<用語解説>

注1 磁気単極子
電磁気学では、電場を作り出す単電荷は存在するが、磁場を作り出す単磁化、つまり磁気単極子は存在しない。つまり磁場は電流により作られるので、常に磁気双極子が現われる。1931年P.M.A.Diracは磁気単極子の存在を仮定し、量子力学と組み合わせて電荷の量子化を論じた。磁気単極子は現在までのところ実空間では観測されていないが、量子力学におけるベリー位相(下記参照)と関連してパラメーター空間で現われることが指摘されてきた。今回の研究では、波数空間がこのパラメーター空間に対応する。
(ベリー位相)
電子状態はいくつかの実数のパラメーターによって決定される。また量子力学的波動関数の位相は、このパラメーターの変化に伴い変化する。この位相の変化は、パラメーターを座標とする空間において、幾何学的に決定されることをM.V.Berryが1984年に発見し、「ベリー位相」と呼ばれている。結晶中の電子波動関数のベリー位相は、電子の重心運動と密接に関連している。
注2 波数空間・運動量空間
結晶中の電子は量子力学によると基本的には平面波の形を持ち、その進行方向を向き大きさを(は波長)とするベクトルで特徴づけられる(ブロッホの定理)。これを波数ベクトルと呼び、その空間を波数空間という。波数ベクトル毎に波動関数が対応する。
注3 波動関数
20世紀初頭に、粒子は波としての性質を同時に併せ持つという量子力学が建設され、ミクロな粒子は全てその法則に従うことが知られている。量子力学では、波動関数という複素数の関数を用いて粒子を記述するために位相の自由度が発生する。複素数と位相に関しては下記参照
(複素数と位相)
2つの実数x,yからとなるような虚数単位を用いて z = x + y という数を作りこれを複素数と呼ぶ。(x,y)を2次元座標とする平面(複素平面)を考え、原点から点(x,y)を見込む角度を複素数zの位相と呼ぶ。(図3)
注4 異常ホール効果
試料に電場と磁場を互いに垂直方向に印加したとき、両者に垂直な向きの電圧が発生する。これをホール効果とよぶ。金属強磁性体の場合には、磁化がある方向に揃うと磁場を印加せずともホール効果が発生し、これを異常ホール効果と呼んでいる。
注5 第一原理計算
特殊なモデルをいっさい用いず、量子力学の基礎方程式であるシュレディンガー方程式を直接解いて電子状態などを計算すること。
注6 ゲージ場
現代物理学における基礎理論は場の量子論と呼ばれるもので、その中でも局所的な座標変換に対して不変性を持つ理論が最も基本的であると考えられている。これらを総称してゲージ場理論と呼ぶ。その最初の例は電磁場であり、磁場や電場はゲージ場として捉えることが出来る。波動関数のベリー位相からもゲージ場を作ることができ、それが横伝導度と関係していることが知られている。
注7 スピン・軌道相互作用
相対性理論を考慮にいれた量子力学によると、電子の重心運動(軌道運動)と自転運動(スピン)の間には関係があることが導かれスピン・軌道相互作用と呼ばれる。この相互作用はバンド構造にベリー位相を与える。

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This page updated on October 3, 2003

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