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別紙3

CRDSの原則試案の内容

本年3月にCRDSがとりまとめた「政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則試案」は次のとおりです。ここに含まれる10項目は、全体として、政府側と科学者コミュニティー側の双方の役割および責任をカバーしています。

政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則試案(CRDS,2012年3月)

現代社会において、政策形成の過程で科学(工学・医学等を含む)が果たすべき役割は極めて大きい。科学的知見は、政策決定の妥当性を保障するとともに、政府が説明責任を果たすうえでの基盤を提供する。従って、科学者及び政府は、国民に対して、科学的知見に基づく政策形成を適切な形で実現する責任を負っている。両者はその責任を果たすため、以下に示される原則を遵守する。

(1) 政策形成における科学的助言の位置づけ

政府及び科学者は、政策形成における科学的助言の重要性及び位置づけについての認識を共有する。科学的知見は、政策形成の過程における不可欠な要素であり、政府はそれを十分に尊重しなければならない。一方で、科学的助言者は、科学的知見が政府の意思決定の唯一の判断根拠ではないことを了解すべきである。

(2) 科学的助言の適時的確な入手

政府は、科学的知見を要する政策課題の適時的確な特定に努め、課題に対応する最良の科学的知見の入手に向けて行動する。

(3) 科学的助言者の独立性の確保

政府は、科学的助言者の活動に政治的介入を加えてはならない。

科学的助言者は、政府を含め、科学的助言に恣意的な影響を及ぼす可能性のある組織ないし個人に影響されることなく、客観的で公平な姿勢で科学的助言を行う。それを保障するための手続きの一つとして、科学的助言者は、自らの利益相反を申告する。

(4) 科学的助言者としての責任の自覚

科学者は、常に公共の福祉に資することを目的として科学的助言を行う。また、政府に対する科学的助言者としての立場を引き受けるにあたっては、公共政策の形成過程において科学的助言がもつ影響力の大きさを認識し、その責任を自覚して行動する。

(5) 幅広い観点及びバランスの確保

政府は、科学的助言を得ようとするときは、事案の性質に適合し、適切な識見及び実績をもつ科学者の参画を確保したうえで、幅広い観点からの検討に基づいてバランスのとれた科学的助言の入手に努めるべきである。

(6) 助言の質の確保と見解の集約

科学的助言者は、自らが行う助言の質を最大限確保しなければならない。

そのため、科学的助言者は、観測・実験結果や引用文献の衡平な取扱いに努めるとともに、査読の実施を通して科学的助言の質の向上を図る。また、日本学術会議及び各学協会等は、我が国の科学者共同体の見解を集約する等、質の高い科学的助言を提示できるよう努める。

政府は、必要に応じ、政策形成に用いられる科学的知見が適任の専門家による独立の査読を経たものであることを確保する。

(7) 不確実性・多様性の適切な取扱い

科学的助言者は、科学的知見に係る不確実性及び見解の多様性について明確に政策担当者に説明しなければならない。政府は、科学的知見に係る不確実性及び見解の多様性を尊重する。

(8) 科学的知見の自由な公表

科学的助言者は、原則として、科学的知見を自由に公表することができる。ただし、科学的知見が政策形成及び世論、ひいては社会全般に対して大きな影響力をもつことを自覚し、責任をもって科学的知見を公表する。

(9) 政府による科学的助言の公正な取扱い

政府は、入手した科学的知見を公正に取り扱わなければならない。政府は、科学的助言について先入観をもって判断してはならないし、また、意図的に科学的知見を歪めて公表したり、誤った解釈を加えて政策形成に用いたりしてはならない。

さらに、政府は、政策の策定にあたって科学的助言がどのように考慮されたかを説明すべきである。特に、政府が入手した科学的助言と相反する政策決定を行う場合には、その根拠について説明することが必要である。

(10) 科学的助言のプロセスの透明性確保

政府は、科学的助言に基づく政策形成の質と信頼の向上を図るため、科学的助言のプロセスの透明性の確保に努める。