我が国における慢性腎不全患者は現在約17万人に達し、そのうち95%にあたる約162,000人が血液透析を行っている。血液透析は、静脈血液を体外に導き、セルロース膜や合成膜で作られた透析膜を介して透析液と接触させ、浸透圧の差によって血液中の老廃物や水分などを除去するもので、一般的に週3回、3〜5時間/回を要すため、患者の行動できる時間が制限されている。一方現行の腹膜透析は、患者自身の腹膜を透析膜の代わりに用いる透析法である。腹膜は、腹壁の内側や胃、腸などの内臓表面を広く覆う膜で、分子量により物質をふるい分けて透過させる半透膜性を有している。腹膜透析は、腹壁を通したカテーテルを用いて体外から透析液を患者の腹腔内に注入し、5〜6時間貯留した後、透析液を排出する操作を1日4〜5回繰り返し行うもので、穏やかに透析する体に優しい方法である。すなわち、腹腔内に貯留された透析液に、腹膜を介して、老廃物や余分な水分などが浸透圧差により透析液へ移行し除去されることにより行われる。
しかしながら、腹膜透析において、従来、透析液交換などの操作が煩雑であったり、腹膜炎などの感染症の恐れがあるという問題点があり、これを解決する腹膜透析システムの開発が望まれていた。
本新技術は、プログラム制御型の腹膜透析装置により、透析液の注入・排出量等を制御するとともに、腹壁貫通部には生体適合性のよいハイドロキシアパタイト製の経皮端子を備えたカテーテルとすることにより、腹膜炎など感染症の恐れを減少させた腹膜透析システムの実現を目指すものである。本腹膜透析システムは透析液を腹腔内に注入・排出する装置及び腹壁を介して体外と腹腔を結ぶ腹膜カテーテルから構成されている。
(1)プログラム制御型腹膜透析装置[日機装(株)が開発分担]
本システムの腹膜透析装置は、透析液の注入・排出の量や回数などをプログラム制御するとともに、カテーテルの開存状態を常時監視し、必要に応じてアラームにより異常を知らせる機能を持っている。このため、腹腔内での透析液の貯留時間など患者に適した任意の液交換プログラムが設定できるので、今後普及が見込まれる在宅療法への使用が期待される。(写真)
(2)ハイドロキシアパタイト製経皮端子付きカテーテル[(株)アドバンスが開発分担]
カテーテルと腹壁との接触部は、これまでシリコーン製カテーテルを腹壁に固定していたため炎症などの可能性があった。この部分をより生体適合性のよいハイドロキシアパタイト製の経皮端子にすることによって、腹壁との密着性が高まり、腹膜炎などの感染症の恐れが低減することが期待されるハイドロキシアパタイト製経皮端子付きカテーテルを開発した。(図)
本新技術による腹膜透析システムには次のような特徴がある。
This page updated on June 19, 1998
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