JST 社会技術研究開発センター(RISTEX)は、「社会における、社会のための科学」という理念に基づき、日ごろから高齢化、地球温暖化、安全・安心などさまざまな社会の問題解決に向けた研究開発を行っています。東日本大震災に際しては、これまで培ってきた成果・知見・ネットワークなどを活用し、下記に示したような被災者・被災地の問題を解決するための対応・支援活動や今後の復興支援の検討・立案に資する情報・材料の提供などに取り組んでいます。
今回の戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「東日本大震災対応・緊急研究開発成果実装支援プログラム」での新規実装活動の公募は、こうした総合的な取り組みの一環として実施しました。
片田教授が開発した「津波災害総合シナリオ・シミュレータ」を活用し、災害に強い地域をつくるための住民への意識啓発活動や小中学生への防災教育活動を何年にもわたり継続してきました。今回の大震災では、実装活動の拠点の1つであった岩手県釜石市も想定をはるかに上回る津波に襲われ、海から1キロ以内にある小中学校では校舎が3階まで水没しましたが、日ごろから行っていた防災教育・訓練により、中学生が小学生を引率して冷静に避難を行い、学校から避難した生徒は全員無事に逃げることができました。
林教授は、被災自治体において、迅速で公平公正な「被災者の納得」が得られる生活再建支援のあり方を研究開発しています。今回の大震災では内閣府と協力し被災家屋の状況マップを作成、また2007年新潟県中越沖地震の柏崎市で有効性が証明された「被災者台帳を用いた生活再建支援システム」をネットワーク化し、論理位置情報コードや自己申告システムなどの新技術を導入した生活再建支援の方法を被災自治体と協力して導入する予定です。
自治体が建物の被害調査を迅速に行い、罹災証明書を発行することは、被災者への生活再建支援のために大変重要です。田中教授は、専門的知識がない職員が建物の被害認定調査を行っても「平等」な判定結果を導き出すことができるよう、自治体の支援業務をパッケージとして開発、社会実装しています。今回の震災では岩手県釜石市、陸前高田市で自治体職員への研修を実施するとともに、岩手県に「被災者登録システム」が採用される予定です。
今回の地震では津波で石油タンクが破損し重油が海に流出、大規模な火災も発生しました。宮城県気仙沼市では海への重油の流出量は1万トン以上ともいわれ、1997年のタンカー・ナホトカ号座礁による油流出量(約6000トン)を上回ります。斉藤氏は、回収後、従来は焼却によって処理するしかなかった流出油を「バーク堆肥」と呼ばれる有機肥料で分解・バイオ処理する手法を開発・社会実装していますが、今回、被災地の処理業者に対し流出した油の処理技術を提供するべく準備を進めています。
※採択時の所属。現在の所属は、大分県工業振興課。
本領域のプロジェクト推進の一環として、瀬川教授を代表に昨秋発足した一般社団法人「サイエンス・メディア・センター」が、東京電力福島第1原発の事故を受けてtwitterなどを使って情報収集を行い、専門家の協力のもと、関連Q&Aを同センターWebにアップしています(英語版あり)。「社会的弱者に対する被災支援情報リンク」など随時情報を発信しています。(センターのWebURL:http://smc-japan.org/)
これまでに培ってきた「科学技術と外交・安全保障に係る連携・協働ネットワーク」の実績を生かし、放射線量の推移および健康影響などに関する情報を医療関係者、自衛隊らに配信しています。特に、緊急性を要する重要情報・専門的課題については、英語に翻訳・配信するとともに、海外メディアの取材などにも対応してきました。また、原発災害対策として役立つ資機材の情報を関連する政府機関などを通じて提供し、必要に応じて関係機関間の連絡調整などの支援も行っています。
以上の取り組みに加え、以下の公開シンポジウムの開催を予定しているほか、今次震災対応に関連して出された各方面からの提言内容などを踏まえた今後の活動内容(広域連携システムの構築による計画推進などの被災地復興支援の在り方の検討や各種情報発信など)の検討を行っています。公開シンポジウムについては、下記を参照してください。