エレクトロニクスは、シリコンデバイスを微細化して機械の演算速度と記憶容量を改善することで、現在の高度情報化社会の基盤を築いてきました。しかし、「より速く」のみを目指した技術開発はすでに限界に達しつつあり、世界の開発競争は「エレクトロニクスと環境との調和・生体との調和」を目指した次のフェーズへと急速に移行しています。バイオエレクトロニクス、バイオインターフェースという言葉で代表されるこの研究分野は、環境・エネルギー、医療、バイオなど幅広い分野への応用が期待できることから、世界中でエレクトロニクスと環境、もしくは生体、ひいては人間との「調和」を目指して開発競争が繰り広げられています。
本研究領域では、シリコンに代表される従来の無機材料に代わり、柔らかく、かつ生体との適合が期待できる新しい材料である有機材料に着目します。この有機材料の特異的な機能を生かすことで、生体とエレクトロニクスを強く調和させ融合する新しいデバイスの開発、特に生体内で微弱な電気信号や、化学信号を伝達しあう神経細胞とエレクトロニクスを結び付ける全く新しいデバイスの実現を目指すものです。
具体的には、より生体に適合した有機材料による特殊なインクを開発し“塗る”ことで、特に神経細胞に接する生体プローブを実現します。この柔らかく、かつ薄い生体プローブは、神経細胞との密着性を増すことができ、神経細胞間の微細な電流を低ノイズで測定することが可能になります。さらにこの“柔らかい”生体プローブを作製するための回路パターン印刷技術、そして神経細胞から出る電気信号、化学信号を何百万個となる生体プローブで受信し、リアルタイムで神経細胞間でのネットワークを可視化する読み出し集積回路の開発を進めていきます。
これらの技術開発は、細胞間のネットワークを可視化できるインプランタブル(生体内への埋め込みが可能な)フレキシブルデバイスともいうべき新しいデバイスの開発につながります。この新しいデバイスを活用すると、例えば神経細胞間の複雑なネットワーク可視化、さらには膨大な神経細胞の集合体である脳の活動そのものを詳細に可視化することが可能になると期待されます。
本研究領域は、神経細胞ネットワークを生体適合材料によるデバイスにより直接計測することを可能にする技術の開発を行うと同時に、開発されたデバイスを用いて神経細胞のネットワークの解明を目指すものです。その研究成果は、戦略目標「神経細胞ネットワークの形成・動作の制御機構の解明」に資するものと期待されます。
1.氏名(現職) | 染谷 隆夫(ソメヤ タカオ) (東京大学 大学院工学系研究科 教授) 42歳 |
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2.略歴 |
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3.研究分野 | 有機エレクトロニクス、大面積エレクトロニクス、センサー・アクチュエーター | ||||||||||||||||||
4.学会活動など | Materials Reseach Society Board of Directors、IEEE Electron Devices Society 会員、応用物理学会 会員、電子情報通信学会 会員、2012 International Conference on Flexible and Printed Electronics 組織委員長、ほか | ||||||||||||||||||
5.業績など | 新産業の創出には、新材料によるエレクトロニクス開拓が重要課題であり、その中でも有機材料を用いた有機エレクトロニクスは、環境保全や安心安全社会への実現などへの応用が強く期待できる分野である。しかし有機材料は物性・技術の面で未解決な部分が多く、産業応用が難しい材料でもある。染谷氏は早くからこの分野を先導し、有機トランジスタの大面積集積回路を容易に作れることを示し、世界で初めて有機トランジスタを用いた大面積センサを開発した。さらには、有機トランジスタの物性とプロセス技術に関する系統的な研究を進め、薄膜トランジスタなどで利用されるアモルファスシリコンと同程度の電気伝導性、劣化抑制を可能にするプロセス技術を開発し、有機トランジスタの産業応用の可能性を大きく高めた。特に、伸び縮みが可能な有機ELディスプレイ、極端な曲げにも対応できるフレキシブル有機トランジスタなど新しいデバイスの開発を行い、エレクトロニクスの新領域の開拓に大きく貢献している。 | ||||||||||||||||||
6.受賞など |
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