員の前で披露されました。

とりわけ今回の国際シンポジウムでは、分野にこだわらずに広く超一流の研究者を海外・国内から招聘し、また国内演者のほとんどが30歳代・40歳代の若手・中堅研究者であり、わが国の次世代研究者を海外の一流研究者と交流の場を設けるという意味でも有意義でした。今回の国内演者のような若いパワーが、今後わが国を牽引する“HOT”な存在になればと願う次第です。