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「細胞膜のコンパートメント構造を発見」 |
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細胞膜は、この30年以上、2次元の液体状の構造を持つと考えられてきた。その中で分子が動き回り、それによって、情報伝達などが起こると考えられてきたのである。しかし、細胞膜は、細胞外から来た刺激を受け取った位置にシグナル分子をとどめて記憶したり、細胞膜上で分子を集めて働かせたりする仕組みも持っている。これらは、細胞膜が単純な液体であるとすると不可能なはずである。 このため長年に渡り、細胞膜がどのような構造を持っているのかといった疑問の解明が求められていた。
科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の創造科学技術推進事業の研究プロジェクト「楠見膜組織能プロジェクト」 (総括責任者 楠見 明弘、名古屋大学大学院理学研究科教授) の藤原敬宏研究員らの研究グループは、名古屋大学大学院理学研究科と協力して細胞膜自体が微細なコンパートメント構造に仕切られていることを世界で初めて解明した。本成果は6月10日発行の「ジャーナル・オブ・セルバイオロジー(細胞生物学雑誌)」(ロックフェラー大学出版会発行)に発表される。 藤原研究員らは、細胞膜を作る基本分子であるリン脂質の運動を、1分子毎に、ナノメートルレベルの空間精度で、しかも、1秒間に4万コマという世界最高速での光学顕微鏡像として撮影することに世界で初めて成功し、これによって、細胞膜は、すべての分子に対して、直径30-200ナノメートルの微細なコンパートメントに仕切られていること、しかもリン脂質はコンパートメント間を2-20ミリ秒に1回の頻度で飛び移る (ホップする) ことによって長距離の移動をおこなうことをつきとめた (左図)。さらに、細胞膜直下にある膜骨格という構造に結合した多数の膜タンパク質が、ピケライン(注1)のように膜内に立ち並ぶため、液体の細胞膜中に仕切りができ、膜がコンパートメント化されることも発見した(右図)。これらのピケラインの制御によって、受容体などの膜分子を集合させたり、それらの運動を抑制したりするらしい。 それでも細胞膜が働くためには、分子のカオス的な熱運動(ブラウン運動)は不可欠である。そこに仕切りによる制御がはいり、ランダムさと秩序の両方が膜に組み込まれて、両者がうまくバランスして膜の働きと調節をおこなっているという描像も見えてきた。
ナノスケールの微小なナノマシンや人工細胞を設計する上では、熱運動をいかに制御し、いかに利用するかが重要な課題である。生物が、この研究で見出されたようなコンパートメント構造を利用して膜に存在する分子の運動や局在を制御している方法の解明が進むことで、ナノスケールの分子部品群を制御してナノマシン・人工細胞を組み上げる技術確立に向けた重要な指針となるであろう。
(注1) ピケライン 杭(フランス語でピケ)が列状に並んだ状態。膜骨格にアンカーされ た膜貫通型タンパク質の外観が、あたかも杭が整列したように観察さ れるため、ピケラインと表現している。 本研究テーマが含まれる研究プロジェクト、研究期間は以下の通りである。 研究プロジェクト:楠見膜組織能プロジェクト (総括責任者:楠見 明弘 名古屋大学大学院理学研究科教授) 研究期間:平成10年度~平成15年度 ************************************************** 本件問い合わせ先: 小林 剛(こばやし たけし) 楠見膜組織能プロジェクト 技術参事 〒460-0012 愛知県名古屋市中区千代田5-11-33 熊崎ビル TEL:052-243-5222 FAX:052-243-5211 長谷川 奈治(はせがわ たいじ) 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 特別プロジェクト推進室 〒332-0012 川口市本町4-1-8 TEL:048‐226‐5623 FAX:048‐226‐2144 ************************************************** |
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