電気抵抗増大材を用いたスポット溶接技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれていた各種亜鉛めっき鋼板への効率的なスポット溶接法および溶接点のモニタ法

 近年、自動車、家電製品、屋外設置機器の広範な分野で、耐食性に優れている亜鉛めっき鋼板、あるいは高耐食性・高強度・軽量という特徴を兼ね備えた亜鉛めっき高張力鋼板などをスポット溶接して使用するようになっている。これらの鋼板は優れた機能を有しているが、スポット溶接を行う際には大きな電力を加えないと良好な溶接ができない。この原因としては、(1)鋼板表面層の亜鉛が下地の鋼よりも柔らかなため、溶接される鋼板間のなじみ性が良くなり、接触面積が増大する、(2)亜鉛自体の導電性が高いことにより溶接部の電気抵抗が上がらず、そのため大電流で十分な通電時間を与えないと必要な発熱が得られず、満足な溶接点が形成されない、という点が挙げられる。そのため、これらの鋼板をスポット溶接する際は、裸鋼板を溶接する時に比べて、溶接時の電流を25〜50%増加させたり、通電時間を50〜100%増加させるなどの方法により対応していたが、消費電力が大きくなり、それに伴う大きな発熱のため電極の損耗が激しくなる、などの問題があった。
 また、裸鋼板では、スポット溶接における溶接点の良否の判定に溶接電極間の全抵抗値(電極自体の抵抗、鋼板の抵抗および接触界面の抵抗の和)の変化を測定する方法が採用されている。しかし亜鉛めっき鋼板では過度の発熱により、電極の摩耗や溶接している鋼板の温度上昇が激しく、鋼板部分の電気抵抗が大きく変化してしまうため、抵抗値の変化による溶接の良否判定はできなかった。このため、各種亜鉛めっき鋼板の溶接点の良否の判定は、被検体を抜き取り、タガネを使用して剥離試験を行う方法によるものが主流であった。この判定方法では不良部が発見された場合、生産ラインをいったん止め、問題ない溶接点が発見されるまで全ての接着点の剥離試験を行うため、作業に時間がかかるなどの問題があった。このため、これら鋼板に対し良好な溶接を行うと同時に溶接の良否を判定できる溶接法の開発が待望されていた。

(内容)
電気抵抗増大材を用いることで良好なスポット溶接を実現

 本新技術は、各種亜鉛めっき鋼板のスポット溶接において、重ね合わせた鋼板間に電気抵抗増大材を配置して溶接性を向上させると同時に、溶接電極間の抵抗値をモニタすることで溶接と同時に溶接点の品質管理を行うものである。
 本新技術によるスポット溶接は以下の通りである(図1)。まず、電気抵抗増大材(バインダーにアルミナ粉末を分散させたもの)を溶接する鋼板の接合面に塗布する。鋼板間にある電気抵抗増大材は鋼板同士の接触を保ちつつ板間の電気抵抗を高めるため、溶接部の合わせ面に発熱が集中し十分な径のナゲットが形成され良好な溶接点を得る。このように、発熱が合わせ面の限られた領域に集中する結果、従来の1/3以下の通電時間で溶接でき、それに伴い消費電力の低減や電極の劣化が抑制される。
 また本新技術では、溶接時の発熱量が少ないことからナゲット形成に伴う鋼板間抵抗の変化を正確に測定することが可能になる。このため、本新技術によるスポット溶接における溶接点の良否判定は溶接点に電極間の抵抗値の変化をモニタする方法で行う(図2)。さらにモニタの内容からナゲットの成長具合や溶接電極の磨耗具合が判断できることから、適時に通電時間の延長、溶接電流増など溶接条件の制御や電極の研磨が行え、ナゲットの大きさを一定水準以上に保つことができる。

(効果)
裸鋼板に比べて溶接性が劣る各種亜鉛めっき鋼板での利用

本新技術には次のような特徴がある。

(1) 各種亜鉛めっき鋼板の溶接において、溶接性が著しく向上し、短い通電時間で良好な溶接点が得られる。
(2) 溶接と同時に全溶接点の溶接状態の管理ができるため、検査工程が省略できると共に、適応制御による自動運転を可能とした。
(3) 電気抵抗増大材のバインダーを選択することにより、溶接継手をウェルド・ボンディング(注1)もしくはウェルド・シーリング(注2)にすることができる。
 本新技術により板厚 0.8mmの亜鉛めっき鋼板2枚合わせのスポット溶接に必要な通電時間は、従来の約12/60秒から4/60秒以下まで減少した。また同板合わせで電極寿命試験(一組の電極で連続打点)を行い本開発により得られた溶接品質モニタの判定と、実際に切断しナゲット径を測定した結果とを比べたところ、モニタの判定の正解率は新品の電極を使用した場合で100%、再生した電極を使用した場合で99.7%であった。
 新技術の導入に当たっては電気抵抗増大材のコスト並びにその板間への配置のための費用等が必要となるが、一方で電気料、検査費用、仕上工数などの費用が削減できるため、全体としてはコストダウンの可能性がある。従って、本新技術は自動車、家電製品、屋外設置機器などの製造における各種の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接において広く利用が期待される。  
(注1) ウェルド・ボンディング:バインダーに接着剤を使用して溶接することにより、スポット溶接と接着の併用継手とし、接合強度を上げる接合方法
(注2) ウェルド・シーリング:バインダーにシール材を使用して溶接することにより、継手にシール機能を持たせ外部からの水の侵入などを防ぐ接合方法

写真


This page updated on May 6, 1999

Copyright© 1999 JapanScienceandTechnologyCorporation.

www-pr@jst.go.jp