表面力測定装置


(背景)
望まれる表面間に働く相互作用の定量的かつ簡便な測定技術

 材料表面処理や機能性材料の薄膜化あるいは分子レベルでの積層による材料創製などの材料開発や物性に関わる様々な分野において表面における原子・分子の状態を高精度で測定、制御することが必要となってきている。そのためには、表面間の相互作用や表面原子や吸着分子、溶媒等と表面との相互作用等を評価することが重要である。
 表面力は、物質表面間の相互作用の総称であり、表面電荷による斥力や引力、ファンデルワールス力、表面分子の立体構造による斥力などがある。表面力は表面の組成や構造、状態、及び表面間に存在する媒質に依存することから、これを測定することにより複雑な系の表面構造や表面に限定した物性、表面間を満たしている媒質と表面との相互作用など表面・界面の解析が可能となる。
 表面力の測定は、対向する2試料の表面間の距離を順次変えながら、試料を保持しているカンチレバーのたわみを検出することにより行っている。従来の表面力測定装置では、透明かつ平滑な面を有する雲母表面若しくは雲母基板の上に作製した試料表面を用い、基板の一方を支持しているステンレス製のカンチレバーを上下動させながら、そのたわみを検出することにより、表面間に働く力を測定している。
 この装置では、カンチレバーを駆動するために主として直流モータを用いており、手動で速度を制御していることや電源電圧の変動や抵抗値の温度変化などの不安定要因が多く、また、駆動速度を精密に制御することができなかった。このため、カンチレバーを任意の速度で動かす動的な条件で表面力を測定することが困難であった。一方測定系では、表面力によるカンチレバーのたわみ量を検出するために、試料を透過してくる光の干渉を利用しており、透明な試料しか使用できない、あるいは距離測定を目視で行っていることより自動化が難しい等の問題点がある。また、一回の測定に数十分程度かかり、温度を精密に制御した測定が難しく、測定条件に関する制限も大きかった。
 このように、従来の駆動方法及び表面力検出方法では、迅速な測定や測定の自動化が困難であり、また試料を含む測定条件への制限が大きく、十分な経験がないと利用するのが難しい測定装置であった。

(内容)
パルスモータ駆動とバイモルフカンチレバー等の利用により、不透明試料の測定や動的測定等様々な条件での自動測定が可能

 本表面力測定装置では、駆動用にパルスモータを使用し、差動バネ機構と組み合わせることにより位置精度が高く、また入力パルス数あるいは周波数でモータを制御することから、高精度かつ自動化した駆動制御が容易である。そのことからカンチレバーを一定速度で動かすあるいは振動させるといった動的な測定が可能となる。また、たわみ量に応じて電荷が発生するバイモルフをカンチレバーに用い、その発生電荷を検出する等の手法により、実際の表面間距離を試料間の光干渉法により常に測定しなくても表面力を測定することが可能になる。これにより、金属や透明度の低いプラスチックなど不透明試料が扱えるようになるとともに、一回の測定に要する時間が短縮され、動的な表面力測定にも有利である。さらに、短時間で測定を行えるようになることにより、温度の制御が容易になり、表面力の温度依存性を測定することも可能となる。このように本装置は、短時間での測定を高精度かつ自動的に行えることから、動的測定や温度依存性など種々の表面力測定が可能となるとともに、幅広い試料を扱えるようになるものである。

(効果)
表面、界面物性の測定及び表面・界面が関わる現象の機構解明等への利用

本新技術による表面力測定装置は、

(1)
表面力の動的測定が可能である。
(2)
不透明な試料を利用でき、広範囲な試料の測定が可能である。
(3)
測定の自動化が可能である。

などの特徴を有し、

(1)
表面、界面物性の測定及び表面・界面が関わる現象の機構解明
(2)
修飾された表面を利用した分子レベルでの相互作用、構造等の測定、評価
(3)
表面を制御した機能性材料や界面活性剤、潤滑油等の評価

などに利用されることが期待される。


This page updated on April 20, 1998

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