ようこそ 私の研究室へ05 戦略的創造研究推進事業ERATO「浅田共創知能システムプロジェクト」研究統括 浅田稔
ロボットを通じて人間の心を理解する 人間の心のようなロボットのココロの発達を目指します。

PROFILE

浅田 稔(あさだ・みのる)

大阪大学大学院工学研究科教授
1953年滋賀県生まれ。72年、大阪大学基礎工学部入学。82年、同大学大学院基礎工学研究科物理系専攻博士課程修了(工学博士)。86~87年、米国メリーランド大学客員研究員。89年、同大学工学部助教授、95年同大学工学部教授を経て、97年より現職。ヒューマノイド(人間型ロボット)により人間の認知・発達などを研究。ロボカップ国際委員会プレジデントとしても精力的に活動中。2005年9月よりERATO「浅田共創知能システムプロジェクト」研究総括。

「鉄腕アトム」よりも「火の鳥」に影響された。

過去と未来を行き来しながら「生命」を描いた手塚治虫さんの「火の鳥」
そこで人間と関わり、重要な役割を果たすロボットの姿にひかれました。

 大阪大学吹田キャンパスの一角にある「フロンティア研究棟」1号館。エレベーターを4階で降りると、緑と青を基調にした看板が目に飛び込んで来る。中央に大きく、「Jst Erato Asada Project」の文字。4階のフロア全体が、浅田稔さんが研究総括を務める「浅田共創知能プロジェクト」の研究拠点なのだ。
 このプロジェクトでは、脳科学のなかでも特に認知などの問題について、ヒューマノイドと呼ばれる人間型ロボットを検証手段として使用しながら、研究を行っている。つまり、「ロボットを通じて人間の脳を知る」ことを目指しているのだ。6月には、中核となるロボット「CB2」がお披露目され、研究は大きく前進しようとしている。
 ロボットの研究者は、子どもの頃からのメカ好きが高じて研究者の道に進むことが多い。しかし浅田さんは違う。
 「小さい頃から、人間とは何か、生命とは何か、なんて考えていましたね。『鉄腕アトム』はもちろん見ていましたけれど、それよりも『火の鳥』に影響を受けました」
 たとえば、「火の鳥」にはこんなエピソードがある。事故に遭った少年が手術を受けて一命をとりとめたものの、人間が石に見え、ロボットが人間に見えるようになってしまう。やがてあるロボットに恋をし、ロボットも少年のことが頭から離れなくなる―。そんな、心を持ったロボットの姿が強烈な印象として残ったという。


ロボットを通じて人間を知る「認知発達ロボティクス」の誕生。

ロボットの身体を通じて人間の心の多様なあり方を理解しその過程を通じて、人間の心のようなロボットのココロの発達を目指します。
 だが、すぐにロボット研究を志したわけではない。大学は基礎工学部で制御工学を専攻しコンピュータービジョンを学ぶ。人間の「認知」に興味を持っていた浅田さんは、機械がどうやって物事を認知するかを知りたいと思ったのだ。しかし、研究を進めるうちに、違和感を覚えるようになった。
 「たとえば機械にリンゴの赤くて丸い外観をパターンとして認識させれば、リンゴを認識できます。でも、人間は形や色だけでなく、においや味など自分の体験を通じてリンゴの概念をモデル化し、それらすべてを含めてリンゴと認識します。それは、機械の認識とは別のものでしょう」
 どうしたら機械も人間と同じように認識できるようになるのか―そう考えたときに、機械も人間と同じような身体を持つことが必要ではないかと考えた。身体を持った機械、つまりロボットだ。そこから、浅田さんの思考はさらに深まった。
 「認知能力をはじめとする人間の脳の発達は、赤ちゃんのときの周囲の人たちとのコミュニケーションを通じて促されますが、言葉で表現してくれない赤ちゃんを通じての研究には限界があります。その限界を超える1つのアプローチが、人間とコミュニケーション可能なロボットをつくり、それを通して研究するということです」
 ロボットの身体をプラットホームにすれば、視覚、聴覚、触覚と認知とのかかわりや、脳科学、哲学、心理学などさまざまな分野の考えを総合的にとらえることもできる。こうして、画期的な「認知発達ロボティクス」の発想が生まれた。


異分野との「際」からでないと新しいものは生まれない。

人間とは何か、心とは何か、さまざまな学問が融合したロボット学を通じて解き明かしていきたいと思っています。
 浅田さんの考え方に大きな影響を与えたのが、「けいはんな社会的知能発生学研究会」での議論だ。1994年に、知能ロボットの未来に興味をもった若手研究者が集まったのをもとに生まれた研究会で、精神科医や生物学者、動物行動学者など、さまざまな分野のメインゲストを1人呼んで激しい議論を重ねた。設立メンバーには、現在、プロジェクトでグループリーダーを務める石黒浩教授、國吉康夫教授もいた。
 「専門分野を研究するのは確かに大切ですが、異分野との『際』からでないと、新しいものは生まれてこないと思います。たとえばダ・ヴィンチの時代は、科学と芸術は分離していなかったでしょう。工学や脳科学、哲学、心理学などいろいろな学問が集まっているロボット学は、それ自体が1つの思想と言えるかもしれません」
 自ら提唱した自律的ロボットの国際サッカー大会「ロボカップ」のプレジデントを務め、2011年には大阪に人間とロボットとの共創都市「ロボシティ」をつくろうと奔走する浅田さん。異分野の枠を軽々と越える姿を見ていると、心を持ったロボットが誕生する日も、遠くない気がする。


研究の概要
CB2
このほど完成したヒューマノイド「CB2」は、社会的共創知能グループが開発したもの。

浅田共創知能システムプロジェクトでは、「認知・意識・心」の問題を対象に、「身体性に基づくコミュニケーション」「言語獲得能力」「ヒトの知能創発過程の理解」を研究している。特徴的なのは、検証手段として人間型ロボットを使用することで、たとえば幼児期の認知機能の発達など、従来の脳科学研究で使われてきた脳画像や脳波測定では難しい分野への進展が期待できる。具体的には、社会的共創知能(多数のヒトやロボット間におけるコミュニケーションの発達の研究)、身体的共創知能(人工筋肉の柔軟性による身体と環境の相互作用を考慮したロボットの研究)、対人的共創知能(赤ちゃんロボットやシミュレーションモデルを用いた、初期の認知発達過程のモデル化の研究)、共創知能機構(脳機能イメージングや動物実験などによる模倣行動、言語コミュニケーションなどに関するモデル化の研究)の4つのグループがある。

TEXT:十枝慶ニ/PHOTO:松崎泰也(ミューモ)/パース:意匠計画





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JST News 発行日/平成19年8月
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