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科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の若手個人研究推進事業において、研究課題「1分子計測を用いた細胞性粘菌の走化性応答の解析」(研究者 上田 昌宏 科学技術振興事業団 さきがけ研究21 専任研究者、研究実施場所:大阪大学大学院医学系研究科・情報生理学教室)に関して行われた研究で、細胞の走化性移動運動を制御する三量体G蛋白質共役型受容体のはたらきを生きた細胞内で1分子レベルで解明することに成功した。この成果は10月26日付の米国科学誌「サイエンス」にて発表される。
細胞が化学物質の空間的濃度勾配を検出して、一定の方向へと移動する現象は、走化性(Chemotaxis)と呼ばれている。走化性は免疫応答、神経回路形成、形態形成など様々な生物学的過程を支える基本的な細胞機能である。走化性情報伝達システムの機能の一つは、化学物質の濃度勾配を的確に認識することであるが、その仕組みについてはよくわかっていない。本研究では、化学物質に対するセンサー蛋白質1つ1つが、濃度勾配の認識過程でどのようにはたらいているのかを解明したことになる。
走化性情報伝達の仕組みを調べるためのモデル生物として、細胞性粘菌Dictyostelium discoideumがよく用いられている。この細胞は化学物質サイクリックAMP(cAMP)に対して走化性を示す。cAMPセンサーは三量体G蛋白質共役型の受容体である。
cAMP受容体1つ1つの振る舞いを調べるために、本研究では蛍光標識したcAMPをプローブとして用いて、このプローブが受容体に結合する様子を1分子イメージングした(図1)。これにより、cAMPが、細胞のどこに、いつ、何個、何秒間結合しているのか、つまり細胞が受け取る外部刺激のありのままの姿を捉えることができるようになった。
cAMP1つ1つの結合時間から、cAMP受容体の解離速度を求めることができる。解離速度は受容体の活性化状態を表わすパラメーターである。こうした解析から、個々のcAMP分子の解離速度は細胞の前進端(化学物質の高濃度側)と後進端(低濃度側)で差があり、前進端側で早く解離することがわかった。さらに、こうした受容体の活性の違いがG蛋白質との相互作用の違いを反映していることが明らかになった。cAMPの高濃度側でcAMP受容体とG蛋白質の相互作用の効率が高くなることが示唆された。このように、cAMP受容体の活性が細胞内の場所によって異なっており、細胞全体としては極性が形成されるように制御されていることが明らかになった。
本成果は、免疫応答、個体発生、器官形成などの生命現象を支える細胞(例えば免疫細胞や神経細胞)の走性行動のメカニズムを理解する上でも重要な手がかりを与えるものであり、また、本研究で開発してきた細胞内1分子計測技術は、細胞内情報伝達のメカニズムを解明する上で強力な研究手段になると期待される。こうした研究は、生物型システムを工学的に実現する上での重要な基盤知識を提供するものである。
この研究は、佐甲靖志(科学技術振興事業団・若手個人研究推進事業『タイムシグナルと制御』・大阪大学)、柳田敏雄(科学技術振興事業団・国際共同研究事業『1分子過程』・大阪大学)、田中俊樹(名古屋工業大学)、Peter
Devreotes(Johns Hopkins Medical Institutions)各氏の協力により達成できた。
論文名 | |
Single molecule analysis of chemotactic signaling in Dictyostelium cells. | |
(Dictyostelium細胞における走化性情報伝達の1分子解析) | |
doi:10.1126/science.1063951 |
科学技術振興事業団 | 若手個人研究推進事業「認識と形成」領域(領域総括 江口 吾朗) |
研究テーマ | 「1分子計測を用いた細胞性粘菌の走化性応答の解析」 |
研究者 | 上田 昌宏 科学技術振興事業団 さきがけ研究21 専任研究者 |
研究実施場所 | 大阪大学大学院医学系研究科・情報生理学教室 |
研究実施期間 | 平成12年10月〜平成15年9月 |
(問い合わせ先) |
上田 昌宏(ウエダ マサヒロ) 科学技術振興事業団 さきがけ研究21 専任研究者 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2−2 大阪大学大学院医学系研究科・情報生理学教室 TEL: 06-6879-3621, FAX: 06-6879-3628 |
小松 理(コマツ サトシ) 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 若手個人研究課 〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8 Tel: 048-226-5641, Fax: 048-226-2144 |
This page updated on October 26, 2001
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