二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出

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浅見チーム 中野専任研究員らの論文が Scientific Reports 誌(オンライン版)に掲載(2017/07/18)

掲載雑誌:
 Scientific Reports
 Published online Jul. 18, 2017
 DOI: 10.1038/s41598-017-06016-2
論文のタイトル:
 Evolutionarily conserved BIL4 suppresses the degradation of brassinosteroid receptor BRI1 and regulates cell elongation.
概要:
ブラシノステロイドは、植物の成長を促す上で重要な役割を果しています。しかし、非常に高価なために農業や植物バイオマスの増産に直接利用されていません。また、ブラシノステロイドが植物内でどのような「シグナル伝達」を行っているかはよく分かっておらず、基礎研究と応用研究の両面における解明が求められています。
CREST浅見チームに所属する、中野雄司 専任研究員(理化学研究所)、浅見忠男 教授(東京大学)の研究者を中心とした共同研究グループは、ブラシノステロイドの生合成を自在に制御できる阻害剤「ブラノシナゾール(Brz)」を用いたケミカルバイオロジーの手法を使い、ブラシノステロイドのシグナル伝達を活性化し、制御するタンパク質「BIL4」を発見しました。BIL4は7回膜貫通ドメイン(細胞膜を7回貫通するドメイン)を持つ膜局在性のタンパク質で、相同性タンパク質がトマトやイネ、コムギなどの植物だけでなく、ヒトやマウスなどの動物にも存在しており、進化的に広く保存されています。BIL4の細胞内での動きを調べたところ、BIL4はブラシノステロイド受容体「BRI1」と、細胞内小器官のエンドソームにおいて相互作用することが分かりました。BRI1は細胞膜に存在し、細胞外からのブラシノステロイドを感知してシグナルを細胞内に伝達する起点となり、植物の成長において非常に重要な因子であると考えられています。また、BIL4はエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた後、液胞に運ばれて分解されるという制御を受けることが近年明らかになっています。以上のことから、BIL4はBRI1の分解を防ぐ機能を持つこと、その分解抑制によってブラシノステロイドのシグナル伝達を活性化すること、さらにシグナル伝達の活性化により植物の胚軸(発芽した幼植物体の茎部分)や緑葉の細胞伸長を促す機能を持つことが明らかになりました。本成果により、植物バイオマスや有用作物の葉のサイズや草丈を自在に制御する技術の開発が進むと期待できます。
  https://www.nature.com/articles/s41598-017-06016-2

関チーム 関チームリーダーらの論文が Frontiers in Plant Science 誌(オンライン速報版)に掲載(2017/07/03)

掲載雑誌:
 Frontiers in Plant Science
 Published online Jul. 3, 2017
 DOI: 10.3389/fpls.2017.01001
論文のタイトル:
 Ethanol Enhances High-salinity Stress Tolerance by Detoxifying Reactive Oxygen Species in Arabidopsis thaliana and Rice
概要:
理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの関原明 チームリーダー、佐古香織 特別研究員、横浜市立大学 大学院生命ナノシステム科学研究科のフォン・マイ・グエン 大学院生らの研究グループは、エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見しました。
世界のかんがい農地の約20%で塩害が発生しており、作物の成長や収量に大きな被害をもたらしています。こうした塩害から植物を守る技術の開発が望まれています。本研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナとイネを用いて、エタノールが活性酸素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することを明らかにしました。本研究を発展させることによって、耐塩性を強化し作物の収量増産につながることが期待されます。
本研究は、農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の土生芳樹 ユニット長、理化学研究所 環境資源科学研究センター 発現調節研究ユニットのラムーソン・ファン・チャン ユニットリーダーと共同で行ったものです。
  http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fpls.2017.01001/full

関チーム 金研究員らの論文が Nature Plants 誌(オンライン版)に掲載(2017/06/26)

掲載雑誌:
 Nature Plants
 Published online Jun. 26, 2017
 DOI: 10.1038/nplants.2017.97
論文のタイトル:
 Acetate-mediated novel survival strategy against drought in plants
概要:
理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの金鍾明 研究員、関原明 チームリーダーらは、お酢の主成分である酢酸を与えることで植物が乾燥に強くなるメカニズムを発見しました。 従来、植物を乾燥や干ばつに強くするには、遺伝子組み換え植物の利用が主流でしたが、遺伝子組み換え技術に頼らずに、植物の乾燥耐性を強化する技術の開発が望まれていました。
本研究グループは、乾燥ストレス応答時の植物体内の代謝変化を調べ、乾燥に応答して酢酸が積極的に作り出されていることを発見しました。また、この酢酸合成開始には植物のエピジェネティック因子が活性化のスイッチとして働いていることも明らかにしました。さらに、酢酸を与えることで、さまざまな植物で乾燥耐性が強化されることや、それが傷害応答に関わる植物ホルモンであるジャスモン酸の合成とシグナル伝達を介していることを明らかにしました。遺伝子組み換え植物に頼らず、植物に酢酸を与えるだけで、急激な乾燥や干ばつに対処できる簡便・安価な農業的手法として役立つことが期待されます。
本研究は、東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 藤泰子 助教、農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の土生芳樹 ユニット長、東京理科大学 理工学部 松永幸大 教授らと共同で行ったものです。
  https://www.nature.com/articles/nplants201797

領域若手研究会を開催(2017/06/22-23)

従来さきがけ領域会議が担ってきた、CREST/さきがけ複合領域としての若手研究者育成を更に進める目的で、新たに若手研究会を京都で開催しました。CREST課題に参画している若手研究者に加えて、研究課題継続中のさきがけ研究者、研究期間終了後のさきがけ研究者、合わせて22名の研究進捗状況について口頭発表がなされ、研究総括、領域アドバイザーとともに合宿形式で議論されました。各自の研究を進める上での情報交換を含め、研究交流、ネットワーク形成が促進されました。

バイオマスエキスポ2017に出展(2017/06/07-09)

昨年度に引き続き、研究成果を広く関連産業界などにPRする活動の一環として、東京ビッグサイトで開催されたスマートコミュニティJapan2017の中の一つ「バイオマスエキスポ2017」に出展し、CREST 渡辺 隆司チームの渡辺 隆司 教授による講演とパネル展示を行いました。今回は、ALCA(先端的低炭素化技術開発)との共同出展としたことから、展示ブースには、リグニン利用技術の新しい芽を探索される方に加えて、多様なバイオマス利用技術に興味を持たれる方々が来訪され、研究者と熱心に意見交換されていました。

ファインケミカルジャパン2017に出展(2017/04/19-21)

研究成果を化学メーカー及び化成品ユーザー企業にPRするため、東京ビッグサイトで開催された「ファインケミカルジャパン2017」に出展し、CREST 磯貝明チームの磯貝明 教授による講演とポスター展示を行いました。セルロースナノファイバーは高い関心を集めており、「ファインケミカルジャパン」は今年が初開催だったにもかかわらず、連日多数の方々に来訪いただきました。

関チーム 松永教授らの論文が Scientific Reports 誌(オンライン版)に掲載(2017/04/18)

掲載雑誌:
 Scientific Reports
 Published online Apr. 18, 2017
 DOI: 10.1038/srep45894
論文のタイトル:
 Live imaging of H3K9 acetylation in plant cells
概要:
東京理科大学 理工学部 応用生物科学科 松永幸大 教授、坂本卓也 助教、栗田和貴 大学院生、理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム 関原明 チームリーダー、ケミカルゲノミクス研究グループ 吉田稔 グループディレクター、東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 木村宏 教授らの研究グループは、マウスの抗体の一部を植物細胞において発現させることで、植物のエピジェネティクス変化を生きたまま解析する方法の開発に成功しました。 植物のエピジェネティクス変化を解析するためには、生化学的手法や免疫染色法がありました。いずれの方法も、エピジェネティクス変化の代表的な指標であるヒストン修飾を認識する抗体を使用しますが、生きた植物で解析することはできませんでした。今回、本研究グループは、マウスで作成された抗体の一部に蛍光タンパク質を結合させた細胞内抗体(ミントボディ)を、タバコ培養細胞で発現させました。このミントボディに用いた抗体はヒストン修飾の1つであるアセチル化リジン残基を認識します。このミントボディの動態をライブセルイメージング、阻害剤実験、生化学実験を用いて解析しました。その結果、このミントボディは生きた植物細胞内でヒストンのアセチル化リジン残基を正常に認識していることが明らかになりました。これは、マウス由来のミントボディが植物細胞内で正常に働いたことを初めて示した報告になります。抗体を持たない植物細胞内において正常に抗体の一部が作られ、ヒストン修飾を認識したことは、新たな植物細胞研究のツールを開発したといえます。
本成果により、時間軸を考えながら植物のエピジェネティクス変化を解析することが可能になり、エピジェネティクスにより制御される植物の環境応答や環境記憶メカニズム解明が進展することが期待されます。また動物の抗体の一部を植物細胞で発現させて、生化学や細胞生物学的な研究を行うことが可能になり、植物科学や農学研究に大きく貢献することが期待されます。
  https://www.nature.com/articles/srep45894

ファインケミカルジャパン2017に出展予定(2017/04/19-21)

東京ビッグサイトで開催される「ファインケミカルジャパン2017」(2017/04/19-21)にJSTブースを出展いたします。ブースでは、CREST 磯貝明チームよるナノセルロースフィルム等の成果物とポスターを展示予定です。4/21(金)13:45-14:45には磯貝教授による講演も予定されております。ご来場をお待ちしております。
  http://www.finechemicals-japan.com/

重岡チーム 横田明穂 名誉教授らの論文が Nature Communications に掲載(2017/01/13)

掲載雑誌:
 Nature Communications
 (2017) Jan 13;8:14007
 DOI: 10.1038/ncomms14007
論文のタイトル:
 A RuBisCO-mediated novel carbon metabolism in methanogenic archaea
概要:
光合成でCO2から糖を合成する生物機能の進化的な原型を、光合成を行わない原始的な微生物に発見しました。
光合成は、太陽光、水、CO2から糖などの炭水化物や酸素を作り出す、地球上の生物が生きていく上で欠かすことのできない生物の営みです。しかし、生物が進化の過程で、光合成の能力をどのようにして獲得したのか、またその進化的な起源については不明で、長い間、科学者の興味を惹いていました。
我々は、光合成が誕生するよりも前に出現したと考えられているメタン生成菌が、光合成で働く遺伝子とよく似た遺伝子を持っていることを発見しました。これらの遺伝子から合成した酵素の解析や生体内の代謝物質を調べ、取り込まれたCO2の行方を明らかにするためのメタボローム解析を行うことで、糖などの炭水化物を合成する光合成の代謝経路とよく似た原始経路をメタン生成菌が利用していることを明らかにしました。本研究により光合成の原始的な代謝経路の一部が明らかになったことから、今後、生物進化の過程でどのように光合成システムが完成されていったのかという、これまで科学が立ち入ることができなかった進化の謎が明らかになっていくと期待されます。また、さらに光合成の進化が明らかになることで、光合成機能を高度に改良・利用することができ、食糧やバイオ燃料の増産にもつながると期待されます。
本研究は、神戸大学 蘆田弘樹 准教授を中心に、立命館大学、奈良先端科学技術大学院大学、ビルラ理工大学(インド)、大阪大学、静岡大学の研究者が共同で行ったものです。
  http://www.nature.com/articles/ncomms14007

アグリビジネス創出フェア2016に出展(2016/12/14-16)

昨年度に引き続き、研究成果を広く関連産業界などにPRする活動の一環として、東京ビッグサイトで開催された農林水産省主催の「アグリビジネス創出フェア2016」に出展し、CREST 関原明チーム、さきがけ 永野惇 研究者、中道範人 研究者、西條雄介 研究者によるパネル展示を行いました。また、会場の特設ステージにてさきがけ研究者3名による成果の紹介セミナーを行いました。加えて、本年度は、さきがけ「情報協働栽培」領域と共同で出展し、展示ブースには、化学メーカーや農業事業者に加え、植物工場関係者などが来訪され、研究者と熱心に意見交換されていました。

CREST・さきがけ合同領域会議を開催(2016/12/08-09)

CREST・さきがけ合同領域会議が東京で開催され、CREST・さきがけの実施課題の研究進捗状況が報告され、また、さきがけ終了者による研究発展状況の紹介が有り、研究総括、領域アドバイザーとともに議論されました。参加者は、概ね150名。

さきがけ勉強会(第2回環境適応システム研究会)を開催(2016/11/15-16)

植物の環境適応システムの解明と利用をターゲットとしている研究者6名が、基礎生物学研究所に集まり、研究総括とともに議論を行いました。会議終了後、研究対象としている植物の栽培管理システムを見学しました。

笠原竜四郎 研究者の論文がオンラインジャーナル Science Advances に掲載(2016/10/28)

掲載雑誌:
 Science Advances 28 Oct 2016
 Vol. 2, no. 10, e1600554
 DOI: 10.1126/sciadv.1600554
論文のタイトル:
 Pollen tube contents initiate ovule enlargement and enhance seed coat development without fertilization.
 (花粉管内容物は受精することなしに胚珠を肥大させ、種皮の形成をも開始する)
概要:
JST戦略的創造研究推進事業において、JSTの笠原竜四郎 さきがけ研究者(名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)招へい教員)らは、雄しべの花粉管の内容物(花粉管内にある液体)が、雌しべの中にある胚珠で放出されると、受精しなくても、種子を大きくする機能を持つことを発見しました。
胚珠の中にある卵細胞のもとへ精細胞を運ぶために、花粉は花粉管という輸送器官を伸ばします。この花粉管の内容物は機能を持たないと考えられていました。笠原研究者らは花粉管内容物に注目し、受精に失敗しても、胚珠の中で花粉管内容物を放出するシロイヌナズナの変異体を用いて交配実験を行いました。その結果、花粉管内容物が放出された胚珠は、受精していなくても細胞分裂し、種子を肥大させることを発見しました。それだけではなく、種皮や胚乳も形成することが分かり、「胚珠は受精しなければ肥大することはない」という植物界の常識を覆しました。 植物の生殖は花粉が雌しべに付着する受粉から始まり、花粉管誘引を経て受精に至ります。本研究は、花粉管誘引と受精の間で、花粉管内容物が作用する段階が存在することを明示する重要な発見となりました。人類が穀物を収穫して食用とするのは、主に種子の胚乳です。イネ、トウモロコシ、コムギの種子の大部分は胚乳でできています。本研究で明らかになった花粉管内容物の機能を解明し、作物に応用する技術が開発されれば、受精せずとも胚乳を形成する穀物を生産できる可能性があります。開花期に台風、高温などの悪天候や異常気象が起きる条件下では受精が高確率で失敗するので、作物の生産に甚大な被害をもたらしますが、受精に頼らないで胚乳を形成できれば、気象に左右されない穀物生産が可能になります。
  http://advances.sciencemag.org/content/2/10/e1600554

さきがけ勉強会(第3回木質系バイオマス利活用に関する研究会)を開催(2016/10/18-19)

バイオマスの利活用領域を研究対象としているさきがけ研究者6名が参加した勉強会が、JST東京本部別館で開催されました。外部の若手研究者1名に加え、領域内の植物の研究者1名も参加し、研究総括、領域アドバイザーとともに議論を行いました。さきがけ終了者が半数以上を占め、研究分野の近い研究者間のネットワークが出来てきました。

CREST/さきがけ植物領域合同シンポジウム(植物の環境適応戦略をひもとく -JST植物科学のいま-)を開催(2016/10/03-04)

昨年度、植物関連領域として発足した、CREST「植物頑健性」(田畑哲之 総括)、さきがけ「フィールド植物」(岡田清孝 総括)、さきがけ「情報協働栽培」(二宮正士 総括)の3領域と合同で「植物の環境適応戦略をひもとく -JST植物科学のいま-」と題したシンポジウムが開催されました。「CO2資源化」からはCREST 鹿内利治 研究代表者、浅見忠男 研究代表者、さきがけ 中道範人 研究者、有村慎一 研究者が成果を発表しました。一般も含め、160名程の参加があり、異なる領域の研究者による意見交換から、新たな植物研究分野が育つことが期待されます。

さきがけ勉強会(第2回植物の環境適応因子の制御に関する研究会)を開催(2016/09/08-09)

植物の環境適応因子の制御に関するさきがけ研究会が九州大学箱崎理系地区で開催され、光合成の制御や環境適応因子の解明をターゲットとしている研究者6名が研究発表とともに議論を行いました。情報交換から、共同研究に発展している事例もありました。

JSTフェア2016に出展(2016/08/25-26)

昨年度に引き続き、東京ビッグサイトで開催された「JSTフェア2016」に出展し、CREST 磯貝明チームよるナノセルロースフィルム等の成果物とパネル展示を行いました。展示ブースには、多くの企業の方などが来訪され、研究者と熱心に意見交換されていました。

さきがけ領域会議を開催(2016/06/30-07/01)

さきがけ領域会議が奈良で開催され、研究課題継続中のさきがけ研究者の研究進捗状況について、研究総括、領域アドバイザーとともに合宿形式で議論されました。また、研究期間が終了した1、2期生18名中9名からは、さきがけ研究終了後の研究の進展状況について報告があり、更にCRESTに参加している若手研究者14名もポスター発表で参加し、研究交流、ネットワーク形成が促進されました。

バイオマスエキスポ2016に出展(2016/06/15-17)

昨年度に引き続き、研究成果を広く関連産業界などにPRする活動の一環として、東京ビッグサイトで開催されたスマートコミュニティ Japan2016 の中の一つ「バイオマスエキスポ2016」に出展し、CREST 田口精一チーム、さきがけ 秋山拓也 研究者、山口有朋 研究者による講演とパネル展示を行いました。展示ブースには、バイオマス利用技術の新しい芽を探索される方などが来訪され、研究者と熱心に意見交換されていました。

田口チーム 田口教授らが平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞(2016/04/20)

受賞題目:
 ポリ乳酸完全生合成に関する研究
概要:
CREST 田口チームに所属する、田口精一 教授と松本謙一郎 准教授が、平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を共同受賞されました。本賞は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的としており、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究又は開発を行った個人又はグループに対して授与されるものです。
  http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/04/1369460.htm

岩本政雄 研究者の論文が The Plant Journal に掲載(2016/01/05)

掲載雑誌:
 The Plant Journal
 Published online January 5, 2016
 DOI: 10.1111/tpj.13117
論文のタイトル:
 MicroRNA-targeted transcription factor gene RDD1 promotes nutrient ion uptake and accumulation in rice
概要:
植物にとって肥料は必要な栄養素を供給し、生産力を強化するために欠かせません。しかし、コスト面の問題や、植物に吸収されなかった余剰肥料の流出による水質汚染の問題から、できるだけ少ない施肥での栽培が望まれています。我々は、植物の主要な栄養素(窒素、リン酸、カリウム)を含む複数の栄養素をバランスよく吸収し、蓄積を促進させるイネのRDD1遺伝子を発見しました。これまで、単独の栄養素の吸収・蓄積に関わる遺伝子は報告されていましたが、複数の栄養素の吸収・蓄積をバランス良く促進させる遺伝子は初めての発見です。人為的にRDD1遺伝子を強く働かせたイネは、特別栽培米と同等の少化成肥料栽培での収量が普通のイネと比べ最大で約2割増加しました。今後、新たな品種や栽培技術の開発により、RDD1遺伝子の機能を強化することで、少ない肥料で通常と同様の収量を得ることが可能になります。少ない肥料での栽培は、低コスト化に加え、土壌に残った余分な肥料による環境汚染を防ぐメリットがあります。
  http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.13117/full

磯貝チーム 磯貝教授らが平成27年度マルクス・ヴァレンベリ賞を受賞(2015/09/28)

概要:
磯貝チーム 磯貝教授らが平成27年度マルクス・ヴァレンベリ賞を受賞されました。本賞は森林・木材科学において、重要な基礎研究や利用技術の発展に著しい貢献となる画期的な研究開発を奨励し、促すことを目的とする「森林・木材科学分野のノーベル賞」というべき賞です。
  http://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/2015/20150330-1.html

田口チーム 柘植准教授が平成27年度高分子学会旭化成賞を受賞(2015/09/16)

受賞題目:
 微生物ポリエステルの超高分子量化と末端構造制御
概要:
CREST 田口チームに所属する、柘植丈治 准教授が微生物ポリエステルの超高分子量化と末端構造制御に関する研究において平成27年度高分子学会旭化成賞を受賞されました。本賞は45歳以下の高分子学会会員で、環境、エネルギー、バイオ、ライフサイエンス分野において高分子科学に基礎をおき、独創的かつ優れた研究業績を挙げた研究者に贈られる賞です。
  http://main.spsj.or.jp/c15/c15.php

彦坂チーム 久保田研究員らの論文がPLOS Genetics紙に掲載(2015/07/14)

掲載雑誌:
 PLOS Genetics Cell
 Published online July 14, 2015
 DOI: 10.1371/journal.pgen.1005361
論文のタイトル:
 A genome scan for genes underlying microgeographic-scale local adaptation in a wild Arabidopsis species
概要:
野生生物には大小様々な自然変異が存在し、それらをもたらす主要因の一つが生育環境に対する適応です。近年のゲノム解析技術の発展は、適応を担う遺伝子(適応遺伝子)の同定を可能にし、適応遺伝子をもちいた育種への新たな道が拓かれようとしています。CREST 彦坂チームの久保田渉誠 研究員、森長真一 助教、花田耕介 准教授、彦坂幸毅 教授らを主体とする複数の研究機関からなる共同研究グループは、シロイヌナズナに最も近縁な野生植物ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)において、複数個体の全ゲノム解析をおこない、野外環境への適応を担うことが予想される適応遺伝子を同定しました。ハクサンハタザオは、日本においては北海道から九州にかけて分布し、森林帯の林床から高山帯の風衝地までの多様な環境に生育しています。本研究では、温度環境などが急激に変化する標高差への適応を担う遺伝子を同定する事を目的に、滋賀県伊吹山・三重県藤原岳の二つの山系内の8集団とその他の4集団から採取した合計56個体を対象に、次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析をおこないました。その結果、標高適応への関与が予想される遺伝子を複数同定し、二つ山系で共通して適応に関わる事が示唆される温度応答関連遺伝子も見つかりました。本研究で開発した適応遺伝子の探索手法は他の生物種にも幅広く適用可能であり、現在は農作物に近縁な野生種における解析も進めています。これらの研究成果は、野外にみられる自然変異を活かした新たな育種法を開発する上での基盤的な研究であり、二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用へ大きく寄与することが期待されます。
  http://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1005361

笠原博幸 研究者らの論文が Plant & Cell Physiology に掲載(2015/06/14)

掲載雑誌:
 Plant & Cell Physiology
 Published online June 14, 2015
 DOI:10.1093/pcp/pcv088
論文のタイトル:
 Distinct characteristics of indole-3-acetic acid and phenylacetic acid, two common auxins in plants
 (植物に共通する2つのオーキシン、インドール-3-酢酸とフェニル酢酸の異なる性質)
概要:
オーキシンは植物の成長や形態形成で中心的な役割を果たす植物ホルモンの一種で、特に光や重力に対する植物の屈性に関与することで知られています。 そのオーキシンの中で、最初に同定されたのがインドール-3-酢酸(IAA)です。植物は細胞膜上の輸送体を使ってIAAを決まった方向へ輸送(極性輸送)しています。植物の茎が重力を感じるとIAAは重力方向へと移動し、濃度の高くなった重力側の細胞伸長を促進することで屈性を引き起こします。 本研究では、これまで生理的役割や輸送機構などが明らかにされていなかった天然オーキシンの一種フェニル酢酸(PAA)に着目し、IAAとPAAの働く仕組みや移動性の違いを調べるとともに、2,4-Dなどの合成オーキシンとの関係性 についても調べました。その結果、PAAはコケ類を含む陸上植物に広く存在しており、PAAの生理活性はIAAに比べると低いものの、IAAよりも植物に多く含まれていることを明らか にしました。また、PAAがIAAと同じ情報伝達経路でオーキシン作用を示すことや、シロイヌナズナではPAAの生合成と不活性化にIAAと同じ酵素が関与し ている可能性が高いことも分かりました。しかし、移動性について調べてみると、植物の中で作られたIAAは重力に応答して移動方向を変え、重力側に蓄積しますが、PAAはその性質を示しませんでした。また、根のオーキシン量を低下させ、重力に応答できなくなったシロイヌナズナの変異体にIAAを与えると、重力屈性を回復できましたが、PAAを与えても回復させることができませんでした。また、2,4-DもPAAと同様に重力屈性を回復できませんでした。つまり、PAAと2,4-Dは極性輸送とは異なる機構で調節されており、両者は重力による影響を受けないという似た性質を持つこと が明らかになりました。これらの結果から、植物は移動性の異なる2つのオーキシンを使って協調的に成長や形態形成を調節している可能性を新たに示しました。今後、PAAの輸送機構や生理的役割を解明することにより、さらに安全性の高い除草剤や、新しい植物成長調整剤の開発などに繋がる可能性があります。
  http://pcp.oxfordjournals.org/content/early/2015/07/08/pcp.pcv088.full

田口チーム 岩田教授が平成27年度長瀬研究振興賞を受賞(2015/04/23)

受賞題目:
 微生物産生バイオポリエステルの超高分子量化と高性能繊維化
概要:
CREST 田口チームに所属する、岩田忠久 教授が微生物産生バイオポリエステルの超高分子量化と高性能繊維化に関する研究において、平成27年度長瀬研究振興賞を受賞されました。本賞は、公益財団法人 長瀬科学技術振興財団により、わが国の生化学及び有機化学等の分野における研究開発に対し助成等を行うことにより、科学技術の振興を図り、もって社会経済の発展に寄与することを目的として創設されました。
  http://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/2015/20150430-1.html/

田口チーム 岩田教授が2014年度矢崎学術賞を受賞(2015/03/12)

受賞題目:
 高耐熱性バイオマスプラスチックの開発と応用に関する研究
概要:
CREST 田口チームに所属する、岩田忠久 教授が、高耐熱性バイオマスプラスチックの開発と応用に関する研究において2014年度矢崎学術賞を受賞されました。本賞は、公益財団法人 矢崎科学技術振興記念財団により、我が国の科学技術の振興に寄与する目的で1993年に創設され、エネルギー、新材料、情報に関する分野で、独創的で科学技術の進歩に大きく貢献した、優れた業績をあげた研究者に贈られる賞です。
  http://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/2015/20150316-1.html/

さきがけ勉強会(環境適応システム研究会)を開催(2015/03/14-15)

さきがけ勉強会(環境適応システム研究会)が東京ガーデンパレスで開催され、植物の環境適応システムの解明と利用をターゲットとしている研究者が研究総括、領域アドバイザーとともに議論を行いました。研究分野の近い研究者が、少人数で時間をかけて研究紹介・意見交換を進め、今後の研究に役立つ密度の濃い議論がなされました。

さきがけ勉強会(環境適応因子の制御による植物の機能強化に関する研究会)を開催(2015/02/23-24)

さきがけ勉強会(環境適応因子の制御による植物の機能強化に関する研究会)が科学技術振興機構東京本部で開催され、光合成の制御や環境適応因子の解明をターゲットとしている研究者が研究総括、領域アドバイザーとともに議論を行いました。また、ハイブリッド領域の特長を活かし、CREST研究者による講演と討論も進めました。更に、「藻類バイオエネルギー」研究領域の協力を得て、研究対象の近いさきがけ研究者2名に参加いただき、研究領域を超えた若手研究者の交流、ネットワーク形成を促進しました。

中野雄司 専任研究員らの論文が The Plant Cell 誌(オンライン版)に掲載(2015/02/23)

掲載雑誌:
 The Plant Cell
 Published online Feb 7, 2015
 DOI: 10.1105/tpc.114.131508
論文のタイトル:
 Formation and dissociation of BSS1 protein complex regulates plant development via brassinosteroid signaling
概要:
ステロイドホルモンは生物種に広く保存される生理活性化合物です。植物ブラシノステロイドは7種類ある植物ホルモンの1つですが、他の植物ホルモンが植物固有の物質で、かつ植物に限定的な生理活性を示すのに対し、植物ブラシノステロイドは動物や昆虫などの生物種にも類縁構造の生理活性化合物があるという特徴的な性質をもっています。ブラシノステロイドは、植物の成長に重要な役割を果たすことも知られていますが、非常に高価であり、農業や植物バイオマスの増産にはほとんど利用されていません。また、植物の中でのシグナル伝達の仕組みも詳細に明らかにされていませんでした。CREST浅見チームに所属する中野雄司専任研究員(理化学研究所)、浅見忠男教授(東京大学)の研究者を中心とした共同研究グループは、ブラシノステロイドの機能を明らかにするために、Brzというブラシノステロイドの生合成経路を阻害する化合物を、実験植物のシロイヌナズナに添加し、ケミカルバイオロジー法(化学物質を使って生命の仕組みを明らかにする手法)を用いた実験を行いました。その結果、ブラシノステロイドのシグナル伝達を抑制するBSS1タンパク質を発見しました。次に、BSS1タンパク質の細胞内における動きを調べたところ、Brzによってブラシノステロイドを欠損した状態では、BSS1タンパク質は“集合”してタンパク質の大きな塊(複合体)を作り、植物の茎の伸長を抑制することが分かりました。これに対し、ブラシノステロイドを添加した場合は、BSS1タンパク質は“拡散”してタンパク塊は消失し、茎の伸長が促進されました。さらに、ブラシノステロイドシグナル伝達のマスター転写因子であるBIL1/BZR1タンパク質が、BSS1タンパク質の“集合”によって捕捉され、“拡散”によって解放されることで、BIL1/BZR1タンパク質の細胞質から細胞核への移行が制御されるメカニズムも明らかになりました。これらの発見により、植物の草丈を自在に制御できる技術の開発が進み、植物バイオマス増産や植物への二酸化炭素固定促進のための基盤技術の開発につながると期待できます。
  http://www.plantcell.org/content/early/2015/02/13/tpc.114.131508

橘熊野 研究者の論文が Scientific Reports(オンライン版)に掲載(2015/02/23)

掲載雑誌:
 Scientific Reports
 Published online Feb 4, 2015
 DOI: 10.1038/srep08249
論文のタイトル:
 Synthesis and Verification of Biobased Terephthalic Acid from Furfural
 (フルフラールからのバイオベーステレフタル酸の合成と証明)
概要:
本研究領域では、二酸化炭素資源化を目指した基盤技術の創出を目標に掲げています。二酸化炭素資源化のためには、バイオマス資源を有用物質へと転換する技術の開発が必要です。現在、汎用プラスチックをバイオマス資源から製造しようとする試みが世界中で検討されています。化石資源由来のエチレングリコールとテレフタル酸を原料として製造されているポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)は飲料用ペットボトルや繊維材料として大量に使用されています。バイオマス資源からPET樹脂の製造例も出てきていますが、それらは「食べることができる」資源である食用バイオマス資源から製造をしているため、将来的には食料問題との競合が危惧されています。そのため、非食用バイオマス資源から製造するルートの開発が望まれます。本研究では、木材や農業廃棄物などの非食用バイオマス資源から工業的に生産されている化合物であるフルフラ ールからテレフタル酸を簡便な化学プロセスのみで合成することに成功しました。また、国際標準規格に従いテレフタル酸に含まれるバイオマス炭素含有量を測定することにより、合成したテレフタル酸が100%バイオマス由来であることを証明しました。フルフラールは、大量に生産することが可能ですが、その用途が限られていました。本研究成果の普及はフルフラールの用途拡大につながり、二酸化炭素資源化に向けて多大な貢献が期待できます。
  http://www.nature.com/srep/2015/150204/srep08249/full/srep08249.html

岩井優和 研究者の論文が Nature Plants に掲載(2015/01/20)

掲載雑誌:
 Nature Plants
 Published online Jan 19, 2015
 DOI: 10.1038/NPLANTS.2014.8
論文のタイトル:
 Light-harvesting complex Lhcb9 confers a green-alga type photosystem I supercomplex in the moss Physcomitrella patens
概要:
約30億年という長い年月の間、植物などの光合成生物は地球規模で起こるさまざまな環境変化を耐え抜き、あらゆる自然環境下で生存し続けてきました。光合成生物がどのように環境の変化に適応してきたのかを調べることで、今後、予測される環境変化にも耐えうる植物の開発を進めることができます。これまで緑藻や陸上植物の集光アンテナタンパク質について盛んに研究されてきましたが、進化的に緑藻と陸上植物の中間に位置するコケ植物の同タンパク質についてはほとんど研究が進んでいません。そこで本研究では、コケ植物特有の環境適応機構の解明を目的に、ヒメツリガネゴケ(P. patens)の集光アンテナタンパク質の解析を行いました。その結果、P. patensの葉緑体チラコイド膜には陸上植物型と緑藻型の2つの光化学系1(PSI)超複合体が存在していることが分かりました。また、P. patens特有の集光アンテナタンパク質であるLhcb9が緑藻型PSI超複合体の形成に重要であることも分かりました。系統樹解析の結果、P. patensはLhcb9の元となる遺伝子を緑藻の祖先から水平伝播によって獲得したことも示唆されました。陸上植物型と緑藻型の2つのPSI複合体を持つことが、P. patensにとってどのような意義があるかは分かっていませんが、それら2つを常に保持することで、激変する環境(陸上進出における水中と大気の狭間?)にその都度対応する必要がなかったのかもしれません。今回、P. patensの集光アンテナ調節機構もコケ植物特有のものであることが分かりました。今後、さまざまな環境変化に耐え得る植物の作製を模索する上で、多様な光合成生物の集光アンテナ調節機構を研究する必要があります。モデルにはまらない調節機構を持つ光合成生物が自然界にはまだ多く存在していることも十分に考えられます。今回のタンパク質解析はそれらを解明するための重要なアプローチの1つであり、これによって得られる情報が、生きた細胞内での光合成機能の実態解明の大きな手がかりとなります。
  http://www.nature.com/articles/nplants20148

石井大輔 特任助教および岩田忠久 教授らのポスターが International Union of Pure and Applied Chemistry にてポスター賞(次点)を受賞(2014/07/01)

ポスターのタイトル:
 バイオマス由来キシランエステル誘導体によるポリ乳酸の結晶化促進効果
概要:
CREST 田口チームに所属する、石井大輔 特任助教および岩田忠久 教授らの東京大学研究グループは、7月にタイで開催された国際純正・応用化学連合高分子部会国際会議(IUPAC MACRO2014)において「バイオマス由来キシランエステル誘導体によるポリ乳酸の結晶化促進効果」という題名で研究発表を行い、ベストポスター賞(次点)を受賞しました。本会議は化学に関する世界最大の学術団体である国際純正・応用化学連合(IUPAC)が2年に一度世界各地で開催するもので、およそ50か国の高分子に関する研究者が約1000件に及ぶ発表を行うものです。本発表は現在最も普及しているバイオマスプラスチックであるポリ乳酸の生産性向上を目的として、東大グループが新規に開発したバイオマス由来結晶核剤であるキシラン誘導体によるポリ乳酸の結晶化促進メカニズムについての研究成果を報告したものです。
  http://www.macro2014.com/

磯貝明 教授らの論文が Angewandte Chemie International Edition 誌に掲載(2014/07/01)

掲載雑誌:
 Angewandte Chemie International Edition
 Article first published online: 1 JUL 2014
 DOI:10.1002/anie.201405123
論文のタイトル:
 Aerogels with 3D Ordered Nanofiber Skeletons of Liquid-Crystalline Nanocellulose Derivatives as Tough and Transparent Insulators
概要:
エアロゲルは、高い空隙率と大きな表面積を有する多孔体であり、優れた断熱・防音・絶縁性を示します。しかし、従来のエアロゲルは非常に脆く、取り扱いが難しいという課題があります。一方、自然界の代表的な多孔体である樹木は、強靭なセルロースナノファイバーを巧みに利用して巨体を支えています。本研究では、木材からセルロースナノファイバーを単離分散し、強靭で透明なエアロゲルを形成させることに成功しました。このエアロゲルは圧縮しても割れず、折り曲げることも可能です。さらに、空気よりも低い熱伝導率を示します。このような性質のエアロゲルは、断熱窓や電子デバイス等の高性能化・省エネルギー化に寄与することが期待されます。
  http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201405123/abstract

上田貴志 研究者の論文が Current Biology(オンライン版)に掲載(2014/05/29)

掲載雑誌:
 Current Biology,
 Published online May 29, 2014
 DOI: 10.1016/j.cub.2014.05.004
論文のタイトル:
 Plant vacuolar trafficking occurs through distinctly regulated pathways
概要:
植物の液胞は、動物のリソソーム(不要物の分解を担う細胞内の構造物)や酵母の液胞と同様に、不要物の分解というはたらきを持っています。このはたらきに加え、植物の液胞はさらに、栄養分となるタンパク質や糖の貯蔵など、動物のリソソームや酵母の液胞にはない、農学的にも重要な多彩な役割を持ちます。この植物の液胞の機能は、液胞ではたらいたり、液胞内に貯蔵されたりするタンパク質が正しく輸送されることにより成り立っています。しかし、植物がさまざまなタンパク質をどのように液胞へと運んでいるのかはこれまでよく分かっていませんでした。そこで本研究では、アブラナ科のシロイヌナズナを用いて、どのような仕組みでさまざまなタンパク質が植物の液胞に運ばれているのかを調べました。その結果、植物には他の生物と共通する液胞への輸送経路に加え、植物が独自にあみ出した輸送経路が少なくとも2つ存在することが分かりました。このことから、植物は動物よりもはるかに複雑な液胞への輸送経路を進化の過程で開拓することにより、多彩で複雑な液胞の機能を獲得することができたと考えられます。タンパク質や糖の貯蔵など、ヒトの生活に密接に関わる機能を持つ植物の液胞の機能を最適化・強化することにより、今後高機能植物の開発につながることが期待されます。
  http://www.cell.com/current-biology/abstract/S0960-9822(14)00529-6

池内昌彦 教授らの論文が PNAS(オンライン 版)に掲載(2014/02/03)

掲載雑誌:
 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
 Published online before print February 3, 2014
 DOI: 10.1073/pnas.1320599111
論文のタイトル:
 Attachment of phycobilisomes in an antenna-photosystem I supercomplex of cyanobacteria
概要:
光合成は藻類や植物が太陽からの光エネルギーを使って空気中の二酸化炭素と水からエネルギーの元となる炭水化物を作る反応です。この自然界で用いられているエネルギー変換のしくみはクリーンで持続可能なエネルギーを生産できる技術であるため、そのしくみを明らかにすることは重要です。この光合成は、光を必要とする「明反応」と必要としない「暗反応」からなり、明反応は光化学系Ⅰと光化学系Ⅱの反応の組み合わせで進行します。また、光を集めるアンテナ装置がこれら2種類の光化学系に結合して、吸収した光エネルギーを効率的に2つの光化学系に伝えます。光合成は外からくる光エネルギーによって駆動されるので、複雑な光合成システムの反応を効率よく進めるには、システムを駆動するエンジンに相当するアンテナ装置や光化学系の設計が重要になります。本研究では、光合成によって二酸化炭素だけではなく、空気中の窒素を窒素化合物に変換(窒素固定)できる藻類の一種アナベナから、明反応において光エネルギーを集める役割(アンテナ装置)を果たすタンパク質の複合体(フィコビリソーム)と集めた光エネルギーを化学エネルギーに変えるタンパク質の複合体(光化学系Ⅰ超複合体)が相まって形成する超複合体を単離し、これまで知られていなかったその役割と構造を解明しました。また、この超複合体の形成に必須のタンパク質性因子も発見しました。このタンパク質性因子の発現を人為的に強化することで、光合成の反応のうち、光化学系Ⅰよる駆動を必要とする光合成生物を創り出せる可能性が示唆されました。微細藻類や植物の光合成による物質生産は、クリーンで持続可能な生産技術として非常に注目されていますが、本研究は微細藻類と植物に共通的な光合成強化の基盤として、重要な技術開発のポイントになる可能性を秘めています。
  http://www.pnas.org/content/early/2014/01/30/1320599111.abstract

岩井優和 研究者の論文が Scientific Reports(オンライン版)に掲載(2014/01/20)

掲載雑誌:
 Scientific Reports
 Published online Jan 20, 2014
 DOI: 10.1038/srep03768
論文のタイトル:
 Visualizing structural dynamics of thylakoid membranes
 (葉緑体チラコイド膜の構造ダイナミクスの可視化)
概要:
地球の環境と物質生産を支える植物の光合成反応は、植物細胞内にある葉緑体の中で行われています。これまでの電子顕微鏡観察によって、葉緑体内部にチラコイド膜と呼ばれる脂質二重膜が存在していることが知られています。またチラコイド膜が重なって存在するグラナと、一枚の層として存在するストロマラメラと呼ばれる二つの膜構造を形成していることも知られています。チラコイド膜には光合成を調節するタンパク質が多く存在しており、環境の変化に応じて、さまざまなタンパク質が相互作用しながら光合成の機能調節を行っていることが近年明らかとなりつつあります。しかし、生きたままの葉緑体の内部で、これらのタンパク質が実際にどのように振る舞い、機能しているかについて不明な点が多くあります。本研究では、ライブセルイメージング技術を用いることで、葉緑体内部のチラコイド膜ダイナミクスの可視化に挑みました。一般的な植物の葉緑体は10マイクロメートル以下の小さな細胞小器官であるため、抗生物質を投与すると細胞内に一つの巨大な葉緑体を形成するコケ植物の特徴を利用しました。まず、生きたままの植物細胞の葉緑体内部の観察を共焦点レーザー顕微鏡を用いて行いました。そして、観察された画像に含まれる非焦点ボケを画像処理によって取り除くことで、葉緑体内部のグラナとストロマラメラの二つの膜構造を識別することに成功しました。また経時的な変化を観察したところ、ストロマラメラが活発に動いている様子を生きた細胞で初めて可視化することにも成功しました。今後は光合成に関わるタンパク質がチラコイド膜の構造的ダイナミクスにどれだけ関与しているのか、また、その機能的側面について明らかにする必要があります。今回、確立した葉緑体のライブセルイメージング技術をより進化させることで、定量的で且つ動態的な変化を追跡することを目指し、光合成反応の完全理解へとつなげていきます。
  http://www.nature.com/srep/2014/140120/srep03768/full/srep03768.html

小林高範 研究者の論文が Nature Communications(オンライン版)に掲載(2013/11/20)

掲載雑誌:
 Nature Communications
 Published online Nov 20, 2013
 DOI: 10.1038/ncomms3792
論文のタイトル:
 Iron-binding haemerythrin RING ubiquitin ligases regulate plant iron responses and accumulation
 (鉄結合性ヘムエリスリン・リング型ユビキチンリガーゼが植物の鉄応答と鉄蓄積を制御する)
概要:
鉄は全ての動植物にとって生育に必須な元素の1つです。しかし世界の耕地面積の約3分の1を占める石灰質アルカリ土壌では、鉄が極めて溶けにくいために、植物は十分な量の鉄を吸収することができず、鉄欠乏となって生育が抑えられます。この問題を克服するために、植物の鉄欠乏応答を制御する分子メカニズムの解明が望まれていますが、植物の鉄欠乏シグナルと鉄センサー分子の実体は未だに明らかになっていませんでした。今回、小林高範研究者らは、鉄と結合する制御因子を探し、イネの新規タンパク質OsHRZ1、OsHRZ2 (Oryza sativa Haemerythrin motif-containing Really Interesting New Gene (RING)- and Zinc-finger protein 1、2) を発見しました。OsHRZ1、OsHRZ2 およびこれらのシロイヌナズナのホモログである BRUTUS は鉄および亜鉛と結合し、ユビキチン化活性を示しました。OsHRZ1、OsHRZ2の発現量を低下させたノックダウンイネは鉄欠乏に耐性を示し、栽培条件によらず通常のイネに比べて2-4倍程度の鉄を種子と葉に蓄積しました。このノックダウンイネの根では、鉄の吸収と利用に関わる鉄欠乏誘導性遺伝子の発現が鉄十分条件で亢進していました。以上の結果から、OsHRZ1、OsHRZ2 はイネの鉄欠乏応答と鉄蓄積を負に制御する新規制御因子であり、未だに同定されていない鉄センサー分子の候補と考えられます。この研究成果は、不良土壌における生産性向上や、可食部に鉄を多く含む作物の創製への応用が期待されます。HRZは鉄欠乏耐性と鉄蓄積の両方に効果を示すことが特徴であり、鉄欠乏が起こりやすい土地での鉄富化作物の栽培に極めて効果的であると期待されます。
  http://www.nature.com/ncomms/2013/131120/ncomms3792/full/ncomms3792.html

浅見忠男 教授らの論文が Nature Communications(オンライン版)に掲載(2013/10/17)

掲載雑誌:
 Nature Communications
 Published online Oct 17, 2013
 DOI: 10.1038/ncomms3613
論文のタイトル:
 Molecular mechanism of strigolactone perception by DWARF14
概要:
ストリゴラクトンは2008年に再発見された植物ホルモンであり、側芽の休眠を維持し枝分かれを抑える働きをもちます。また、ストリゴラクトンは、様々な根寄生雑草の種子の発芽を誘導することも知られています。特にストライガと呼ばれる根寄生雑草は、地中海沿岸やアフリカ大陸を中心に世界の多くの地域において作物に甚大な被害を及ぼしていますが、その防除法はまだ確立されていません。
ストリゴラクトンはDWARF14(D14)というタンパク質により認識されていることがこの1年ほどで次々と明らかになってきましたが、D14によるストリゴラクトンの詳細な受容機構は明らかになっていませんでした。
東京大学大学院農学生命科学研究科の浅見忠男教授の研究グループと同研究科の田之倉優教授の研究グループによる共同チームは、X線結晶構造解析と生化学的解析より、D14がストリゴラクトンを分解したのちに分解産物を再認識するというユニークな仕組みで、下流に受容シグナルを伝えることを示しました。また、ストリゴラクトンを受容したD14は、同様に枝分かれを抑える働きをもつ植物ホルモンのジベレリンの重要なシグナル伝達因子であるDELLAタンパク質と結合することも明らかにし、ジベレリンとの植物ホルモン間のクロストークを介してストリゴラクトンの枝分かれを抑える機能が発現されている可能性が示されました。本研究の成果は、作物の枝分かれをコントロールし、収量やバイオマスを増加させることによる農業生産の向上や低炭素社会の実現のため、また世界の多くの地域で甚大な被害を与えている寄生雑草からの防除のための新しい技術開発に大きく役立つものと考えられます。
  http://www.nature.com/ncomms/2013/131017/ncomms3613/full/ncomms3613.html

岩井優和 研究者の論文が Scientific Reports(オンライン版)に掲載(2013/10/03)

掲載雑誌:
 Scientific Reports
 Published online Oct 3, 2013
 DOI: 10.1038/srep02833
論文のタイトル:
 Photosystem II antenna phosphorylation-dependent protein diffusion determined by fluorescence correlation spectroscopy
 (リン酸化修飾された光化学系2集光アンテナのタンパク質拡散速度変化を蛍光相関分光法で捉えた)
概要:
葉緑体チラコイド膜に存在する光を吸収するタンパク質(LHCII)は、さまざまな光環境変化に対応するため、集めた光エネルギーの伝達経路を制御していることが知られています。吸収した光エネルギー量が過剰であった場合、光化学系2(PSII)が分解されてしまい、光合成反応が著しく低下します。これを回避するため、LHCIIは吸収した光エネルギーを安全な熱として消散させる働きを持っています。この働きの実態については未解明な部分が多いのですが、一つの役割として、LHCIIがPSIIから物理的に離れることでエネルギー伝達量を調節していることが知られています。また、LHCIIがPSIIから離れるためには、チラコイド膜に存在するStt7キナーゼによるLHCIIのリン酸化修飾が重要であることも分かっています。本研究では、LHCIIがリン酸化修飾され、PSIIから離れる際、タンパク質の拡散速度に変化があるかを調べるために、蛍光相関分光法(FCS)を用いて解析を行いました。まず、緑藻クラミドモナス野生型のStt7キナーゼの活性を薬剤によって誘導し、チラコイド膜を葉緑体から精製しました。次に、精製したチラコイド膜をガラスプレート表面に液中で吸着させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察しました。そして、チラコイド膜表面に合わせた共焦点微小体積から発するクロロフィル蛍光の強度変化を測定し、FCS解析を行いました。その結果、Stt7キナーゼの活性が高く、LHCIIがリン酸化修飾されているチラコイド膜内でのタンパク質拡散速度が通常よりも約2倍増加していることが分かりました。さらに、LHCIIをリン酸化修飾できないStt7キナーゼ欠損株を用いて同様のFCS解析を行ったところ、タンパク質拡散速度の変化は見られませんでした。これらの結果から、光環境変化に対応する際、LHCIIがリン酸化修飾されるだけでなく、それに伴うタンパク質拡散速度の変化が引き起こることで、チラコイド膜内のタンパク質の流動性が変わっていることが明らかとなりました。光エネルギー伝達の変換とチラコイド膜タンパク質の流動性との関連をFCSによって定量的に示したのは本研究が初めてです。植物の光環境変化に対応するメカニズムの実態を捉えるためには、静態的解析に加えて、動態的解析も今後は重要であることが考えられます。
  http://www.nature.com/srep/2013/131003/srep02833/full/srep02833.html

上田貴志 研究者の論文が Plant Cell(オンライン版)に掲載(2013/03/26)

掲載雑誌:
 Plant Cell
 Published online before print March 26, 2013
 DOI: http://dx.doi.org/10.1105/tpc.112.108803
論文のタイトル:
 RABA members act in distinct steps of subcellular trafficking of the FLAGELLIN SENSING 2 receptor
 (フラジェリン受容体FLS2の輸送は複数のRABA/RAB11グループにより多層的に制御される)
概要:
細胞外からの刺激は、細胞膜上に局在する様々な受容体タンパク質により受容され、細胞内へと伝達されます。バクテリアの鞭毛タンパク質を認識し、抵抗性反応を誘導する際にはたらくFLAGELLIN SENSING 2 (FLS2)も、そのような受容体タンパク質の一つです。バクテリアの鞭毛を認識すると、FLS2は細胞膜から細胞内へとエンドサイトーシスされ分解されます。しかし、その仕組みはこれまで未解明でした。我々は、FLS2の細胞内輸送機構を明らかにするため、タバコの葉の表皮細胞においてFLS2の病原菌認識に応じたエンドサイトーシスを可視化する実験系を構築しました。タバコの葉でGFPを連結したFLS2 (FLS2-GFP) を発現させ、そこに鞭毛由来の22アミノ酸からなるペプチド (flg22) を作用させると、FLS2-GFPはエンドサイトーシスにより細胞内へと取り込まれます。この過程をいくつかのオルガネラマーカーを用いて詳細に解析した結果、FLS2のエンドサイトーシスには、トランスゴルジネットワーク(植物においては初期エンドソームとしても機能する)と多胞化した後期エンドソームの、両方の性質を持つ新しいオルガネラが関わっていることが明らかとなりました。さらに、植物で特異的な多様化を果たしているRAB GTPaseの一つ、RABA/RAB11のFLS2-GFPの輸送への関与を調べたところ,3つの異なるRABAのサブグループが、FLS2の細胞膜への輸送と、細胞膜からの取り込みの双方において、それぞれ特異的なステップを制御していることが分かりました。これらの結果により、植物のRABA/RAB11がエンドサイトーシス経路で機能することことが初めて明らかになるとともに、RABA/RAB11のサブグループ間で明確な機能分化が存在することが証明されました。
  http://www.plantcell.org/content/early/2013/03/26/tpc.112.108803.abstract

中島敬二 研究者の論文が Plant J.(オンライン版)に掲載(2012/10/12)

掲載雑誌:
 The Plant Journal
 Accepted manuscript online: 12 OCT 2012
 DOI: 10.1111/tpj.12049
論文のタイトル:
 A GAL4-based targeted activation tagging system in Arabidopsis thaliana
 (GAL4を用いたシロイヌナズナの標的型アクティベーションタギングシステム)
概要:
植物の形や生理機能は、ゲノム上の約3万個の遺伝子で決まります。研究者たちは、何らかの異常を持つ変異体を探し、その原因遺伝子を突き止めることで重要な遺伝子を見つけ出します。しかし重要な遺伝子はゲノム上に重複している場合が多く、それらが同時に変異した個体は極めて低い確率でしか得られません。逆に必須遺伝子が1つの場合には、それを壊すと致死になってしまいます。我々は植物の形態形成に重要な遺伝子を効率よく見つけ出す方法を開発しました。そのカギは、ゲノム上の遺伝子の発現を根だけでランダムに活性化し、根に異常を示す変異体を探すものです。遺伝子発現の活性化による形質は、重複した遺伝子であっても優性に現れます。また、この方法で得られた変異体は根だけが異常で地上部は正常なため、種を取って変異体を確立することができます。活性化した遺伝子を見つけ出すのも比較的簡単です。私たちは、この方法で根や胚の発生に重要な遺伝子をいくつか見つけ出すことに成功しました。
  http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.12049/abstract

中道範人 研究者の論文が PNAS(オンライン版)に掲載(2012/10/01)

掲載雑誌:
 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
 Published online before print October 1, 2012
 DOI: 10.1073/pnas.1205156109
論文のタイトル:
 Transcriptional repressor PRR5 directly regulates clock-output pathways
 (転写抑制因子PRR5は直接的に時計の出力系を制御する)
概要:
概日時計は遺伝的に備わった時間維持機構で、生物が昼夜サイクルに適応することを可能としています。概日時計は主にゲノムワイドな遺伝子発現を介して、高次生命現象を昼夜サイクルに適切に同調させていますが、この制御系の実際の分子機構はほとんど分かっていません。今回私たちはシロイヌナズナの時計遺伝子回路で機能するPSEUDO-RESPONSE REGULATOR 5 (PRR5)が、直接的に時計出力系の鍵となる転写因子の発現のタイミングを制御していることを発見しました。変異型のPRR5を供与した一過的発現解析とChIP-qPCR解析により、生体内においてPRR5は自身のCCTモチーフを介してターゲットDNAに結合することが分かりました。ChIP-seq解析と転写活性化型PRR5を使った網羅的な遺伝子発現解析を組み合わせることで、PRR5の直接制御する遺伝子群が具体的に明らかになりました。PRR5のターゲット遺伝子群は、昼から夜半にかけてその発現が抑制されており、この時間はPRR9、PRR7、PRR5が存在しています。実際にPRR9、PRR7もPRR5のターゲット遺伝子を直接的に制御しうることが分かりました。PRR5のターゲット遺伝子群の中には、転写因子をコードするものがエンリッチされていました。これらの転写因子は、花成時期の制御、胚軸の伸長、そして低温ストレス応答の鍵となるものがありました。PRR9、PRR7、PRR5による直接的な鍵転写因子の制御ネットワークは、時計機構が高次生命現象を昼夜サイクルに同調させる働きの一端を担うことが考えられます。
  http://www.pnas.org/content/early/2012/09/26/1205156109.full.pdf+html

小田祥久 研究者の論文が Science(オンライン版)に掲載(2012/09/14)

掲載雑誌:
 Science 14 September 2012:
 Vol. 337 no. 6100 pp. 1333-1336
 DOI: 10.1126/science.1222597
論文のタイトル:
 Initiation of cell wall pattern by a Rho- and microtubule-driven symmetry breaking
 (Rhoと微小管が引き起こす対称性の破れによる細胞壁パターンの創始)
概要:
植物の体は細長い細胞や丸い細胞、柔らかい細胞や硬い細胞など、様々な細胞によってつくられています。このような植物細胞の性質は、細胞を包み込んでいる細胞壁の構造によって決まります。今回の研究では、植物の幹や木材の主要な構成要素である木質細胞に着目し、細胞壁の構造を決定する仕組みを明らかにしました。木質細胞の細胞壁は厚く丈夫ですが、水を通すための多数の壁孔をもった特徴的な構造になっています。まず、シロイヌナズナの木質細胞を試験管内で培養する特殊な技術を使い、木質細胞で働く遺伝子群を同定しました。これらの遺伝子の働きを詳しく調べた結果、その中の4つの遺伝子が、細胞壁を合成するための足場となる表層微小管の配列を制御することで、細胞壁の構造を決定していることが分かりました。この4つの遺伝子をタバコの葉の表皮細胞に導入したところ、表層微小管の配列が変化し、木質細胞の細胞壁と同じ構造がつくり出されました。これらの遺伝子は木質細胞以外でも発現しており、他の細胞でも同様の仕組みで細胞壁の構造が決定されていると考えられます。これらの遺伝子を利用して細胞壁の形を改良することで、生育の速い植物や、加工しやすい木質バイオマスなどを作出することが可能になると期待されます。
  http://www.sciencemag.org/content/337/6100/1333.abstract?sid=cdafb031-d9bb-43bc-9d39-02c764904a30