(別紙1)

独立行政法人 科学技術振興機構 社会技術研究システムにおける
新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」について

1.はじめに
 文部科学省「脳科学と教育」研究に関する検討会報告『「脳科学と教育」研究に関する推進方策について』(平成15年7月)における、教育を取り巻く環境の変化に対応するための研究(環境影響・情報化の進展などが脳機能に与える影響など)の必要性の指摘や、長期的な追跡研究(固定の統計群の経時的な追跡研究 )の必要性の指摘を受け、独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST)は、新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」を発足し、単発の刺激と脳内における反応の計測だけでは解明できない、社会・生活環境が心身や言葉の発達に与える影響やそのメカニズムの解明と、その成果の活用方策の提示を目指す。
 研究の推進にあたっては、追跡研究手法に非侵襲脳機能計測あるいは行動学的観察を組み込んだ手法を用い、設定されたミッション達成のため研究を推進する「ミッション研究」、及び広く一般より研究提案を募る「公募研究」の連携により進める。連携にあたっては、社会技術研究システム内に「脳科学と社会研究センター」を設置し、実効的な連携を図るとともに、個人情報保護に留意した情報の管理を行う。
 個人情報保護や十分な説明の上での同意(インフォームド・コンセント)の取り扱いなどの倫理的対応については、倫理審査委員会を設置して適正な研究推進を図るものとする。
 また、「脳科学と社会研究センター」に倫理研究グループを設置し、適切な研究実施に資するよう、倫理的・社会的課題の検討を行う。
2.ミッション研究について
 社会問題の解決を図るために重要と考えられるミッションを設定し、研究統括のリーダーシップのもと、ミッション達成に向けて研究チームを組織し、研究を推進する。
 今回ミッション研究として、「日本における子供の認知・行動発達に影響を与える要因の解明」を設定した。

 ・研究統括 :小泉英明((株)日立製作所 フェロー)
 ・研究期間 :平成16年度から2年間の準備調査及び予備的研究(パイロット・スタディ)の実施を経て、平成18年度から5年間の本格的な調査研究を実施する。ただし、本格的な調査研究の実施に先立ち、平成17年度末を目途に、それまでの準備調査、予備的研究の成果等の状況を踏まえ、研究計画全般についての事前評価を行うものとする。
 ・研究予算 :200百万円(平成16年度)
 ・研究概要 :社会・生活環境が心身の発達に与える影響やそのメカニズム解明を目指し、特に、社会能力(他者と円滑に付き合う能力)の神経基盤及び発達期における獲得過程について解明する。研究は、ある統計因子を共有する集団を対象とした追跡調査を中心に実施し、質問票調査、行動発達・発達神経学的観察、非侵襲脳機能計測により行う。2年間は準備及び予備的研究を実施し、平成18年度より1万人規模で実施予定。
3.公募研究について
 社会問題の解決を図るために重要と考えられる着眼点を踏まえて推進すべき研究領域を設定し、研究領域ごとに研究課題を募集して、研究総括を中心に研究課題を選考・採択し研究を推進する。
 今回、「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」の公募研究を、JST社会技術研究システムにおける既存研究領域「脳科学と教育」内にて行うこととし、追跡研究的手法に非侵襲脳機能計測あるいは行動学的観察を組み込んだ手法を用いて進める研究課題について、研究タイプII として募集する。

 ・研究総括:小泉英明((株)日立製作所 フェロー)
 ・研究期間・研究費規模:
研究領域 研究タイプ 研究費 研究期間 構成人数
脳科学と教育 〈タイプI 〉 1~2千万円程度/年
(総額:3~6千万円程度)
原則3年 数名~20名
程度
〈タイプII 〉(※) 2~5千万円程度/年
(総額:1~2.5億円程度)
原則5年
以内
数名~20名
程度
(※) 文部科学省「脳科学と教育」研究に関する検討会報告『「脳科学と教育」研究に関する推進方策について』(平成15年7月)を受け、追跡研究的手法に非侵襲脳機能計測あるいは行動学的観察を組み込んだ手法を用いて進める研究課題を対象とする。従来の「脳科学と教育」領域で募集する研究課題(タイプI )に加え、本年度研究タイプII として募集する。
募集スケジュール
 研究提案募集開始  平成16年 6月30日(水)
 募集説明会(東京会場)         7月16日(金)
       (大阪会場)         7月20日(火)
 募集締切         8月16日(月) ※当日消印有効
 選考(書類選考/面接選考)       ~10月中
 研究開始         11月中

募集・選考にあたっての考え方:応募研究課題を選考する研究総括から応募者へのメッセージとして募集要項に記載するものであり、下記の通りである。

 本研究は、Human Security & Well-being(安寧とよりよき生存)を基調とした未来を見据え、先端技術・自然科学と人文学・社会科学を架橋・融合したTrans-disciplinary (環学的)な視点から、教育関連問題の根幹に迫ります。平成16年度の募集に当たっては、これまでの「脳科学と教育」研究の募集(タイプI )に加え、文部科学省「脳科学と教育」研究に関する検討会の報告『「脳科学と教育」研究の推進方策について』(平成15年7月)を受け、特に追跡研究的手法(対象群に関する前方位的(prospective)あるいは後方位的(retrospective)な追跡研究)を用いた研究課題(タイプII )をも募集します。

〈タイプI 〉
 発達認知神経科学を含む脳科学、発達心理学や言語学、そして非侵襲脳機能計測や各種情報技術を架橋・融合して、実践的かつ人間性を基調とした学習・教育に関する研究を志向します。学習効果・学習意欲の視点から、遺伝因子・環境因子(genetic・epigenetic, nature・nurture)と相互作用, 神経結合による環境適応、可塑性、神経伝達物質と興奮・抑制機序、髄鞘化の遺伝情報・機能発現機序、機能領野再構築、臨界期・感受性期、記憶、情動、報償系などを包括的に研究し、一般学力・語学力のみならず、創造力・洞察力・理解力の改善、そして他者を思いやる心・奉仕の心の育成、さらに倫理・義務を尊重する心の醸成、加齢と能力維持等のテーマを含めます。利便性・物の時代から叡智・心の時代を志向し、人間の基本的能力向上を目指します。恣意的仮説に基づいた推論ではなく、科学的・実証的根拠を基調とした実直な研究内容を期待します。

〈タイプII 〉
 タイプI における考え方を含む研究課題のうち、実証的な追跡研究による、発達認知神経科学を含む脳科学、発達心理学や言語学、そして非侵襲脳機能計測や各種情報技術を架橋・融合して実践的かつ人間性を基調とした学習・教育に関する研究を志向します。
 具体的には、追跡研究的手法に非侵襲脳機能計測あるいは行動学的観察を組み込んだ手法を用いた、1 母語・非母国語の習得と脳機能発達の解明研究、2 双生児を対象とした環境要因と遺伝要因の解明研究、3 胎児の行動発達研究、4 加齢と脳機能維持に関する研究、5 学習障害メカニズムの解明とその予防/対応方策に関する研究、あるいは、6 意欲や創造性の脳内機序解明やその向上に資する研究、7 追跡研究の方法論などの研究テーマを期待します。

4.脳科学と社会研究センターについて
 社会技術研究システムにおいて、「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」研究を協働して推進するために必要な企画・調整、及び新たに求められる倫理的対応や内外の動向調査等を行う。また、追跡研究で得られたデータを一元管理するデータ管理センター機能を持つ。

 ・研究センター長 :小泉英明((株)日立製作所 フェロー)
 ・情報管理体制 :各地域の研究拠点で集められたデータは、連結可能匿名化がされた上で、データ管理センターにおいて一括管理を行う。地域研究拠点、データ管理センターとも、情報管理責任者を置き、厳格にデータを管理する。また、統計的な解析を行う場合には、解析を担当する研究者に、データ管理センターから厳格に管理された状態で、匿名化されたデータが提供される。

5.研究運営上の特長
・脳科学と社会研究センターを設置し、ミッション研究、公募研究を有機的かつ一体的に推進するとともに、データを集中的に管理する。
特に、個人情報保護の観点からは、責任を明確にした管理体制のもと情報管理を行うことができる。
JSTが行うミッション研究は「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」研究に係る倫理規程に基づいて研究計画等の審査が行われる。JSTからの委託または共同研究の契約に基づくミッション研究あるいは公募研究においては研究実施機関の定めに従うが、それぞれの実施機関における倫理審査結果等についてJSTに報告をしてもらい、JSTはそれらを確認の上、必要に応じて意見を述べる。そのことで委託または共同研究の契約相手機関の実施する研究についても同等の倫理的対応を求めることができる。

「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」研究の体制について


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This page updated on June 29, 2004

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