酸化物超電導材料(Bi系超電導磁気シールド)の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
液体窒素温度で使用可能な大面積の磁気シールドの出現が望まれていた

 我々が生活している環境は、地磁気の外に電気・電子機器から発生する都市雑音などの環境磁気雑音が存在している。生体磁気など微弱な磁気計測を行うには、都市雑音などの外部から侵入する磁気雑音を遮蔽する弱磁場用磁気シールドを用いる必要があり、一方、医療用MRIのマグネットから漏れる磁場を地磁気程度に減衰させるためには、発生源を覆う強磁場用磁気シールドを設置する必要がある(図1)。従来は多量の強磁性体の鋼板で部屋全体を遮蔽するルームシールドや液体ヘリウム(約-269℃)で冷却する金属系超電導材料の磁気シールドが用いられていたが、これらより効率の良い磁気シールドが望まれていた。

(内容)
成形や焼結のプロセスを精密に制御することにより、超電導磁気シールド に要求される特性を得る

 本新技術は、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅等からなるビスマス系酸化物超電導体を材料化する工程において、成形や焼結のプロセスを精密に制御することにより、超電導磁気シールドに要求される特性を得るもので、以下の工程を経て製造される。

(1)弱磁場用磁気シールド[日立化成工業鰍ェ分担]

1) 超電導原料粉末の作製
 ビスマス、銅の酸化物、ストロンチウム、カルシウムの炭酸塩の各々の粉末を混合し、乾燥、仮焼、粉砕、分級、溶融などの工程を経て原子組成比がおよそBi:Sr:Ca:Cu=2:2:1:2で、焼付け温度や分解溶融温度が異なる超電導粉末を作製する。
2) グリーンシートの作製(成形)
 超電導粉末に有機バインダと水を加え混合し、フィルム状のキャリアシート上に流し出す方法(ドクターブレード法)によりシート状の成形体(グリーンシート)を作製する。
3) 積層・複合化(焼成)
 銀をコートした合金の基材にグリーンシートを接着し焼成する。次に、その上に銀層を付け、グリーンシートを接着し焼成する。この工程を繰り返して3層構造の積層体を得る。 
 積層体の温度分布を均一に保ちながら850℃以上の高温で焼成した後、窒素と酸素の混合ガス雰囲気中で、ゆっくり冷却して弱磁場用磁気シールドを得る。

(2)強磁場用磁気シールド[日立電線鰍ェ分担]

1) 超電導粉末の作製
 ビスマス、銅等の酸化物、ストロンチウム、カルシウムの炭酸塩の各々の粉末を混合し、乾燥、仮焼、粉砕、分級などの工程を経て原子組成比がおよそBi:Sr:Ca:Cu=2:2:2:3の超電導粉末を作製する。
2) 押出材の作製
 銀製のパイプに超電導粉末を充填・伸線加工後、これを複数本、銀製のパイプに入れて、静水圧押出により均一な多芯押出材を作製する。
3) 伸線、圧延、焼成
 押出材の伸線加工を繰り返すことで逐次縮径して細線を得る。次いで、圧延加工と高温での焼成を繰り返し、厚さ約0.5mm、幅約9mmの超電導テープとする。
4) 組立
 ボビン状のステンレス製巻き枠に超電導テープを巻いて磁気シールドユニットを作製する。これを4段積み重ねて強磁場用磁気シールドを得る。
(効果)
 生体磁気計測用(脳、骨格筋、心磁界など)[弱磁場用]や医療用MRIなどの 漏れ磁場の遮蔽用[強磁場用]として、広い利用が期待

 超電導特性を利用した本新技術による磁気シールドは、液体窒素温度で使用可能なことから、従来の多量の鋼板で部屋全体を遮蔽するルームシールドや液体ヘリウムで冷却する金属系超電導材料を用いたシールドより小型化が可能で省エネルギーとなる。弱磁場用磁気シールドは、外部から侵入する都市雑音などの磁気雑音を5桁以上減衰できることから生体磁気計測用(脳、骨格筋、心臓等から発生する磁場など)に、一方、強磁場用磁気シールドは、医療用MRIなどの強力な磁石から漏れる磁場を地磁気程度に減衰させて人体や電気・電子機器への影響を低減する遮蔽体などに広い利用が期待される。

(注)この発表についての問い合わせは以下のとおりです。     
    科学技術振興事業団 開発業務部管理課長 内野裕雄[電話(03)5214-8996]                                    管理課  久保 亮
   (企業連絡先)
    日立化成工業株式会社 社長室 広報調査グループ 岡村[電話(03)5381-2355] 
    日立電線株式会社 総務部 文書課           [電話(03)5252-3261]


This page updated on March 5, 1999

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