Movie

これからヒーロー!Vol.02

体の中に病院を作っちゃう?!の巻/西山伸宏さん(東京科学大学)

#医療・医学#物理・化学#材料・産業

頭が痛くてたまらない猫田のもとに現れたのは、「ナノマシン」という名の薬。とはいえ見た目は、かごを担いで旅する古風なスタイルのご一行で、「薬らしさ」が感じられない。聞けば、かごの中には薬の姫が入っていて、姫を確実に患部に届ける能力を持った選ばれし分子たちが担ぎ手となり、姫を守りながら体の中を旅するのだという。そして将来は、病気の治療だけでなく、発見・診断する能力を持つ分子を仲間に加えて、病気を見つけては勝手に治療する、まるで体の中に病院があるようなナノマシンにレベルアップするそう。
複雑な情報に混乱する猫田。ナノマシンは治療のパワーを見せるため、猫田の口が開いた隙に体に入り込み、頭痛を治す旅に出るのであった。
数々の関門をくぐり抜け、ナノマシンはどうやって患部までたどり着くのか?!ナノマシンと体内病院の研究を紹介。

研究者:西山伸宏(東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 教授)

ヒーロー認定おめでとう!
~ナノマシンとワンのアフタートーク~

ワン:ナノマシンさん、今日は来てくれてありがとう!猫田さんの頭痛も治してもらえて助かったわ。

ナノマ:いえいえ。みんなを健康にするのが、私のミッションなので。しらずしらずのうちに、お前を健康にしてやろうか~!

ナノマシンは関所を突破する選ばれし分子の集まり
ワン:いいこと言っているのに、なぜか怖い・・・。ところで、ナノマシンさんの名前にはマシンって付いているけど、機械ではなくて薬なのよね。しかも、いろんな役割を持った分子を従えていると聞いたわ。

ナノマ:そうなんです。私は1000から1万個以上の分子が集まってできた高分子の薬です。薬が体に入ってから患部に届くまでには、通り抜けるのが難しい関所のようなところが各所にあります。私に組み込まれているのは、その関所をうまく突破する能力を備えた、選ばれし分子たち。分子たちが大切な薬を守りながら、患部に確実に届けるのです。言うなれば、天竺(患部)に向かう三蔵法師(薬)を、猿・豚・カッパ(分子)が守りながら旅をする西遊記のような・・・。

ワン:猿・豚・カッパって、急に言い方が雑ね。でも確かに護衛がいたほうが患部にきっちり届きそう。いろんな関所があるみたいだけど、どんなものがあるの?

ナノマ:例えば、脳はとても大事な組織なので、異物が入るのを厳しく取り締まっています。薬も異物と見なされて、なかなか入れません。でも脳の関所が開く瞬間があります。それは、脳を働かせるためのエネルギー源となるブドウ糖などを取り込むときです。

ワン:あ、ということはブドウ糖っぽくなれば脳に入れる?

ナノマ:そうなんです。脳に向かうナノマシンにはブドウ糖のような分子を搭載していて、脳の門番に必要な物質と思い込ませ関所を通過する方法をとっています。

ワン:なんと賢い。体の機能をうまく利用したわね。

ナノマ:患部への到達率は今までの薬よりも100倍高いです。アルツハイマーの薬などの治療に使うことが期待されています。

ワン:すごい到達率!今はまだ研究段階だけど、実現したら治療効果が期待できそうね。

ナノマ:そのほかにも、免疫細胞からの攻撃を回避するための分子とか、病気の患部に到着したことを察知して、護衛の分子を解散させて薬を放出する分子とか、いろいろな機能を持った精鋭が組み込まれています。研究者の西山 伸宏さんは病気の患部の状況や薬を到達させるルートに立ちはだかる関所の状況を細かく理解して、それを乗り越える分子を選抜して組み込むという設計を、髪の毛1本の太さの10万分の1、ウイルスと同じサイズでやっているんです。

ワン:うわっ、小さすぎてクラクラする!パーツを選定して組み合わせていくって、作り方がもはやマシンね。

体の中に病院をつくる「体内病院」
ワン:ナノマシンさんは、狙ったところに確実に薬を運んでくれるすごいお薬だけど、将来目指しているものがあるのよね。

ナノマ:はい、薬を届けて治療することに加えて、病気を検出する分子とその病気の具合を診断する分子を搭載することを目指しています。人の体の中を24時間ぐるぐるして、皆さんが気づかぬうちに病気を治していきます。よりハイパーな「お前を健康にしてやろうか~!」です。

ワン:わぁ、言い方だけ怖い。でもまるでお医者さんが常に体の中にいてくれるみたいで、健康でいられそう。これが「体内病院」という計画ね。

ナノマ:はい、体内病院の機能を搭載した私が活躍すれば、医療現場の負担も軽減できると期待されています。特に日本は今後ますます労働人口が減って、介護が必要な人口が増加していていくため、患者と医療従事者のバランスが崩れて病院の負担が大きくなる可能性が高いのです。

ワン:今の中学生や高校生が働き手の中心になる2040年には、働く人1人当たりの負担が今の1.5倍になるみたい。体内病院はどの世代にとっても必要な科学技術になりそうね。

ナノマ:西山さんたちは、病気のもとになる老化細胞を検出・診断・治療する研究にも取り組んでいます。老化の進行を遅らせることで、健康寿命を延ばす方法を考えているんです。

いつも心に好奇心、研究に向き合う西山さん
ワン:研究者の西山さんはどんどん新しい研究を進めているのね。どうして西山さんはナノマシンの研究をすることになったのかしら。

ナノマ:西山さんがナノマシンのことを知ったのは工学部の学生の時。西山さんの先生となる片岡 一則さん(東京大学 名誉教授、ナノ医療イノベーションセンター センター長)の記事がきっかけでした。機能的な分子を加えてナノマシンを組み上げるのは、工学部のものづくりを生かした作り方です。薬は薬学部が作るもの、と思っていた西山さんにとって、工学部で薬を作ることは衝撃でした。自分の作った薬を患者さんに届けて医療に貢献したい!と強く思った西山さんは、片岡さんのラボの門を叩いたそうです。

ワン:工学部のアプローチで薬も作れるというのは、確かにびっくり。新しいチャレンジで、西山さんはきっとワクワクしたでしょうね。

ナノマ:はい、西山さんは今でもワクワクしていますよ。片岡さんから教わった「越境する好奇心」という言葉をとても大事にしているんだそうです。分野を超えていろいろな人たちと協力しながら、世の中にない新しいものを生み出したい。いつもワクワクする気持ちをもって研究に取り組んでいます。

ワン:ナノマシンさんもいろんな機能を持った分子が協力していて、西山さんと一緒ね!西山さんが毎日ナノマシンさんにワクワクしちゃうなんて、ナノマシンさんってほんと魅力的なのね。

ナノマ:(ぽっ♡)

ワン:体内病院の実現は2045年の実現を目指しているそうね。新しいナノマシンさんの登場を楽しみにしているわ!


企画・制作:科学技術振興機構(JST)
アドバイザー:村松 秀(近畿大学 総合社会学部 教授)、早岡 英介(羽衣国際大学 現代社会学部 教授)