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別紙1

別紙1:平成23年度 新規採択プロジェクトなどの概要 一覧

○研究開発プロジェクト 

実施期間:1年半~3年、研究開発費:1500万~2000万円/年
題 名 研究代表者名
所属・役職
概 要
イノベーションの科学的源泉とその経済効果の研究
長岡 貞男
一橋大学
イノベーション研究センター
教授

イノベーションの科学的な源泉とその経済効果を適切に把握することが、政策の科学を発展させる上で非常に重要である。

本プロジェクトでは、医薬・バイオ分野においてイノベーション実施者にその科学的な源泉について体系的な調査を行って、サイエンスを源泉としたイノベーション創出のメカニズムを把握する客観的データを構築する。また、それを拠り所として、論文や特許の公開情報がサイエンスからの知識フローを把握する程度を評価し、その把握力を高める手法を研究するとともに、サイエンスに基づくイノベーションの経済効果を評価する。これらを踏まえ、サイエンスのイノベーションへの貢献を高めるための政策設計に有用な、オリジナルなデータや分析手法を提供するとともに、政策提言を行う。

科学技術への社会的期待の可視化・定量化手法の開発
玉村 雅敏
慶應義塾大学
総合政策学部
准教授

多様な社会課題により深く直面していく日本においては、限られた社会的資源を効果的に投入し、高い社会生産性を実現し、さまざまな社会課題を解決していくことが求められる。そのためには、「技術イノベーション」と「社会イノベーション」の両面の相乗効果が重要となる。

本プロジェクトは、社会課題解決に関する国民の社会的期待を可視化する手法や、科学技術が社会にもたらす変化や受益者に対する便益を定量的に評価する手法といった、科学技術への「社会的期待」を可視化・定量化をする手法の開発に取り組む。そして、この手法を活用した結果として得られる情報を共通基盤とし、科学技術と社会の相乗効果を加速させることを目指す。

共同事実確認手法を活用した政策形成過程の検討と実装
松浦 正浩
東京大学
公共政策大学院
特任准教授

政策形成の現場では、利害が対立するステークホルダーが自分の利害に合わせて異なる科学的根拠を提示するために、利害調整による合意形成が複雑化している。

本プロジェクトは、ほぼ全てのステークホルダーが納得できる科学的根拠を、ステークホルダーと専門家の協働で特定する「共同事実確認」の方法論を検討する。具体的には、エネルギー政策、食品安全、海洋空間計画を対象とする実証実験を行い、社会実装に向けた活動を行うことで、科学的根拠に基づく政策形成の実現を目指す。

電力分野のイノベーションと研究開発ネットワークに係わる評価手法の開発
秋山 太郎
横浜国立大学
成長戦略研究センター
センター長・教授

東日本大震災以後の電力事情、スマートグリッドや燃料電池の技術革新を背景とし、電力市場におけるイノベーションが注目を集めている。

本プロジェクトでは、適切な市場・制度の選択を考慮した次世代電力システムの影響の数量的評価と適切な電力市場の設計、燃料電池の共同研究開発ネットワークの推定とそれに基づいた燃料電池への公的研究開発支出の評価を行う。これらを通じて、電力分野のイノベーションに関する政策に寄与するとともに、インフラなどの市場・制度の選択を必要とするイノベーション評価のフレームワーク、公的研究開発投資の研究開発ネットワークに対する効果の評価手法を構築し、科学技術イノベーション政策に貢献する。

ファンディングプログラムの運営に資する科学計量学
調 麻佐志
東京工業大学
大学院理工学研究科
准教授

科学技術イノベーション政策における重要な政策手段の1つであるファンディングプログラムにおいて、さらなるエビデンスの活用を促し、その運営に資することを本プロジェクトの課題とする。

本プロジェクトでは、事前調査も含めた実務家との対話を通じて研究課題を設定し、解決するとともに、実務家と研究者が協働できるプラットフォームの実現を目指した実践的活動を行う。その具体的な成果として、プログラム運営に携わる実務家が利用可能な評価指標、科学活動の可視化手法などを開発するとともに、継続的なワークショップの実施や分析経験の共有を通じて実務家と研究者の協働を促進する場を形成することを目標とする。

未来産業創造にむかうイノベーション戦略の研究
山口 栄一
同志社大学
大学院総合政策科学研究科
教授

イノベーション型産業の担い手が自前主義の「大企業」からオープンな「イノベータのネットワーク」に変容したことに気づかず、産業社会のさまざまな課題解決に遅れを生じさせたという状況を変革する。そのために、イノベーションが生起するための科学・技術、人物、機関などの有機的な連結を可視化、解析・評価するためのツール「日本知図」を開発し、関係協力機関において、イノベーション創発ツールとして公開する。同時に、サイエンス(知の創造)とイノベーション(価値の創造)をつなぐ目利きである「イノベーション・ソムリエ」の教育体系と認定制度を研究し、人材育成に貢献することを目指す。

○プロジェクト企画調査

実施期間:5ヵ月未満、企画調査費:数百万程度

題 名 研究代表者名
所属・役職
イノベーション創出に向けた「科学技術への潜在的関心層」のニーズ発掘 加納 圭
京都大学 物質-細胞統合システム拠点
科学コミュニケーショングループ
特定拠点助教 
科学技術イノベーション政策のマクロ経済評価体系に関する調査 楡井 誠
一橋大学 イノベーション研究センター
准教授 

<総評>プログラム総括 森田 朗(東京大学 大学院法学政治学研究科 教授)

少子高齢化、人口減少が進み、加えて厳しい財政の下で、わが国がこれからも着実に成長し続けるためには、科学技術の発展によるイノベーションを図ることが不可欠です。これまで、多額の研究投資が行われてきたにもかかわらず、また優れたアイディアがありながらも、しばしば、社会の問題を有効に解決し、その発展を図る制度化・イノベーションに結びつけることが困難な場合がありました。これは主に、科学技術イノベーション政策を創出するための客観的根拠に基づく明確な方法が存在していなかったためと考えられます。本プログラムは、こうした状況を改善するため、科学技術の基礎的な研究を進め、これを実際の課題に応用し、その解決に結びつくような政策、あるいは基礎的な研究に基づいて社会のイノベーションを推進するような政策を策定するための方法の開発を目指しています。

本プログラムでは、初年度の公募に当たり、東京で説明会を実施しました。そこでは、(1)現実の政策形成における活用を目指す実践的な研究開発であり、(2)政策や社会への実装・定着が可能な成果を創出するための研究開発アプローチを採用していること、(3)成果等の寄与の道筋やその成果実装の担い手を具体的に想定した計画であること、さらには、(4)社会の問題解決に寄与し、他の公共政策への展開可能性があること、といった要点が盛り込まれた提案が期待されることを強調しました。

これに対して、大学や研究機関のみならず、独立行政法人、特定非営利活動法人、民間企業等から56件という多数の応募が寄せられました。これを主カテゴリー別でみると、「科学技術イノベーションの推進システムの構築」の提案20件、「政策形成における社会との対話の設計と実装」の提案19件、「研究開発投資の社会経済的影響の測定と可視化」の提案10件、「戦略的な政策形成フレームワークの設計と実装」の提案7件という内訳となります。また、研究代表者も30代から70代までの積極的な応募が寄せられ、本プログラムへの関心と期待の高さをうかがわせるものでした。

今回の審査にあたっては、特に以下の点を重視しました。すなわち、(1)「政策のための科学」という本プログラムの目的・趣旨に適合する提案かどうか、(2)課題の把握が適切であり、成果の政策への実装、政策形成プロセスに対する寄与があるかどうか、(3)成果の実装・定着に向けた研究開発アプローチが適切であり、実施期間で達成可能な具体的計画かどうか、(4)適切な研究開発の実施体制を整備できているかどうかといった点です。

以上のような観点から、厳正なる書類選考、面接選考を行った結果、6提案をプロジェクトとして採択し、2提案を企画調査として採択しました。全体の採択率は14%となります。採択された提案は、市民参画・合意形成を重視し、社会との対話の設計と実装を目指すものから、政策評価や研究プロジェクト評価を通じて、研究開発投資の社会的影響を捉えようとするものまで、多様なものがあり、科学技術イノベーション政策のための科学に寄与することが期待されます。

今回寄せられた提案の中には、個別領域における研究としての着想が優れており、研究計画自体には魅力を感じるものの、必ずしも本プログラムの目的・趣旨と適合しないものなど、総合的な判断を踏まえて採択とはならなかった提案もありました。本年度の採択の経験を踏まえた上で、来年度は、より一層、現実の政策形成における具体的議論に貢献できる成果を生み出す研究の提案が望まれます。いま、社会の課題解決に向けて、関係者や社会の参画を得て“客観的根拠”を共有し、より合理的な判断につなげる政策形成プロセスを検討する斬新な研究開発を行うことは、社会的な要請でもあります。今年度採択されなかった提案の再チャレンジを含めて、積極的な応募を期待しています。