本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
(背景) | 優れた生体適合性を有し、かつ、用途に合致した分子設計を自由に施せる新素材の開発が望まれていた。 |
現在、シリコン、ポリエチレン、ポリウレタンなど様々な人工材料が医療用チューブやカテーテルなどの医療用具に利用されているが、これらの材料は、生体からは異物として認識される。すなわち、タンパク質や血球が吸着・変性し、さらに活性化されるため血液凝固などの拒絶反応を誘起してしまう。したがって、生体適合性の点で十分な性能を有するものではなかった。
そこで、次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のためには、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がないなどの優れた生体適合性を有し、なおかつ、使用目的に合致した分子設計を自由に施せる新素材の開発が不可欠であった。
(内容) | 生体膜の構成成分であるホスホリルコリン基を導入することにより、タンパク質など生体成分の吸着や変性を抑制する優れた生体適合性表面を有するMPCポリマーを見出し、さらに商業的規模での製造方法を確立。 |
本新技術の研究者である中林氏、石原氏らは、理想的な生体適合性の表面である生体膜(細胞膜)に着目し、高分子合成の手法でこのような表面を得るという試みを行い、一分子内に生体膜構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を創出した。このMPCを重合して得られるMPCポリマー表面は、生体膜と類似の分子構造を有しているので、従来の材料にはない優れた生体適合性を有することが明確に示されている。
すなわち、MPCポリマーは、生体膜表面と同様に、表面にホスホリルコリン基が配向して集合しており、このためタンパク質や血球との相互作用が極めて弱く、これらの吸着や変性を抑制する。
また、MPCの持つホスホリルコリン基は、分子内で安定な塩を形成しているために電気的には全く中性の分子として振る舞い、生体内において特定のイオンなどと相互作用することはない。
また、MPCポリマーは、重合性に優れたメタクリロイル基を有するため、共重合の相手を自由に選ぶなどして、用途に応じた分子設計を自由に施すことが可能であり、さらに分子量の制御も容易である。
具体的な製造方法は下記の通りである。
(1) | MPCの製造:メタクリル酸エステルを原料に用いて、ホスホリルコリン基導入のためのリン酸エステル化反応などを経由して、MPCを製造する。 |
(2) | MPCポリマーの製造:水などの溶媒中で、MPCの単独重合体あるいは他のメタクリル酸エステル類との共重合体を製造する。 |
(効果) | MPCポリマーは、ポリマーサイエンスにおける日本オリジナルの最先端技術であり、広範な産業分野での基盤材料としての利用が期待されている。 |
MPCポリマーは、ポリマーサイエンスにおける日本オリジナルの最先端技術である。
MPCポリマーは、また、先に説明した生体適合性のほかにも、親水性が高く優れた保水・保湿機能を有するなど、多様な特徴を有することが明らかにされている。さらにまた、用途に合致した分子設計が自由に行えることから、その応用分野は広大である。
したがって、以下の広範な分野における次世代の基盤材料としての利用が期待されている。
■バイオメディカルサイエンス分野
人工臓器・医療用具(カテーテル、血液ろ過器、血液回路、コンタクトレンズなど)、体内埋め込み型の各種センサーなど
■バイオテクノロジー分野
遺伝子・タンパク質工学、細胞・組織工学
■医薬品産業分野
外用剤、点眼剤、ドラッグキャリア、診断薬など
■環境テクノロジー分野
エコマテリアル、水処理剤、防汚性塗料など
This page updated on June 16, 1999
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