補足説明資料


東京工業大学
石野 史敏
 
ゲノムインプリンティングとゲノムインプリンティング遺伝子
 
 哺乳類の動物が正常に生まれ育つためには、精子、卵子に由来する父親、母親のゲノムの両者の寄与が必要である。なぜならば、これらは発生の機構の中で機能的に異なる役割を果たしているためである。この現象はゲノムインプリンティング現象と呼ばれ、哺乳類に片方の親に由来して発現する特殊な遺伝子群(ゲノムインプリンティング遺伝子群)が存在することに起因している。
 
ES細胞(胚性幹細胞)
 
 受精後、胎盤に着床する時期の胚細胞から樹立された細胞で将来の胎児組織すべてを生み出すことができる多分化能細胞。現在、再生医療ではこの細胞を特定の臓器に分化させる研究が進められているが、体細胞クローン技術を用いて作製したES細胞は、臓器移植の際の拒絶反応の問題が起きないため、この分野への応用が期待されている。
 
今回の実験で分ったこと
 
 今回の実験では、クローン動物にみられる異常の原因を、1)用いた体細胞によるもの、2)クローン技術によるものに区別して考えることができることが示された。
 前者の例としては、上記に説明したようにゲノムインプリンティングの片親性発現調節機構はクローン技術によって乱れることはなく、新生児期での異常(致死、先天異常)は用いた体細胞の側の問題である可能性が高いことが明らかになったことである。
 後者の問題としては、今回の実験でも低い出生率(2―3%)と胎盤の異常が見れられたことから、これらはクローン技術に由来して、遺伝子発現異常が現れた可能性が高いことが分ったことである。
 出生時の胎盤での遺伝子発現の解析結果については、6つのゲノムインプリンティング遺伝子の内3つ(Peg1/Mest,Meg1/Grb10, Meg3/Gtl2)および、4つの非ゲノムインプリンティング遺伝子(一般の遺伝子の中から異常があったもののみを示している;Igfbp2, 6, Flk1, Esx1)は、キュムルス細胞、セルトリ細胞から作製したクローンに共通して発現低下が見られることを示している。遺伝子は胎児側では正常な発現レベルを示しており、胎盤に特異的な異常であると考えられる。この意味から、現在の技術で作製した体細胞クローンは、まだドナーの完全なコピーではないことがわかる。これらクローン技術に由来する遺伝子発現の異常についても現在原因の研究を進めている。
 

This page updated on January 11, 2002

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