戦略的創造研究推進事業における研究成果について
「マメ科植物と根粒菌の共生のバランスを維持する遺伝子の同定」
科学技術振興事業団(理事長:沖村憲樹)が、戦略的創造研究推進事業の一環として進めてきた研究テーマ「ミヤコグサで開く根粒共生系の分子遺伝学」(「素過程と連携」研究領域 研究者:川口正代司 新潟大学理学部 助教授)において、マメ科植物と、植物の窒素栄養源の固定・供給に重要な役割を担う根粒菌との共生系に関与する遺伝子が同定された。
本研究の成果は、植物と微生物との共生系に大きな知見をもたらし、今後、マメ科植物以外へ応用することで、化学肥料の削減、河川の富栄養化の防止、緑化の増進等、食料問題や環境汚染対策等にも大きく貢献することが期待される。
本研究の成果は、科学雑誌「nature」での発表に先行して、11月7日(木)午前4時に インターネット版 nature (www.nature.com/nature)の Advance Online Publication(AOL)上にて、事前公開される。
「共生」とは、異種の生物がお互いに利益を交換して共存する様式であり、両者のデリケートなバランスの上に成り立っている。共生のこのバランスが崩れると、「共生」は「寄生」へと転化する。しかしながら、この紙一重的なバランスを維持するメカニズム、あるいはバランスを安定化させるシステムについてはほとんど明らかにされていない。
マメ科植物は、根粒菌と共生し、空中窒素の固定を行うことで、効率よく栄養の吸収を行っている。この共生のバランスを維持する制御システム「オートレギュレーション(自動調節)」は、根粒菌の感染を受けて根粒からシュート(植物の地上部)に送られる「感染シグナル」と、シュートから根に送られ、過剰な根粒の形成を抑える「オートレギュレーションシグナル」の相互作用により成り立っている(補足説明資料 図1参照)。今回、このプロセスを仲介し、共生系のバランスを維持する鍵遺伝子を、ミヤコグサの超根粒着生変異体har1よりクローニングすることに成功した。
共生系の鍵遺伝子HAR1がコードするタンパク質は、根からシュートへ送られる根粒菌による「感染シグナル」の認識機能を有すると考えられる。HAR1遺伝子の配列をゲノムデータベースで解析した結果、シロイヌナズナの茎先端の細胞分裂を制御しているCLAVATA1(CLV1)遺伝子と最も高い相同性が見いだされた(補足説明資料 図2参照)。このことは、マメ科植物と根粒菌との共進化の過程で、マメ科植物が有していたCLV1ホモログに新たな機能が付与された結果、HAR1となった可能性を示すものである。また、根、茎、および葉などミヤコグサの各器官におけるHAR1遺伝子の発現解析を行ったところ、全身的に発現していることが確認された。
本研究より、マメ科植物は、HAR1を介して、根粒菌との共生のバランスを全身で感じて制御していることが明らかとなった。また、本研究の成果は、植物と微生物との共生系に大きな知見をもたらし、今後、非マメ科植物に応用することで、化学肥料の削減、河川の富栄養化の防止、緑化の増進等、食料問題や環境汚染対策等にも大きく貢献することが期待される。
なお本研究は科学技術振興調整費により継続して行われている。
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