JST(理事長 中村 道治)は、ドイツ研究振興協会(DFG)注1)およびドイツ連邦教育研究省(BMBF)注2)と共同で「計算論的神経科学」に関する4件の研究交流課題を支援することを決定しました。この支援は、戦略的国際科学技術協力推進事業注3)「日本-ドイツ研究交流」注4)の一環として行われるものです。
支援を決定した課題は次の通りです。
(1)「エネルギー伝達運動のインピーダンス制御機構の解明」
(研究代表者:情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター ガネッシュ・ゴウリシャンカー 研究員、ミュンヘン工科大学 インフォマティクス研究所 パトリック・ヴァンダスマット 教授)
本研究交流は、ボールをバットで打ち返すようなエネルギー伝達運動のインピーダンス制御機構を心理物理実験、計算論、ロボティクスの手法を用いて解明することを目指すものです。
(2)「体内時計の時計遺伝子に基づく概日リズム調節メカニズムの解明」
(研究代表者:理化学研究所 脳科学総合研究センター 内匠 透 チームリーダー、チャリテ大学 理論生物学研究所 グリゴリ・ボルデュゴフ 研究員)
本研究交流は、哺乳類の種や起源の違いによって、体内時計の機能の中枢である視交叉上核(しこうさじょうかく)内の時計遺伝子の発現形態が異なる点に注目して、光環境による概日リズムの調節メカニズムの解明を目指すものです。
(3)「強化学習の神経回路機構の解明へ向けて」
(研究代表者:東京大学 大学院教育学研究科 森田 賢治 講師、ユーリッヒ総合研究機構 神経科学・医学研究所 モリソン・アビゲイル 教授)
本研究交流は、価値の予測誤差を表すようなドーパミン細胞の活動がいかにして生じ、学習の過程でいかなる役割を果たすかを、解剖・生理データを踏まえた大脳皮質・基底核神経回路の数理モデリングによって解明するものです。
(4)「視覚的注意の計算論モデルによるマイクロサッカードの解明」
(研究代表者:自然科学研究機構 生理学研究所 吉田 正俊 助教、チュービンゲン大学 統合神経科学センター ハフェド・ジアド ジュニア・リサーチ・グループリーダー)
本研究交流は、視覚的注意、つまり「眼前に見えるものうち何に目が引かれるのか」を予測する計算論モデルを用いて、ヒトの無意識の眼球運動であるマイクロサッカードのメカニズムの解明を目指すものです。
今回の研究交流課題の募集では13件の応募があり、これらの応募課題を日本側およびドイツ側の外部専門家により評価しました。その結果をもとにJST、DFGおよびBMBFが協議を行い、研究内容の優位性や交流計画の有効性などの観点から、日本とドイツがともに支援すべきとして合意した4件を支援課題として決定しました。日本側は平成25年4月に支援を開始し、研究期間は支援開始から3年間を予定しています。