新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
さきがけプログラム
  研究領域「認識と形成」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
川口 義弥 京都大学 大学院医学研究科 助手 ptf1a遺伝子導入による異所性膵組織誘導の機構解明 本研究では糖尿病に対する未来型医療として、インスリン産生細胞の再生をめざします。これまでpdx1陽性原始腸管細胞から膵、十二指腸の幹細胞への分化の過程でptf1a(PTF1-p48)が運命選択を行っていることを明らかにしました。今後臨床応用可能な方向性を模索する目的で、非増殖型アデノウイルスを用いた一過性ptf1a遺伝子導入により膵原基以外のpdx1陽性領域である胃前庭部、十二指腸の細胞のインスリン産生細胞への分化誘導を目指します。
川崎 能彦 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 助手 神経軸索側枝の形成機構 脳の神経回路の多くは、神経軸索の枝分かれ(軸索側枝)を介して形成されます。しかし、軸索側枝の形成がどのように制御されているのかは未知のままです。本研究では、マウスの嗅球-終脳神経回路をモデルとして、軸索側枝の形成機構を明らかにすることを目指します。特に、軸索側枝の形成期に主軸索上に生じる瘤状の構造に注目して、解析を行います。
中邨 智之 University of California Institute of Molecular Medicine Assistant Project Scientist 弾性線維の形成と再生の分子機構 弾性線維は、伸縮する組織、たとえば皮膚・肺・動脈などに多くあってその弾性を担っています。DANCEという分泌タンパクが欠損しているマウスを作成したところ、弾性線維の形成異常のため皮膚のたるみ・肺気腫・動脈の硬化と蛇行といった、老人のような表現型をしていました。本研究ではDANCEがなぜ弾性線維形成に必須なのかを明らかにし、よくわかっていなかった弾性線維形成機構の理解を進めることを目指します。
西中村 隆一 東京大学 医科学研究所 客員助教授 腎臓発生の分子生物学的解析とその応用 カエル腎管に発現する新規核内因子Xsal-3を単離し、さらにマウスSall1を単離しました。10個のzinc フィンガーを持つSall1は後腎間葉に発現し、かつこのノックアウトマウスは腎臓を完全に欠損すること、その異常は後腎発生の極めて初期の段階で生じることを見いだしました。本研究では、Sall1を中心として腎臓発生の分子機構を解明すると同時に、その応用を目指します。
服部 光治 東京大学 医科学研究所 助手 神経細胞のダイナミクスにおける情報統合機構 神経細胞は、細胞外からの様々な情報を認識して、その情報を統合し、自らの運動や形作りを決定します。本研究では情報統合機構としての細胞内カルシウム濃度変化を、最新のリアルタイムカルシウムイメージング法及び遺伝子導入法、さらに遺伝子改変マウスなどを駆使して、細胞内カルシウム放出チャネルという視点から解析します。
松田 勝 科学技術振興事業団 CREST 研究員 メダカ未分化生殖腺の精巣への分化のしくみ 相同に見える未分化生殖腺は精巣もしくは卵巣へと分化しますが、そのしくみは哺乳類においても不明です。最近、哺乳類以外の脊椎動物として初めて性決定遺伝子を同定できたメダカは、生殖腺の性分化の研究に最適なモデル生物です。本研究では、分子生物学的手法に加え性転換や突然変異体を駆使して、性決定遺伝子に始まる精巣分化の遺伝子カスケードを明らかにすることで、未分化生殖腺が精巣へ分化するしくみの解明を目指します。
柳 茂 神戸大学 大学院医学系研究科 助教授 神経回路網形成の分子情報伝達システムの解明 神経発生過程において分化した神経細胞は、軸索を進展し、反発因子セマフォリンなどの標識分子の認識を続けることにより、最終的に特異的な標的を探し当て、シナプスを形成します。本研究ではセマフォリンのシグナル伝達機構における微小管のダイナミクスに主眼を置きながら、神経ガイダンスに関与する分子の同定と機能解析を行い、神経回路網形成の分子情報伝達システムの解明を目指します。
吉崎 悟朗 東京水産大学 資源育成学科 助手 培養系での魚類始原生殖細胞からの個体創生技術の確立 in vitroで培養している細胞から魚類個体が作出できれば、相同遺伝子組換え等を利用した種々の遺伝子改変個体を作出することが可能になります。始原生殖細胞は性が分化する以前の生殖幹細胞であり、卵や精子に分化した後、受精を介して個体へと改変されます。本研究ではニジマスから単離した始原生殖細胞を用いて、その長期間培養法を開発します。さらに、得られた培養細胞を宿主個体に移植することで卵や精子に改変し、培養始原生殖細胞に由来する個体の作出を目指します。
渡邊 直樹 京都大学 大学院医学研究科 助教授 細胞運動制御の単分子スペックル法による総括的解析 アクチン重合は細胞運動のための重要な起動力の1つです。私が開発した単分子スペックル法により、細胞辺縁のアクチンが先端から離れた起点より盛んに重合し、数秒以内に脱重合を開始することが解明されました。この単分子スペックル法をアクチン関連分子にも応用することで、細胞伸展におけるアクチン重合、分解の各経路の役割を明らかにします。生命科学が未だ不得意とする「生体内で分子過程そのものを観る」ことを目指します。

総評 : 研究総括  江口 吾朗(熊本大学長)
 この領域は平成12年度から発足し、本年度は第三年次に当たる最終募集年度となる。生物は内的あるいは外的要因を認識してフレキシブルに形作りを営み、また部分的欠損を自ら修復しようとする。このような生物固有の能力に注目し、遺伝子、分子、細胞等、生物の構成要素の機能に基礎を求めて、“かたちの形成とかたちの修復”の問題を強く意識したチャレンジングな研究課題を期待して募集したところ、国公立大学を中心に106件の応募があった。
 106件の提案課題を9名の領域アドバイザーの協力のもと書類選考を行い、47名の上位候補者を選考した。ついでこの47課題について、各課題ごとに研究者の主体性と研究能力、研究内容および計画の独創性、新規性、発展性等に十分な検討を加え、24名の面接対象者を選定した。面接選考において、本領域が目標とする上記研究目的に合致した課題の発掘に心がけつつ、従来の研究状況と成果、研究計画およびその実施方法等を直接聴取し、神経の形成に関わる3課題、臓器・器官再生医療に関わる3課題、食糧の増産に関わる2課題、および新しい研究領域の創製に関わる1課題、合計9課題を選定した。
 これらは、独創的で、チャレンジングな新しい研究領域の創生、再生医療、難治性疾患の治療、食糧の増産等に将来つながり、社会への貢献が期待できる基礎研究課題である。

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This page updated on October 31, 2002

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