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領域紹介

「生命とは何か」という疑問に関し、様々な現象に関わる生体分子を探し当て、その機能を解析することにより、生命科学は飛躍的な発展を遂げてきました。また、2000年前後に様々なゲノムが相次いで解読され始めてから約10年以上が経過しましたが、ゲノムという分子のカタログ情報が手に入った結果、従来の個別現象の解析を踏まえて生命の基本単位である細胞の設計図を捉えようとする動きが加速しています。なかでも複数の関連分子を試験管内で反応させることにより、複製・転写・翻訳など特定の細胞内現象の部分的な再構築がすでに成功しています。このような構成的なアプローチは萌芽的ではありますが、これまでにも生体分子が高次機能を生じる仕組みについて様々な知見をもたらしており、これらの延長線上に『細胞の再構成・設計』を試みることを通じて、生命の本質に迫ろうとする機運が国内外で高まっています。そこで、本研究領域では、分子の設計から個体システムの合成まで多岐にわたる構成的アプローチによって生命の理解と幅広い応用を目指す生命科学の新潮流を対象とすることにしました。

構成的アプローチは、生体分子が織りなす分子ネットワークの定量的な理解や、分子ネットワークが機能するための十分条件の確定に真価を発揮します。またデータ収集に重点をおいた記述的アプローチから、生命システムの動的な振る舞いに関する定量的な予測とその検証に重きをおいたアプローチへの転換をもたらし、理論と実験のテンポのよいサイクルを推し進める効用があります。さらに現象の特性を定式化・定量的に表現することが求められ、それを実験的に検証することにより、対象としている生命機能と私たちの知識や理論との齟齬を明らかにします。その齟齬は新たな解析的・構成的な研究の種となり、対象となる現象の本質を深く問い、理解し、さらには自在に制御するための有効な手がかりともなります。

最近では、このような構成的アプローチを統合したより大きなテーマとして「細胞」の再構成・設計の実現性に関して国内外で真剣に議論されてきています。このような試みは、何をもって「細胞」を創ったとみなすのか、という問題を常に意識することになるため,とりもなおさず「細胞」とは何か、「生命」とは何か、という生命科学における根本問題を不断に考える営みでもあります。そのため構成的アプローチは、自然科学的観点においてだけでなく、社会や文化との関わりにおいても注目すべき広がりをもっています。 現在、合成可能なDNAの長さは指数関数的に増大しており、これまでに遺伝子サイズやウイルスサイズのDNAが完全合成され、昨年の2010年には細菌のゲノム合成が現実となっています。もしもこのままのペースでDNA合成が発展すると2015〜2020年には、ヒトのゲノムが合成されることになります。そのときに実現するであろう生命科学とはどのようなものなのでしょうか。本研究領域への参加を通じて『創る』生命科学の創造に実際に立ち会っていただければ幸いです。