JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第850号 > 別紙 1
別紙 1

研究成果展開事業(産学共創基礎基盤研究プログラム)
技術テーマ概要、新規採択研究代表者・研究課題一覧および総評

技術テーマ:革新的次世代高性能磁石創製の指針構築

PO:福永 博俊(長崎大学 大学院工学研究科 電気・情報科学部門 教授)

技術テーマ概要

Nd-Fe-B磁石の発表から30年が経過しました。この間、Nd-Fe-B磁石の特性を越える新磁石の探索や製造が試みられてきましたが、これを越える新磁石の開発には至っておらず、次世代磁石の開発が強く望まれています。また、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存磁石の飛躍的特性改善や新磁石の開発が必要とされています。本技術テーマでは、革新的次世代磁石の創製のための基盤技術とそれにつながる指針を確立するために、大学・公的研究機関などでの基盤研究を推進し、我が国の産業競争力の維持・強化と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指します。

本技術テーマで扱う研究は製品化研究ではありませんが、将来的には研究成果が製造技術へとつながり、我が国の産業競争力が維持・強化されることを目指しています。「産学共創の場」というプラットホームを設け、各研究課題の進捗状況や成果創出状況、産業界の要望などを議論し、研究の推進方針に積極的に反映していきます。

新規採択研究代表者・研究課題一覧 (氏名五十音順)
研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
石尾 俊二 秋田大学
大学院工学資源学研究科
教授 L2FeCo及びL1FePt-bccFeCoに着目した革新的磁石創成に関する基礎研究 高結晶磁気異方性と高飽和磁化を有するL2FeCo系金属合金並びにL1FePt-FeCo系金属合金に着目して、希土類元素フリーで高エネルギー積を有する革新的な永久磁石材料を、産学共創の場を活用して開発します。第1原理計算による物性予測と薄膜合成/微細加工を用いた実験研究によりL2FeCo系金属合金の永久磁石特性を明らかにし、また薄膜合成/微細加工およびウェットプロセスによりL1FePt-bccFeCo系金属合金ナノコンポジット磁石を開発します。
小野 寛太 大学共同利用機関法人
高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所
准教授 磁気構造可視化に基づく保磁力モデルの構築 ハイブリッド自動車などの高性能駆動モーターには高保磁力の磁石が不可欠です。一般に広く用いられている磁石の保磁力は、理論限界値の15%程度であり、これを50%程度へ飛躍的に特性改善することや新規高保磁力磁石の創製が産業界から求められています。本研究では、放射光・中性子を用いた磁気構造可視化と、マイクロ磁気学と非平衡統計物理学の手法の融合により、保磁力メカニズムの解明を目指します。さらに、保磁力モデルの構築を行い、産学共創の場を通じて、次世代の高保磁力磁石の設計指針を産業界に提案します。
加藤 宏朗 山形大学
大学院理工学研究科
教授 ナノスケール構造制御による高性能磁石創製への指針獲得 現在最強のネオジム焼結磁石は、産業用や医療機器などに広く用いられていますが、更なる高性能化や高耐熱性が求められています。本研究では、薄膜プロセスおよび強磁場プロセスを用いたナノスケールの構造制御によって、ネオジム磁石を上回り、レアメタルであるNdやDyの使用量を大幅に削減した最強の希土類磁石を創製するための指針を獲得します。更に、産学の対話のもと、高性能磁石の厚膜化やバルク化に取り組みます。
小林 久理眞 静岡理工科大学
理工学部 物質生命科学科
教授 3次元磁区構造観察装置を用いた、永久磁石の微構造と磁区構造の相互作用の研究 永久磁石の3次元的磁区構造を観察することは、その保磁力発現機構解明の最重要課題の1つです。本研究では、粒界における磁壁の安定性を中心に、微構造と磁区構造の相互作用をエネルギー論的に解明します。微小なNd-Fe-B系焼結磁石粒子(20-100μm径)を雰囲気制御下で成形し、その全表面に各種金属をスパッタ、熱処理して調製する試料の磁気特性測定と3次元的磁区構造観察を行うことで、同磁石の保磁力向上の方策を見出します。
高梨 弘毅 東北大学
金属材料研究所
教授 貴金属フリーL1型規則合金磁石創製の指針構築 本研究では、Fe、Co、Niのみから成るL10型規則合金を作製し、産業界の要望である希少金属を用いない高性能磁石材料としての可能性を探究します。そのために、薄膜試料を用いた基礎研究と、新しい製造法として巨大ひずみ加工技術を用いたバルク試料の研究を、連携して推進します。また、放射光を用いた構造・磁性の高精度評価および第1原理計算による最適物質設計により研究を支援し、産学の対話のもと、新磁石創製の指針を構築します。
中村 裕之 京都大学
大学院工学研究科
教授 鉄系酸化物磁石の飛躍的高機能化を目指した微視的評価技術の開発と保磁力機構の解明 フェライト磁石では母物質の鉄原子の一部をコバルトに置換することで性能を高めていますが、置換原子の占有位置や置換に伴う電子状態の変化について統一見解がなく、そのことがより高性能な磁石の開発を阻んでいます。本研究では、多元多サイト化合物の原子レベルの解析法を確立し、置換サイトや電子状態変化を明らかにします。その結果を前提に保磁力の機構や合理的な物質設計指針を提案し、産学共創の場を活用して、高機能鉄系酸化物磁石の開発を目指します。

<プログラムオフィサー(PO)総評>

Nd-Fe-B磁石の発表から30年が経過し、次世代磁石の開発が強く望まれています。また、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存磁石の飛躍的特性改善や新磁石の開発が必要とされています。本技術テーマでは、革新的次世代磁石の創製のための基盤技術とそれにつながる指針を確立するために、基盤研究を推進し、我が国の産業競争力の維持・強化と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指します。

本技術テーマについて、平成23年9月1日(木)から10月11日(火)まで研究課題公募を行い、28件の応募を頂きました。応募頂いた研究課題の内容は、磁性発現に関する研究、材料のキャラクタライゼーションを通じた永久磁石高性能化のための指導原理の確立、新規な手法による既存材料の高性能化、新規磁石材料の探索、計算科学を利用した新永久磁石材料の設計・開発、応用を意識した新磁石の開発など多岐に渡り、すばらしい可能性を含む提案を多くいただいたと感じております。複数の研究機関に所属する異なる分野の研究者が共同で課題に取り組む提案も多く、困難な課題を克服するための工夫が感じられました。また、磁石以外の研究領域で実績を残しておられる研究者の方々からも多くの応募を頂き、本技術テーマの設定がこの分野の更なる活性化につながることを実感しました。 審査にあたっては、産業界・アカデミアからなるアドバイザーの協力のもとに、書類選考と面接選考を行いました。応募頂いた提案はいずれも意欲的な研究でしたが、研究目的、独創性、計画の妥当性、実現性などを備え、本技術テーマの解決に大いに貢献すると期待できる課題として、6件の提案を採択しました。特に、提案いただいた研究課題が現存の磁石の特性を凌駕する次世代高性能磁石創製につながるか、磁石の生産・応用に関連した産業の競争力強化に貢献できるか、について重視して評価しました。残念ながら、今回は不採択とさせて頂いた課題にも、研究計画や体制の修正等を実施することですばらしい提案となる可能性を含む提案が多くありましたことを、ここに特記させて頂きます。採択された研究課題については、本技術テーマの目的達成を促進するために運営する「産学共創の場」において、各研究課題の研究計画、進捗状況や成果創出状況、産業界の要望などを議論して頂きます。各研究者には、産業界からの要望も取り入れながら研究を進めて頂くことになります。このプログラムを通して、各研究課題を進展させ、革新的次世代高性能磁石創製のための指針を構築し、我が国産業の国際競争力の維持・強化と社会基盤の強化につなげたいと思います。

技術テーマ:ヒト生体イメージングを目指した革新的バイオフォトニクス技術の構築

PO:高松 哲郎(京都府立医科大学 大学院医学研究科 細胞分子機能病理学 教授)

技術テーマ概要

ライフサイエンス分野における光を用いたイメージング技術の発達は著しいものがあります。それはカメラやレーザーに代表される光学系技術とGFPに代表される機能分子に特異的なプローブの作製技術とが両輪となって発達してきたことに支えられています。このように著しい発展を遂げてきた光イメージング技術は、現在、医療に応用されつつありますが、臨床に使えるプローブが少ないこと、組織深部の観察が難しいことなどの理由により、その技術を十分に活用できていません。しかし、医薬産業や医療・福祉産業などでは、生理学的・生化学的機能とその病態の検出のため、分子レベルから個体レベルまでの機能を非侵襲的にリアルタイムで計測する方法の確立が渇望されています。本技術テーマでは、組織の深部を観察するため、革新的な光テクノロジーを統合し、将来医療に応用できる基盤技術を構築することを目的とします。また、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場「産学共創の場」を活用することにより、産業界の基本的ニーズを共有し、世界をリードする基礎的な研究にも反映していきます。

本技術テーマが求める技術は、以下のようになります。

新規採択研究代表者・研究課題一覧 (氏名五十音順)
研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
石原 美弥 防衛医科大学校
医用工学
教授 機能性プローブに基づく生体深部光音響イメージング技術の確立:activatableプローブの開発研究とin vivo可視化イメージング技術の開発 機能性プローブを利用する光音響イメージング技術を構築し、臨床的に極めて意義のある深部(~30mm)の数mm程度の微小がんの検出を目指します。具体的にはプローブシグナルのバックグラウンドからの分離性を向上させた光音響イメージング技術を開発し、activatable光音響プローブとして、がん部位を特徴づける酵素活性により光音響シグナルがONになる色素分子、および金ナノ粒子を合成するチーム研究として実施します。
大辻 英吾 京都府立医科大学
医学研究科
教授 5-アミノレブリン酸(5-ALA)とランタニドナノ粒子(LNP)併用による深部微小癌局在診断技術の構築 既存の診断技術では微小転移診断は困難です。5-アミノレブリン酸 (5-ALA)はがん細胞に蛍光物質プロトポルフィリンIX(PpIX)を蓄積します。この性質を用いた胃がんの術中表層微小転移診断(腹膜播種、肝転移)の有用性は確認できました。しかし、リンパ節転移や深層腹膜播種、肝転移の診断は困難でした。そこで、近赤外励起によりPpIXを励起することが可能なランタニドナノ粒子と5-ALAを併用することで深部の微小がん局在診断技術の開発を行います。
小川 美香子 浜松医科大学
メディカルフォトニクス研究センター
准教授 蛍光トモグラフィイメージングへの利用を目的とした、機能性ナノ粒子を用いた新規近赤外蛍光分子イメージングプローブの創製 本研究では、動脈硬化やがんなどの特異的検出を可能とする、近赤外蛍光分子イメージングプローブを開発します。具体的には、近赤外蛍光標識アクチベータブルプローブを細胞標的化リポソームに内包することにより、特異性の向上を目指します。近赤外蛍光を用いるため、トモグラフィイメージングへの応用が可能であり、放射性標識も施したマルチモダルプローブとすることで、トモグラフィイメージング実用化へ向けた検証も行います。
西條 芳文 東北大学
医工学研究科
教授 透明圧電素子の応用による革新的光音響顕微鏡の開発 物質にごく短時間のレーザー光を照射したときに発生する超音波による光音響イメージングは、光を用いた方法では観察できなかった生体深部の形態やバイオメカニクスを画像化する方法です。本研究では、光を通過させる透明圧電素子により光学系と音響系を単一のセンサに統合し小型化することで、高精度光音響顕微鏡を開発するとともに、産学共創により内視鏡などの国際競争力のある医療機器への展開を目指します
多喜 正泰 京都大学
地球環境学堂
助教 長残光蛍光体ナノ粒子を用いた癌細胞および細胞外マトリックスの無励起光型バイオイメージング 長残光蛍光体は数分間の紫外光照射により長時間発光し続ける希土類元素含有セラミックです。本研究では、緑色~近赤外発光を示す各種長残光蛍光体ナノ粒子を開発し、無励起光下におけるがん細胞や細胞外マトリックスの蛍光イメージング技術を構築します。さらに、近赤外光照射により発熱するという長残光蛍光体の特異な物性を活用することで、蛍光イメージングから部位選択的な光熱治療へと直接移行できる新たな治療技術を提案します。
飛田 成史 群馬大学
大学院工学研究科
教授 金属錯体を発光プローブとするヒトの低酸素病態イメージングプロジェクト イリジウム錯体に代表される一部の金属錯体は、室温、脱酸素下で強いりん光を示します。りん光は蛍光に比べて発光寿命が長いため、酸素存在下で顕著な消光を受けます。この酸素消光現象を利用して、がんなどの低酸素組織をイメージングし、その酸素レベルを定量・画像化するための最適発光プローブの設計と合成、in vivoイメージング技術の開発を行い、将来、ヒトに応用できる低酸素病態イメージング技術の確立を目指します。
西村 吾朗 北海道大学
大学院工学研究科
助教 ヒト組織深部のイメージングを可能とする定量的蛍光分子イメージング基盤技術の確立 蛍光を用いた吸収の3次元再構成のアルゴリズム(FA-DOT)を採用し、蛍光および励起光の時間応答波形から蛍光プローブの吸収として物質量とその位置や大きさを3次元的に定量し可視化する手法を開発します。特に、解析モデルの妥当性やそこでの仮定の破れ、実験的な誤差などの問題を解析し、それらの問題に対しロバストなアルゴリズムを構築し定量的3次元蛍光画像再構成技術を確立します。最終的にPETとの同時測定により定量性を検証します。
橋本 守 大阪大学
基礎工学研究科
准教授 高速誘導ラマン散乱スペクトルイメージングシステムの開発 ラマン散乱は、全ての分子が持つ分子振動により無染色に分子種・分子構造に関する知見を得ることが可能ですが、非常に微弱であるためにそのリアルタイムイメージングは困難でした。本研究では、誘導ラマン散乱の並列励起・検出を行い、非共鳴バックグラウンドの影響なく、分子識別能力の高い指紋領域(500-1800cm-1)での生体試料のリアルタイム(33ms/image)・ラマン・イメージングを実現します。
星 詳子 (財)東京都医学総合研究所
ヒト統合脳機能プロジェクト
プロジェクトリーダー バイオメディカル光イメージングにおける数理モデルと画像再構成 近赤外拡散光トモグラフィは、ダイナミック・マルチレベル生体イメージングを可能にする技術です。生体内光伝播の解明は、拡散光トモグラフィのみならず、光生体イメージング技術開発に共通した基盤となる課題で、本研究では、生体組織の光学特性値を決定し、高精度コンピュータ計算技術・シミュレーション技術を開発して、生体内光伝播を厳密に再現する数理モデルを構築します。さらに高速・高精度画像再構成アルゴリズムを確立して、拡散光トモグラフィの実用化を目指します。
山田 勝也 弘前大学
医学研究科
准教授 蛍光標識グルコース法による体内診断用プローブの開発 がんの画像診断法として放射性標識ブドウ糖(グルコース)を利用したPET(陽電子断層法)が用いられているが、小さながんの早期発見が困難であることに加えて、個々の細胞の違いを見分けられないなどの短所があり、微小ながんを明瞭に可視化して細胞を評価する方法が求められていました。本開発は、蛍光標識グルコース誘導体を生体内に適用してがん細胞の正確な可視化を実現しようとするもので、がんの早期発見や診断精度の飛躍的向上が期待されます。

<プログラムオフィサー(PO)総評>

医薬産業や医療・福祉産業などでは、生理学的・生化学的機能とその病態の検出のため、分子レベルから個体レベルまでの機能を非侵襲的にリアルタイムで計測する方法の確立が渇望されています。本技術テーマでは、組織の深部を観察するため、革新的な光テクノロジーを統合し、将来医療に応用できる基盤技術を構築することを目的としました。具体的な技術分野は、1)生体内光伝播を正確に記述する数理モデルとシミュレーション技術、2)拡散光・蛍光トモグラフィや光音響トモグラフィなどによるイメージング技術、3)蛍光分子イメージングプローブの創製、4)プローブを用いない分子イメージング技術です。これらの技術の統合によって、これまで不可能であったがんや生活習慣病の超早期の診断・治療が可能になると考えます。

本技術テーマの研究課題公募は、平成23年9月15日(木)から10月24日(月)まで行われました。66件の応募があり、以下の基準に沿って選考が行われました。

提案された技術分野では研究者人口を反映してか「3)プローブの創製」が最も多かったのですが、その他の分野にも優れた提案をいただきました。応募された研究者の専門分野は多岐にわたり、生体イメージングが多くの分野で期待されていることを実感しました。また、30歳代から60歳代まで幅広い年齢層や女性の研究者から応募をいただいたのも特徴だと思います。これらの提案に対し、専門分野をカバーする“産”および”学”からなるアドバイザーの協力を得て、書類選考、面接選考を行い、その結果、本年度は10件を採択課題としました。

今後、「産学共創の場」において、採択された課題を遂行する“学”と本技術のニーズを発信した“産”との間で意見交換を緊密に行い、その研究の方向性を議論し、研究成果を産業界が活用できるようにしなければなりません。ライフサイエンス分野における光を用いたイメージング技術は光学系技術とプローブの作製技術とが両輪となって発達してきたことに支えられており、その国の持つ多くの分野の総合力に依存します。この技術テーマを10年後の日本の国際競争力の維持・強化につなげるために、適切な運営をおこなっていきたいと思います。

この“産”および“学”による共同プロジェクトによる基盤的研究の進展が、日本の国際競争力の維持・強化につながり、生体イメージングの性能を飛躍的に向上させることを期待します。