「炭そ病防除用微生物農薬」の開発に成功


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 望まれる炭そ病を効率的に省力防除できる農薬

 炭そ病は、植物の葉や茎、果実などに病斑を形成し、被害を与える重要病害である。本病菌には約600種以上あり、イチゴやリンゴ、キュウリ、スイカなどの炭そ病が知られている。特にイチゴ炭そ病は、育苗期を中心に発生し、株を枯死させる最重要病害であり、現在の主要品種では、いったん発病すると防除がきわめて困難である。本病の発生により、イチゴ栽培を放棄したり、以後の栽培を打ち切る農家さえ出ており、離農のきっかけになる病害である。本病に対する雨よけ栽培などの耕種的防除は、効果を示すが栽培者の高齢化などにより、なかなか実施されていないのが現状である。なお、本病による被害は、我が国のみならず、イチゴを栽培している各国で大きな問題となっている。

(内容) 炭そ病に対して強い抑制力を示す拮抗糸状菌を用い、予防散布により炭そ病を防除する微生物農薬

 本新技術は、炭そ病に対して強い抑制力を持つ拮抗糸状菌(タラロマイセス・フラバス)を苗に予防的に接種することにより、炭そ病を防除する微生物農薬に関するものである(図1)。微生物農薬は、環境負荷の少ない防除方法を確立するうえで有望な資材とされていることから、近年実用化を目指した研究が活発である。
 本開発に先立つ予備試験においても、その効果が60日後まで観察され、効果の優位性及び持続性が確認されており、本開発においても、2年間にわたり、九州地方から東北地方までにわたる主要なイチゴ生産県の農業試験場において公開試験を実施し、良好な結果が得られた。
 本農薬の製造は、固体培養法によって胞子を生産・回収する。そして、胞子を散布液中で均一に分散させるなどの目的で界面活性剤などの副資材を添加し、水和剤としたものを製品とする。実際の使用時には、本製品粉末を水で1000倍から2000倍に希釈した懸濁液を作り、これを茎葉散布する。

(効果) 環境に優しいイチゴ等の炭そ病の防除用微生物農薬として利用

本技術は、

(1) 有効成分が土壌に普遍的に存在する微生物であり、環境負荷が少ない。
(2) 植物に定着することで、長期間の効率的防除が期待できる。
(3) 耐性菌出現の心配がない。

などの特徴を有し、イチゴ炭そ病の防除用微生物農薬としての利用だけでなく、他農作物、および炭そ病以外の病原菌への適用拡大も期待される。

【用語解説】
糸状菌: 糸状の菌糸があるためにその存在の判る菌の通称であり、正式な分類名ではない。ほぼカビと同義である。

This page updated on July 19, 2001

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