服の色を変身させて地球を救う?!の巻/廣垣和正さん(福井大学)
何度でも生まれ変わらせる!
気体?の救世主がつなぐ、愛の繊維物語
海辺にポツンとたたずむ1枚の青いTシャツ。大好きだった持ち主・みよちゃんに捨てられてしまったのだ。理由はただひとつ、最新のトレンドカラーが青からピンクに変わってしまったから。「みよちゃんはおしゃれだから仕方がない、でももっと一緒にいたかったよ・・・」。
そっと涙をこぼすTシャツくん。
そんな彼のもとに、フワフワ漂う不思議な存在が現れる。「それ、2年前のトレンドカラーだね」と失礼なひと言を残しながら、フワフワはTシャツくんを海の底の竜宮城風の世界へと導いていく。そこで起きたのは、まさかの大変身。青いTシャツくんは、色鮮やかなピンクへ――。
「これで、みよちゃんにまた着てもらえる!」喜びに胸弾ませるTシャツくん。でもどうして青をピンクに変えられたのだろう?
超臨界二酸化炭素流体で繊維を脱色し、新たな色へと生まれ変わらせる最先端研究を紹介。
研究者名:廣垣 和正(福井大学 学術研究院 工学系部門 繊維先端工学講座 教授)
【アフタートーク】
~水を使わずに繊維を染色・脱色!二酸化炭素が変える服の未来~
ゲスト:二酸化炭素のフワフワくん(高温高圧で超臨界戦士・ダッセンマンに変身)
普段はただの二酸化炭素。けれど、特別な釜の中で、高温高圧になると、液体と気体の性質を併せ持つ超臨界流体に変身する。繊維のすき間にスッと入り込み、染色も脱色もこなす頼れるヒーロー。
~Tシャツくん、またまた色が変わる!~
Tシャツくん:こんにちは~。
ワン:あら、黄色のTシャツさん。え~と、初めまして・・・よね?
Tシャツくん:やだなあ、ぼくだよ。みよちゃんのTシャツさ。
猫田:え、あのTシャツくん?この前、ピンクになったばかりじゃなかった?また色が変わったの?
Tシャツくん:そうなんだ。みよちゃんの今のトレンドは、黄色なんだって。だから今度は黄色に染め直してもらったんだ。
ワン:そうだったのね、すっかりきれいな黄色になっちゃって。前はピンク、その前は青だったなんて、信じられないわ。
猫田:しかも何回も色を変えているのに、全然くたびれてない。新品みたいだ!
Tシャツくん:へへん、そうでしょ。それは二酸化炭素のフワフワくんのおかげなのさ!
(~そこに、トントンと扉をノックして、ふわっと何かが入ってくる)
フワフワくん:やあ、みんな!
ワン:あ、フワフワくん、良いところに。ちょうど今、あなたの話をしていたところなのよ。
フワフワくん:え、ぼくのこと?
Tシャツくん:フワフワくんは、普段はみんながよく知っている二酸化炭素。でも、高温高圧で超臨界状態になると、超臨界戦士・ダッセンマンに変身するんだ。そして、自由自在に繊維のすき間に入り込んで、染色や脱色をしちゃうのさ。
ワン:まさにヒーローね!
Tシャツくん:おかげでぼくはピンクから黄色に生まれ変わって、またみよちゃんに着てもらえるようになったよ。フワフワくん、ありがとう!
~繊維産業による水の大量消費・環境汚染が問題に~
猫田:それにしてもフワフワくんって親切なヒーローだよなあ。いちいち脱色したり染色したりして、ぼくだったら正直めんどうくさいや。それだったら新しいTシャツを買った方が簡単じゃない?
ワン:猫田さん、この前勉強したでしょ。大量に服を作って、大量に捨てることが問題になっているって。南米のチリのアタカマ砂漠には、捨てられた服が山のように積み上がって、まるで「服の墓場」のようになっているのよ。
Tシャツくん:ぼくたちポリエステルは、焼却すれば二酸化炭素を大量に排出することになるし、埋めても分解されないから土壌を汚染してしまうんだ。服を作るには材料もエネルギーもたくさん使う。もっとみんなに大事に着てほしいのにさ。
ワン:そもそも、繊維産業は環境負荷が高い産業だと言われているの。たった1枚の服を作るのにお風呂約11杯分もの大量の水が使われるって聞いたときはほんとうに驚いたわ。
Tシャツくん:それだけじゃないんだ。有害な染料が混じった排水が流れ出て、河川や海洋汚染を引き起こしてしまうケースもあるそうなんだ。みんなに迷惑かけちゃってるみたいで、ぼくたちって悲しい運命だよね・・・。
フワフワくん:Tシャツくん、泣かないで。だからこそ、“水を使わない繊維の染色・脱色技術”が生まれたんだよ。
~超臨界二酸化炭素流体を使った染色・脱色って?~
ワン:この技術は、日本では福井大学で長年研究されてきたの。福井県は「繊維王国」と言われるくらい繊維産業が盛んな地域だから、水の大量消費や服の大量廃棄を大きな問題と捉えているのよ。そこで、福井大学は地域と連携したプロジェクト「フクミラ」を通じて、こうした課題解決に取り組んでいるのよ。
猫田:地域ぐるみで繊維産業の未来を変えていこうとしているんだね。
フワフワくん:そこでぼくたちの出番だ!福井大学の廣垣 和正さんたちが超臨界状態にしたぼくたち二酸化炭素を使って、“水を使わない染色・脱色技術”を開発したんだ。
ワン:超臨界二酸化炭素流体を使った染色は以前から研究されていた技術なんだけど、ポリエステル生地を脱色する技術は、廣垣さんが2024年10月に世界で初めて開発したのよね。
猫田:わーお!すごいね!
ワン:フワフワくん、あなたが超臨界状態になると超臨界二酸化炭素流体のダッセンマンに変身して、繊維を染色したり脱色したりできるのよね。
フワフワくん:そうなんだ。特別な釜の中で温度と圧力を上げて臨界点(約31℃、約7.4 MPa)を超えたぼくたち二酸化炭素は、液体のように“溶かす”力と、気体のように“入り込みやすい”力を同時に持つんだ。だから、溶かした染料を繊維分子の細かなすき間に運び込んで染色したり、挟み込まれた染料を溶かして運び出して脱色したりできるんだ。
猫田:君たちはどうして繊維の中まで入り込めるの?
フワフワくん:それはね、高温高圧の釜の中に洋服が入れられて、さらにはぼくたちが繊維の中に入ると、繊維分子が少し膨らむんだ。分子と分子のすき間が広がって、染料が動きやすくなるんだよ。
猫田:なるほど!でもさ、服の色ってしっかり付いてるよね。脱色と染色って、そんなにうまくいくのかな?
フワフワくん:キーワードは“相性”だよ!染色のときは、相性が、
“染料♡繊維 > 染料♡二酸化炭素”
になってる。そもそも染料は二酸化炭素よりも、繊維のほうが相性がいい。だから染料は二酸化炭素を離れて繊維の中に入り込み、居続けるんだ。
でも温度や圧力といった条件を変えたり、添加物を工夫したりして、
“染料♡繊維 < 染料♡二酸化炭素”
にすると、染料は二酸化炭素と居たくなって、染料が繊維から離れて二酸化炭素側へ移動するから脱色できるんだ。
猫田:ふむふむ。条件次第で“仲良し相手”が変わるってことか。ぼくも本部を怒らせちゃって空気が悪くなると、ワンのほうに逃げ込むもんね。
ワン:条件が変わっても来ないでくださいよ。
Tシャツくん:まあまあ落ちついて。この方法は水を使わないから繊維はぬれない。だから乾燥工程いらずで、省エネにもつながるんだよ。
フワフワくん:使った二酸化炭素は回収できるし、染料はフィルターや吸着材に集めて回収・再利用できるんだ。
猫田:すごい、完全なエコだ!
~福井大学×地域、服を「捨てない未来」へ~
ワン:福井県には繊維産業が根付いているから、大学の研究と地域が共創しているのが強みなの。「フクミラ」の活動では、衣服を捨てずに染め直して使う社会の仕組みをみんなで考えているのよ。
猫田:研究室だけじゃなく、地域と一体になって取り組んでいるんだね。この活動をリードする廣垣さんってどんな人?
フワフワくん:繊維の染色、機能加工が専門で、超臨界二酸化炭素流体を用いた水を使わない染色・脱色だけでなく、染料も使わずに繊維を着色する構造色など幅広い研究をしているよ。小さい頃からものづくりが大好きで、好奇心旺盛。研究の話をすると、つい目がキラキラしちゃうんだ。
ワン:研究への情熱が伝わってくるわね。
フワフワくん:ちなみに廣垣さんが好きな色は赤!これからもずっとみんなが好きな色の服を着て、おしゃれを楽しめる世の中にすることが夢なんだって。
ワン:私たち、毎日何気なくいろんな色の服を着ているけれど、好きな色を自由に選べるって、実はとても豊かなことなのよね。
Tシャツくん:ぼくがこうしていろんな色に変われるのは、廣垣さんやフワフワくんが頑張ってくれているおかげだね。
フワフワくん:服を捨てずに生まれ変わらせる。それが、ぼくたちが目指す循環型の未来なんだ。
Tシャツくん:次にみよちゃんが好きになる色は何かなあ?たとえどんな色でも、またみよちゃんの好きな色に生まれ変わって、ずっとみよちゃんと一緒にいたいなあ。
フワフワくん:Tシャツくんはみよちゃんが大好きなんだね。もちろん、いつでも助けに行くよ!
アドバイザー:村松 秀(近畿大学 総合社会学部 教授)、早岡 英介(和洋女子大学 AIライフデザイン学部 教授)
