平成15年5月1日 埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)226-5606(総務部広報室) URL http://www.jst.go.jp/ |
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運動ニューロン病は、神経変性疾患であり、骨格筋を支配している運動ニューロン(神経細胞)に原因があって筋肉が萎縮してくるものを指す。ヒトの運動ニューロン病としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)などが知られている。例えば、筋萎縮性側索硬化症では、筋力が低下して腕や足が上がらなくなり、呼吸筋の筋力が低下し呼吸が困難になる他、言語障害などの症状が見られる。現在、さまざまな研究が行われているが発症の仕組みについては、よくわかっていない。今回の研究では、マウスを使った実験から、モーターたんぱく質(※1)のひとつであるダイニンの変異が、運動ニューロン病の原因となりうることが示された。 ダイニンはモーターたんぱく質として様々な細胞運動を担っており、べん毛運動や神経細胞の軸索内のたんぱく質を輸送する役割を持つ。生体内では、細胞で作られたたんぱく質を遠く離れた末端神経へ運び、逆に末端から細胞へ運ぶといった物質の輸送を行う必要があり、これは軸索輸送(図1)と呼ばれ、ダイニンが輸送の役割の一部を担っている。 今回、イギリスの国立神経外科病院神経学研究所と平岡研究チームとの合同チームによる実験では、ダイニンの特定のアミノ酸に変異を持つマウスが、ヒトの運動ニューロン病に類似の進行性の神経変性を示すことを確認した。このアミノ酸変異は一つのフェニルアラニンがチロシンに置き換わったものである。ダイニン変異を持つマウスでは、発生過程で大半の神経細胞が死滅する。このようなマウスに残存するニューロンを観察すると、細胞内顆粒の異常な蓄積が見られ、軸索輸送に異常があることが示唆された。実際に蛍光マーカーを用いて軸索輸送を観察した結果、速く移動するものが少なくなり、停止しているものが顕著に増加していた。これにより、軸索輸送に阻害があることが示された。ダイニンのアミノ酸配列は、酵母からヒトまで進化的によく保存されているので、マウスに見られたものと同じ変異を、分裂酵母のダイニンに対しても導入し、体細胞分裂や減数分裂過程に障害が出るかどうかを観察したところ、通常の細胞内での働き(体細胞分裂や減数分裂における核運動や染色体分離運動など)には支障がなかった。つまり、ダイニン変異が神経細胞特異的な働きのみに異常をきたし、細胞分裂には影響しないことから、発生過程での神経細胞の死滅が、細胞分裂の異常によるものではなく、ニューロン細胞内の輸送阻害が直接に運動ニューロンの変性を起こすことが示された。 本研究成果により、運動ニューロン病の原因遺伝子の一つとしてダイニンが特定されたことから、ダイニンの遺伝子に着目することによって運動ニューロン病の診断が可能になる。また、発症前にダイニン遺伝子の変異を検出して、発症を未然に防ぐテーラーメード医療にも道を開くことが期待される。 | |
(※1)モーターたんぱく質 …ATPのエネルギーを運動エネルギーに変える機能を持つたんぱく質。筋肉の収縮や原形質流動、べん毛運動などに活躍する。ダイニンの他にミオシンやキネシンなどがある。 | |
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。 研究領域:ゲノムの構造と機能(研究統括:大石 道夫(財)かずさDNA研究所 所長) 研究期間:平成11年度~平成16年度 |
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森本 茂雄(もりもと しげお) 科学技術振興事業団 研究推進部 研究第一課 〒332-0012 川口市本町4-1-8 TEL:048‐226‐5635 FAX:048‐226‐1164 ******************************************************** |