科学技術振興事業団報 第248号
平成14年8月22日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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耐摩耗性や耐放射線性を大幅に向上させたフッ素樹脂の開発に成功

(科学技術振興事業団 委託開発事業)

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)は、日本原子力研究所 特別研究員 瀬口 忠男氏らの研究成果である「電子線照射による高機能フッ素樹脂の製造技術」を当事業団の委託開発事業の課題として、平成9年3月から平成14年3月にかけて日立電線株式会社(取締役社長 原精二、本社 東京都千代田区大手町1-6-1、資本金259億5千万円、電話:03-5252-3261)に委託して開発を進めていた(開発費約5億4千万円)が、このほど本開発を成功と認定した。

(開発の背景)
 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、潤滑性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れたフッ素樹脂であり、摺動部材、シール部品等として広い範囲で使用されている。しかし、耐摩耗性が不十分であり、摩耗屑の少ないクリーンな環境が要求される半導体製造装置等においては、より高性能の材料がもとめられてきた。

(開発の内容)
 本新技術は、電子線等を照射してPTFE分子間を架橋し性能向上を図った材料に関するものである。

(開発の効果)
 本新技術で開発した架橋PTFEは、PTFE本来の特長を保ちつつ、課題となっていた耐摩耗性や耐クリープ性、更に耐放射線性を大幅に向上させた材料である。摩耗屑の少ないクリーンな環境が要求される半導体や食品、医療分野、耐放射線性が要求される宇宙分野等へ適用されることが期待される。

 本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。


(背景)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は耐摩耗性が不十分であり、より高性能の材料がもとめられてきた。

 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、滑り性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性等に優れたフッ素樹脂であり、パッキン、ガスケット、被覆材料、軸受けに代表される摺動部材、シール部品、半導体製造装置部品として広い範囲で使用されている。しかし、使用分野によっては耐摩耗性が不十分であり、より高性能の材料がもとめられてきた。
 PTFEの架橋に関して分子間架橋により性能が改善することが一般に知られており、これまで種々の方法について検討が行われてきた。PTFEが化学構造上安定であること、融点が高いこと、及び僅かな電離性放射線でも分解がおこること等からこれまで架橋はできなかった。

(内容)
PTFEを安定的に架橋する条件を確立し、架橋PTFEを工業的に製造することが可能となった。

 本新技術は、PTFEを融点以上となる340±5℃の範囲で溶融状態に保持し、酸素のない雰囲気下で電子線等を照射してPTFE分子間を架橋させる技術に関するものである。
 今回の開発では、これを実現する方法として、まず、原料である粉末のPTFEを融点調整のために熱処理し、この結果おこし状となったPTFEに、窒素で充填された恒温室内で電子線を照射した。架橋されたおこし状PTFEは粉砕して粉末の製品とした。これを高温でプレスして素形材を作った。架橋前のPTFEに比べて摩耗量については約1万分の1、クリープ残留変形量については約4分の1という、耐摩耗性、耐クリープ性の大幅な向上が確認出来た。
 なお、シートについては、PTFE製シートを窒素で充填され温度制御された電子線照射部を通過させ、巻き上げることにより連続的に架橋PTFEシートを製造した。

(効果)
PTFEの特長を保ちつつ、耐摩耗性等が改善された材料として諸分野での利用が期待される。

 本新技術で開発した架橋PTFEは、PTFE本来の特長である滑り性や耐熱性を保ちつつ、課題となっていた耐摩耗性や耐クリープ性、更に耐放射線性を大幅に向上させた材料である。架橋PTFEの新たな特長を活用することにより、摩耗屑の少ないクリーンな環境が要求される半導体や食品、医療分野、耐放射線が要求される宇宙分野等、各種分野へ適用されることが期待される。


・開発を終了した課題の評価
・図1架橋PTFEの製造プロセス
・写真1開発品形状

(注)この発表についての問い合わせ先は以下の通りです。
科学技術振興事業団 開発部第二課 日江井純一郎、菊地 昭
[電話(03) 5214-8995]
日立電線株式会社 総務部公報グループ 小圷 光(コアクツ ヒカル)
[電話(03)-5252-3261]


This page updated on August 22, 2002

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