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別紙

研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート調査報告書の概要

<アンケート実施の背景>

JSTの科学コミュニケーションセンター(センター長 毛利 衛)では、第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)を受けて、時宜にかなった施策の実施と、より長期的な視点に立った戦略的な事業推進をはかるため、事業の1つとして調査研究を行なっています。

同基本計画により、「一定額以上の国の研究資金を得た研究者に対し、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう求める」とする施策が示されました。また、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受け、科学技術を担う専門家の在り方が改めて問い直されています。

このような社会的状況の中で、研究者による科学コミュニケーション活動の実態や課題、科学コミュニケーション活動の促進のために要請される支援を明らかにすることを目的として、科学コミュニケーションセンターの大学・研究機関などにおける研究者の科学コミュニケーションを課題とする調査研究ユニット(JST フェロー/大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所 准教授 小泉 周)において、アンケート調査を実施しました。

アンケート調査は、JSTのReaD&Researchmap(22万件に及ぶ日本の研究者情報をデータベース化した国内最大の研究者総覧)に登録の122,164のメールアドレスに送信しました。アンケートの期間は3月8日から16日で、回収数は8,964(7.3%)、有効回答数は7,908(6.5%)でした。

<結果の概要>

科学コミュニケーション活動の経験のある人は64.4%でした。研究者の半数以上の人に科学コミュニケーション活動の経験があることが示唆されました(図1)。

図1

図1 科学コミュニケーション活動の経験(回答数8,964)

さらに、本アンケート調査では、第4期科学技術基本計画の施策による科学コミュニケーション活動への影響について尋ねました。「一定額以上の国の研究資金を得た研究者に対し、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう求める」とする政府方針に賛成か反対かを尋ねたところ、70.9%が賛成、やや賛成であると回答しました(図2)。

図2

図2 政府方針に賛成かどうか

研究者による科学コミュニケーション活動の目的として、経験の有無に関わらず、「そもそも研究者の役割として、研究の経緯や成果を社会に公開するため」、「科学技術や学術への興味を喚起するため」、「研究者の義務として、研究者の能力を社会的課題の解決に役立てるため」という回答率が8割を超え、科学コミュニケーション活動が研究者の社会的責任として意識されていることが示唆されました。

それに加え、「自分の研究分野に対する自身の多面的理解を深めるため」の回答率も6割を超えており、自身の研究活動を普段と異なる視点でとらえ直し、より深い理解を得られると考えていることが示唆されました。これは、科学コミュニケーション活動を通じて、自らの研究分野を俯瞰すること、また、異なる専門家や一般市民といった他者からの視点が得られることが、多面的な理解につながった結果であると考えられます。

その一方で、研究者による科学コミュニケーション活動は根付いてきているかどうかについて尋ねると、根付いて来ているという回答は少なく、やや根付いてきているという回答とあわせて、28.1%でした(図3)。

図3

図3 研究者の自発的な活動として根付いてきたかどうか

特に、所属組織に科学コミュニケーション活動を支援する部署や人材などの支援体制がある場合、ない場合よりも、研究者が科学コミュニケーション活動を行っている割合は高くなっています(図4)。従って、科学コミュニケーション活動を促進するためには、組織に科学コミュニケーション活動を支援する体制を整備することが重要であると考えます。

図4

図4 科学コミュニケーション活動の有無と科学コミュニケーション活動を支援する組織の有無とのクロス集計結果

科学コミュニケーション活動を行う上での「障壁」について尋ねたところ、「時間的余裕がない」、「活動に必要な事務的な作業が多い」、「業績として評価されない」、「費用の捻出が難しい」、「コミュニケーション活動を行うための場をつくるのが難しい」という障壁があげられました。

従って、研究者の事務的な負担を軽減したり、科学コミュニケーション活動を業績として評価するなど適切な施策を講ずることにより、研究者による自発的な科学コミュニケーション活動を社会に根付かせることができると考えられます。