「人工現実感による機能障害回復システム」の開発に成功


 本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 望まれていた、感覚と運動を統合した機能障害回復システム

 人間の実社会における行動は、たとえば、散歩をする際には、目や耳により自動車の往来、路面状況などの環境の変化を認識し、これらに注意しながら歩くといったように、視覚・聴覚等の感覚機能と上・下肢の運動機能の協調に基づいている。そのため、脳卒中や交通事故等の後遺症による機能障害からの早期回復のためには、感覚機能と運動機能を協調させて運動指導を行うことが効果的であると考えられている。
 従来のリハビリテーションの運動療法は、理学療法士によるマンツーマンの運動指導や電動歩行器等の器械器具による運動療法が主であり、必ずしも、感覚と運動を協調させた運動ではなかった。また、従来の運動指導においては、ベッド期から歩行期までの一貫した運動を支援する器具は存在せず、様々な器具を用いて運動が行われ、一貫した運動プログラムの設定が困難という問題や患者にとっての運動練習は単調で動機付け、意欲などの賦活に乏しくなりがち、などという問題があった。

(内容) リアルタイムで患者の動作を解析し、ディスプレーに表示することによって仮想環境を作り出し、その環境下で、運動療法等を行うシステム

 本新技術による装置は、リアルタイムで患者の動作を解析し、関節可動域の角度計測等を行うと同時に、患者の動きをキャラクタとしてディスプレーに表示することにより、仮想環境を作り出し、この仮想環境下において、関節可動域の運動、あるいは、ベッド期から歩行期までをカバーする傾斜機能付き歩行訓練装置による歩行練習を行うことを可能とするシステムである。
 本システムの構成は、以下の二つの装置構成となっており、同時に使用することにより、@踏み圧と下肢動態の同期データが取得可能、A運動練習中の下肢動態をリアルタイムでCG表示可能といった機能を有し、また、仕様用途により、それぞれ単独使用もできる。

@ 関節可動域評価・運動装置(担当:松下電器産業(株))
 パーソナルコンピュータ1台、CCDカメラ4台、及び、患者の関節部位につける20個のカラーマーカーという簡易な機器構成からなり、ディスプレー上にリアルタイムで患者と同一の動きをするキャラクタを表示するとともに、関節の角度計測を行うことができる。また、単独使用においては、画面内の蝶を捕まえるといった能動的関節可動域運動や従来は理学療法士が分度器をあてがって行っていた各関節の角度計測を簡便に行うことができる。従来のモーションキャプチャにおける赤外線カメラ等の大がかりな特殊照明装置は不要である。
A 傾斜機能付き歩行運動装置(担当:(株)幸袋工作所)
 平坦道路、足踏み、階段、凸凹道路といった歩行パターンで左右個別に駆動する踏み台とベッド期から歩行期までの幅広い患者に対応することの出来る水平から垂直まで角度可変の傾斜ベッドを有する歩行運動装置である。患者の症状の程度にあわせて傾斜台の傾斜角を調整し、訓練可能な姿勢を介助無しに取ることができる。また、踏み台には荷重センサーを内蔵しており、踏み圧波形ならびに運動回数に対する平均踏み圧の変化を測定し、左右のバランスの回復度を示すことが出来る。単独使用においても、ディスプレー上に踏み台と連動するキャラクタを表示することができる。

 病院における評価試験では、患者のモチベーション向上や下肢の左右バランスや筋力の回復が確認された。また、動作計測機能は、マーカ間距離:平均誤差2.2mm、マーカ間角度:平均誤差0.76度という結果が得られた。

(効果) 患者の早期回復、社会復帰を支援するものとして期待される

 本新技術により開発された装置により、回復度や達成度が実感でき、患者は楽しみながら運動を行うことができ、意欲向上に適しているとともに、関節運動の計測等も簡便に行うことが可能となった。脳卒中や各種傷害後の機能障害者のリハビリに幅広く利用され、早期回復と社会復帰を支援するものと期待される。今後は、運動プログラム等の充実、マーカー無しの三次元動作計測技術等を推進していくことにより、さらに拡がりを持ったシステムになることも期待できる。


This page updated on December 25, 2001

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