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資料5

評価者(選考パネル)および評価

研究総括: 秋吉 一成(京都大学 大学院工学研究科 教授)

研究領域:

バイオナノトランスポーター

戦略目標:

プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製

選考パネル:

パネルオフィサー 片岡 一則(東京大学 大学院工学系研究科/大学院 医学系研究科 教授)
パネルメンバー 岡野 光夫(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長/教授)
宍戸 昌彦(岡山大学 異分野融合先端研究コア コア長)
高原 淳(九州大学 先導物質化学研究所 教授)
Jan Feijen(Professor, University of Twente)

評価結果:

研究領域「バイオナノトランスポーター」は、生体分子とそれら本来の特性や機能発現の仕組みを規範としたナノ微粒子の材料工学から、構造と機能が合理的に制御された機能性バイオマテリアルの創製と医療応用を目指す。具体的には、分子シャペロン機能を有する三種のナノ微粒子(ナノゲルテクトン、プロテオリポソーム、エキソソーム)において、多糖、たんぱく質、脂質、核酸などのバイオ素材をもとにした機能発現・構造制御技術の確立に取り組む。また、これらナノ微粒子のボトムアップ集積により階層的機能性ゲルマテリアルや機能界面を創製し、がん治療、ワクチン、骨再生誘導などへの実用化に向けた医療材料の創出を試みる。これらにより、バイオ医薬の機能制御までも可能なDDSシステムの実現など、診断・治療・バイオ計測のための新しい機能性材料の創出が期待できる。また、バイオ高分子や機能性高分子を自在に組み上げる方法論の確立は、医用のみならず次世代の高機能性ナノ材料開発への貢献も期待できる。

本研究領域は、生物学と工学の融合により、ナノスケール領域での自己組織体の構造・機能を合理的に制御する新たな技術基盤の構築を目指すものであり、戦略目標「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」に資するものと期待される。

秋吉 一成 氏は、これまで多糖類を中心とする生体高分子を用いたナノゲル創製に関する先導的研究を行うとともに、医工連携に基づくバイオマテリアル研究を推進しており、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括: 浅野 泰久(富山県立大学 生物工学研究センター 教授)

研究領域:

酵素活性分子

戦略目標:

二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能やバイオマスの利活用技術等の基盤技術の創出

選考パネル:

パネルオフィサー 清水 昌(京都学園大学 バイオ環境学部 教授)
パネルメンバー 太田 明徳(東京大学 大学院農学研究科 教授)
加藤 暢夫(京都学園大学 理事)
古川 謙介(別府大学 食物栄養科学部 教授)
Rolf D Schmid (Coordinator for bilateral cooperations in biotechnology Ministry of Science, Research and the Arts Baden-Wuerttemberg)

評価結果:

研究領域「酵素活性分子」は、微生物のみならず、植物や昆虫が有する酵素反応を探索し、その酵素機能を利用して有用物質の合成や健康診断法に資する基盤技術の構築を目指すものである。具体的には、生物が有するさまざまな酵素を組み合わせて有用物質を生産するための酵素反応を見いだすととともに、アミノ酸の濃度を網羅的、かつ選択的に測定するための手法などの開発に取り組む。これらの研究により、原料を石油としない有用物質の工業生産技術や生体触媒機能を利用した健康診断法などの創出が期待できる。

本研究領域は、新たな酵素機能を植物や昆虫など従来対象として注目されてこなかったものも含めて探索・開発し、戦略目標「二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能やバイオマスの利活用技術等の基盤技術の創出」に資するものと期待される。

浅野 泰久 氏は、これまで微生物由来の新しい酵素機能の開拓と産業利用に関する研究で優れた実績を有しており、応用微生物分野において先導的な役割を果たしていることから、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括: 金井 求(東京大学 大学院薬学系研究科 教授)

研究領域:

触媒分子生命

戦略目標:

レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出

選考パネル:

パネルオフィサー 碇屋 隆雄(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)
パネルメンバー 大嶌 幸一郎(京都大学 環境安全保健機構 機構長)
香月 勗(九州大学 高等研究院 特別主幹教授)
鈴木 寛治(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)
Jan-E. Bäckvall(Professor, Stockholm University)

評価結果:

研究領域「触媒分子生命」は、人類の健康増進と疾病治療へ貢献する革新的触媒反応の創出を目指すものである。具体的には、創薬リードのような複雑構造分子を、短工程で迅速に、かつ低い環境負荷で合成できるような、新たな反応形式を有する汎用金属を用いた遷移金属触媒を開拓する。この新触媒を基盤として、生物活性天然物の触媒的全合成および構造最適化に取り組み医薬機能開発につなげる。さらに、細胞内で化学反応を進行させる人工触媒システムを創出し、これを用いて疾病治療へアプローチする「触媒医療」の確立に挑戦する。新触媒の開拓により、複雑構造分子の高効率、かつクリーンな合成が実現されるだけでなく、元素戦略的に有利な汎用金属触媒の機能拡張への貢献が期待される。また、生物活性天然物の医薬機能開発や「触媒医療」への挑戦は、触媒化学、医薬分野における新概念の創出にもつながるものと期待される。

本研究領域は、汎用金属を触媒中心に用いて分子構造制御により革新的な触媒機能開発を目指すもので、戦略目標「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」に資するものと期待される。

金井 求 氏は、不斉四置換炭素構築に有効なキラル触媒系の開発や、生物活性分子の効率的合成および生物学的研究への応用研究など、本研究領域の基盤となる合成化学の分野において先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括: 斎藤 通紀(京都大学 大学院医学研究科 教授)

研究領域:

全能性エピゲノム

戦略目標:

疾患の予防・診断・治療や再生医療の実現等に向けたエピゲノム比較による疾患解析や幹細胞の分化機構の解明等の基盤技術の創出

選考パネル:

パネルオフィサー 濱田 博司(大阪大学 大学院生命機能研究科 教授)
パネルメンバー 影山 龍一郎(京都大学 ウイルス研究所 教授)
古関 明彦(理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター グループディレクター)
松崎 文雄(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター グループディレクター)
Michael M. Shen(Professor, Columbia University)

評価結果:

研究領域「全能性エピゲノム」は、ヒト生殖細胞の発生過程とその分子メカニズムの解明を目指す挑戦的な課題である。具体的には、モデル動物において生殖細胞(精子および卵)の発生機構の解明と試験管内再構成、始原生殖細胞(精子および卵の元となる細胞)におけるエピゲノム修飾の解析手法の開発を行なう。特にモデル動物として一般的なマウスに加え、世界に先駆けてヒトに近い生き物としてカニクイザルをモデルとすることで、私たちの体が多能性を持つ生殖細胞を形成する機構の解明、およびそれらの破たんにより病態につながる過程の解明、さらには生殖細胞の異常による不妊に対する治療法開発の重要なブレイクスルーにつながると期待される。

本研究領域は、ヒトに近い生き物のエピゲノム解析を行うことによって、幹細胞を生殖細胞に分化・誘導するための基盤技術の創出を目指すものであり、戦略目標「疾患の予防・診断・治療や再生医療の実現等に向けたエピゲノム比較による疾患解析や幹細胞の分化機構の解明等の基盤技術の創出」に資するものと期待される。

斎藤 通紀 氏は、これまでマウスのES細胞を用いて始原生殖細胞の誘導メカニズムを明らかにするとともに、単一細胞に発現する遺伝子を定量的、かつ網羅的に解析する技術として「単一細胞マイクロアレイ法」を開発するなどの顕著な業績を上げていることから、研究総括として相応しいと認められる。

研究総括: 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

研究領域:

生体調和エレクトロニクス

戦略目標:

神経細胞ネットワークの形成・動作の制御構築の解明

選考パネル:

パネルオフィサー 齋藤 軍治(名城大学 総合研究所 教授)
パネルメンバー 石黒 武彦(京都大学 名誉教授)
金藤 敬一(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)
北川 宏(京都大学 大学院理学研究科 教授)
Lahcène Ouahab(Université de Rennes, Director of Research CNRS)

評価結果:

研究領域「生体調和エレクトロニクス」は、生体に適合する有機物を用いて、生体とエレクトロニクスを結びつけるデバイスを開発することなどにより、神経細胞とエレクトロニクスを直接つなぐインタフェースの実現を目指すものである。具体的には、塗るだけで神経細胞に密着する生体プローブを作製できる「バイオゲルインク」を開発し、この柔らかな材料の表面や内部に集積回路などの精密な配置を行う「バイオデジタルフォト印刷」をミクロンオーダーの精度で実現する。さらには電気信号と化学信号を同時にリアルタイムで計測し、何百万個もの生体プローブから信号を読み出す「バイオアクティブマトリックス」の開発を行う。これらの主要課題を同時並行的に実現することで、これまで困難であった神経細胞とエレクトロニクスとの間で直接に信号の入出力ができる体内埋め込み型インタフェースの構築を目指す。これらが実現すれば、例えば神経細胞間のネットワーク活動を可視化できるデバイスの開発、皮膚感覚までも取り戻せる人工皮膚の実現、神経再生用のチューブに電気的、光学的、化学的刺激を導入した治療による、リハビリテーションの大幅な期間短縮などの展開が期待される。

本研究領域は、生体適合性を持ったデバイスが神経細胞ネットワークと直接信号の入出力を行うことを可能にする研究開発や、脳などの複雑な神経細胞間のネットワークの仕組みの解明を目指すものであり、戦略目標「神経細胞ネットワークの形成・動作の制御構築の解明」に資するものと期待される。

染谷 隆夫 氏は、これまで有機材料を用いたフレキシブルエレクトロニクス分野の最先端研究を先導し、本研究領域の基盤となる「有機トランジスタを用いた大面積センサ」、「電子人工皮膚」などの新しいデバイス開発を世界に先駆けて実践しており、研究総括として相応しいと認められる。