成人用高頻度人工呼吸器


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 大容量の換気を安定に行える成人用高頻度人工呼吸器が望まれていた

 通常、ヒトの呼吸では、毎分10〜20回程度、肺への吸入・排出を大きくゆっくりと繰り返し、新鮮な空気を肺に送り、肺内部に溜まった炭酸ガスと入れ換えることでガス交換が行われる。このガス交換は、主に空気が一塊となって出入りする「対流」とガス濃度の勾配によりガスが浸透する「拡散」によって行われており、肺の入り口に近いところでは、「対流」が係わり、肺の入り口からさらに奥の肺胞付近になると「拡散」による効果が大きくなる。
 従来、呼吸に小さな振動を加え拡散の効果を用いることによって、患者の肺のガス交換する能力を改善しようとする高頻度換気法の研究報告が行われるに至り、多くの臨床者・研究者の興味を集め、研究がされ始めた。通常の換気法では、換気を深くゆっくりと一回に送り込まれる量を大きくするため、肺への負担が避けられず肺が大きく引き伸ばされる場合がある。これに対して、高頻度換気法は、換気を浅く速くし一回に送り込まれる量を小さくするため、肺内部の圧力が下がり、肺の拡張が少ない状態で、肺を損傷することなく換気が可能となる。しかし、従来高頻度換気を行う高頻度人工呼吸器はその有効性が認められつつも、必要換気量が発生できなかったため、その実用化は新生児・未熟児の治療を目的とした小容量の装置においてのみ臨床応用されていた。このため、成人に使用できる大容量の高頻度換気を安定に行い得る装置の実現が強く望まれていた。

(内容) 陽圧と陰圧を発生させるブロワと、この空気流を振動流にする切り換え弁(ロータリーバルブ)によって、大容量の高頻度換気を行う

本新技術は、ブロワによって空気の吐き出し(陽圧)と吸い込み(陰圧)を常時発生させ、この空気流を振動流に変換することができる切り換え弁(ロータリーバルブ)によって、毎分540〜900回(9〜15Hz)の周期的な振動流を発生させることによって、成人に適用できる大容量の高頻度人工呼吸器に関するものである。
本装置による高頻度人工呼吸器の概要は、以下の通りである(図)。
 患者回路の口元側の気管内チュ−ブ部分に毎分10〜30リットル/分の新鮮なガス(酸素と空気)を吹き込む。
 次に、ブロワの陽圧と陰圧の空気流を切り換え弁(ロ−タリ−バルブ)によって装置回路に周期的な振動流をつくり、この振動流を感染遮断膜(ダイヤフラム)を介して患者回路の新鮮なガスに付与しながら肺内部の圧力を7〜15cmH2Oに低く保ちつつ、患者の肺へ振動流を送り込む。この時、振動流によって患者の肺内部から口元へおびき出された炭酸ガスは、新鮮なガスの一部と共に呼気弁から大気側に放出されることでガスが入れ換わる。振動流の振幅は振幅制御部で精密に制御できるため、患者の容体や体格に応じて必要な換気量の制御が可能である。患者が自ら呼吸をした場合、その状態に応じて新鮮なガス量を加減し、口元の圧力を調整することで患者の自発呼吸を妨げないよう工夫が施されている。なお、本装置の患者回路は使用の毎に取り替え、患者の肺からの細菌等による装置の駆動部への汚染を防止する仕組みになっている。

(効果) 通常の人工呼吸器に伴う肺への負担の軽減が可能であり、重症の呼吸不全患者の呼吸管理や胸部外科手術時の人工呼吸に適用できる

 本装置は、肺内部の圧力変動を小さく保つことで患者への負担を減らすことができる。また、患者が自ら呼吸をした場合に対応するための自発呼吸回路を備えることで、患者の回復程度に応じて円滑に通常の呼吸状態に移行できる。肺の動きが小さいため、通常の人工呼吸器を使用した場合に比較し、肺損傷の軽減が可能となり、肺の機能が極度に低下した重症の呼吸不全患者の呼吸管理、胸部外科手術時の人工呼吸への適用が期待される。


This page updated on April 22, 1999

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