【補足説明】


 われわれは、ショウジョウバエで真菌感染に対する生体防御に必須の役割を果たすTollの哺乳類のホモログToll様受容体(TLR)の生理機能を、ノックアウトマウスを作製することにより解析してきた。その結果、TLR2, TLR4, TLR5, TLR9が、それぞれリポタンパク質、リポ多糖、鞭毛タンパク質(フラジェリン)、微生物DNAを特異的に認識することを明らかにしてきた。また、TLR1, TLR6は、TLR2と会合してリポタンパク質のリピッド構造の些細な相違を識別することを明らかにした。このように、Toll様受容体(TLR)が、病原体の構成成分を特異的に認識し、自然免疫系が活性化される。また上記の細菌を中心とした病原体の構成成分だけでなく、TLR4はウイルス由来のタンパク質、TLR3はウイルス由来の二本鎖RNAの認識に関与している。さらに病原体の構成成分だけでなく、自然免疫系の活性化作用を持ち、ウィルス感染症の治療薬として応用されている合成化合物イミダゾキノリンの認識にTLR7が関与していることを明らかにした。このことは、TLRを介した自然免疫系の活性制御が、各種感染症の治療応用にもつながることを示唆している。自然免疫系の活性化の理解のためには、TLRを介した細胞内シグナル伝達を理解することが必要である。われわれは、TLRの細胞質内領域(TIRドメイン)と相同性の高い領域を有する分子MyD88の生理機能を、ノックアウトマウスを作製することにより明らかにした。MyD88ノックアウトマウスでは、TLRが認識する全ての病原体の構成成分に対する炎症性サイトカインの産生が認められないことから、全てのTLRに共通のアダプター分子であることを見出した。しかしながら、MyD88非存在下でも、TLR3やTLR4刺激では、転写因子であるNF-κBやIRF-3が活性化され、I型インターフェロンの発現が誘導されてくることを明らかにしてきた。このように、TLRを介した細胞内シグナル伝達には、MyD88を介した全てのTLRに共通の炎症性サイトカインの産生に必須のシグナル経路と、MyD88を介さないI型インターフェロンの産生に関与するシグナル経路が存在することが示唆された。

 そこで、MyD88以外のTLRを介した細胞内シグナル伝達に関与する分子の検索が行われ、第二のTIRドメインを持つアダプターとしてTIRAPが同定された。そしてわれわれは、TIRAPノックアウトマウスの解析から、TIRAPがTLR2, TLR4を介した細胞内シグナル伝達に特異的に関与していることを明らかにした。この結果は、TIRドメインを持つアダプターがTLRを介したシグナル伝達の特異性を規定していることを示唆している。そこで、われわれは他にTIRドメインを持つアダプターを検索し、第三のアダプターとしてTRIFを同定した。培養細胞を用いた実験からTRIFがI型インターフェロンの発現に関与していることが予想された。

 今回われわれは、TRIFノックアウトマウスを作製して、その生理機能を解析した。その結果、TRIFがTLR3, TLR4を介したMyD88を介さない経路、すなわちウイルス認識によるI型インターフェロンの発現誘導に必須の役割を果たすアダプターであることを明らかにした。さらにTRIFとMyD88のダブルノックアウトマウスでは、TLR刺激によるNF-κBやMAPキナーゼの活性化が全く認められなくなることから、両アダプターがTLRを介したシグナル伝達に主要な役割をそれぞれ果たしていることが明らかになった。
 さらにTLR4刺激による炎症性サイトカイン産生は、MyD88ノックアウトマウスでも、TRIFノックアウトマウスでも認められなくなる。各TLR刺激による炎症性サイトカイン産生は、MyD88を介したシグナルが必須であるが、TLR4刺激では、TRIFを介した(MyD88を介さない)シグナルの活性化も必要であることが示唆されている。

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