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別紙4

平成23年度 新規採択研究代表者および研究開発課題の概要

『基盤技術開発プログラム』

研究代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究開発課題概要
米澤 明憲 情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンター

センター長
データベース統合に関わる基盤技術開発  世界に冠たる統合データベースの構築を企図して、大規模集中型の統合ではなく「フェデレーション(連携)型」のデータベース統合を行う。そのためにRDFを中心とする技術を用いてDDBJやPDBjなど国内の拠点データベース、統合化推進プログラムの分野別データベースなどを分散的に結ぶ新たな統合のシステムを検討し、ライフサイエンス分野の将来のあるべきインフラストラクチャー構築を目指す。さらに大規模データに対応する基盤技術を開発する。

<総評> 研究総括:長洲 毅志(エーザイ株式会社 理事・CSO付 担当部長)

本プログラムは、これまで文部科学省統合データベースプロジェクトとして実施されてきた研究がJSTのもとで恒久的なバイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)として設立されることを受けて、その技術開発を担うものとして公募いたしました。そのミッションは日本を代表する統合データベース作りを行うということで多様なコンテンツへの対応だけでなく、多様なユーザー・ニーズへの対応を要請するものであり非常に難度の高いものと考えております。

選考に当たっては募集要項の内容を実施できるということはもちろんですが、特に重要な課題についてはそれに対するアプローチの独自性、蓋然性(がいぜんせい)、実行可能性へ踏み込んで議論させていただきました。さらに、採択に当たっては多くの個別課題に対する優先度設定をお願いするとともに、研究総括ならびに研究アドバイザーからの追加要望事項も加えて質の高い研究開発を行っていただくように求めました。また、産業サイドからの人間が研究総括を務めるという機会を生かすために、製薬産業との対話を行うことでより有用性の高いデータベース開発を行う体制を構築していくことも求めております。

本プログラムでは日本に分散するライフサイエンス系のデータベースに対して有機的な結合を企図した標準化と、横断検索のための各種技術開発などを行います。このプログラムが成功した暁には死蔵されがちな国家プロジェクトの資産の有効活用という課題と、膨大なデータを生みだす新時代のライフサイエンス系研究のインフラとして機能するという課題に応えることで日本のライフサイエンス分野の「強み」として機能することができるものと考えております。

『統合化推進プログラム』

研究代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究開発課題概要
岩坪 威 東京大学 大学院医学系研究科

教授
ヒト脳疾患画像データベース統合化研究  アルツハイマー病(AD)などの認知症や精神疾患の克服に向けて、日本ではADの発症過程をMRI、PETなどで脳画像評価し、臨床治験におけるサロゲートマーカーとして確立するJ-ADNI研究、精神疾患のMRI脳画像を臨床・遺伝情報とともに収集する包括脳研究が進行中である。本課題は、ADと精神疾患の病態機序の理解に基づく治療法確立を目標に、脳画像を含む臨床データをデータベース化し、アカデミック、製薬企業、審査当局などによる公開活用を図ることを目的とする。
金谷 重彦 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科

教授
メタボローム・データベースの開発  メタボロームはある生物種個体が生産する代謝物の全てである。生物種個体や組織のメタボローム化学分析データや個々の代謝物の生化学や生理・薬理活性などのデータをデータベース化することによって、生命活動の化学的基盤とゲノムからメタボロームに至るゲノム情報の流れを研究するための基礎データを提供する。またメタボロームに関する新たな知識を生み出す場として、低コストで持続可能なwiki型データベースのモデルを確立する。
金久 實 京都大学 化学研究所 バイオインフォマティクスセンター

センター長・教授
ゲノム情報に基づく疾患・医薬品・環境物質データの統合  ヒトゲノム計画を契機としたハイスループット実験技術の進歩と大量データの生産、それに伴うデータベースの整備により、ライフサイエンス分野の研究は大きく進歩しているが、その恩恵は一般社会にまでは到達していない。そこで本研究開発では、疾患・医薬品・環境物質など社会的ニーズの高いデータを、ゲノム情報を基盤とした生体システム情報として統合し、最先端の研究と一般社会との架け橋となる統合データベース構築を行う。
黒川 顕 東京工業大学 大学院生命理工学研究科

教授
ゲノム・メタゲノム情報を基盤とした微生物DBの統合  多様性を特徴とする微生物のさまざまな知識を、ゲノム情報を核として統合し、幅広い分野での微生物学の発展に資することのできる「微生物エンサイクロペディア」の構築を目標とする。国内外に散在する細菌の各種オミックス情報を広く収集し、遺伝子、ゲノム、環境の3つの軸に沿って遺伝子機能、分類学的情報、菌株保存情報、表現型情報などの知識を整理し、ゲノム情報を核として統合することを目指す。
田畑 哲之 かずさディー・エヌ・エー研究所

副所長
ゲノム情報に基づく植物データベースの統合  本課題では、(1)遺伝子オルソログDBの構築とそれに基づく植物ゲノムDBの統合、(2)DNAマーカーおよび連鎖地図情報に基づく植物ゲノムDBの統合、(3)植物リソース情報DBの統合、(4)植物研究に関連する情報基盤の構築、の4項目の研究開発を行うことにより、国内に散在する植物関連データベースの統合と関連情報の収集とデータベース化、さらにコミュニティに対する情報提供基盤を構築する。
徳永 勝士 東京大学 大学院医学系研究科

教授
ヒトゲノムバリエーションデータベースの開発  近年、疾患関連遺伝子・新規多型・変異の報告が相次いでいるが、同一疾患への複数因子の寄与、同一変異の複数疾患への寄与、集団間のゲノムの差異などにより、疾患メカニズムの解明は容易ではない。本提案では、アジア人を中心としたゲノム・遺伝子の多型・変異情報と疾患・臨床情報との関連性研究の成果を収集・解析・体系化し、DBを構築する。疾患の遺伝要因や分子疫学などの研究が促進され、個別化医療の実現が加速されることを目的とする。
豊田 哲郎 理化学研究所 生命情報基盤研究部門

部門長
生命と環境のフェノーム統合データベース  研究や教育の幅広い目的で国民が分かりやすく生物学の多様な計測データにアクセスできる基盤を提供する。生物学データの計測技術は日々進歩し複雑化かつ多様化しているため、生物の個体レベルの多様なデータ(フェノーム)を特定の生物種に限定せずに体系的に整理することで、専門外の人でも分かりやすく探し出せるようにする。これにより生物種の壁を越えて異分野の研究者が多様なデータを共有できる統合データベースを提供する。
中村 春木 大阪大学 蛋白質研究所

教授
蛋白質構造データバンクの国際的な構築と統合化  本研究開発では、国際協力によって蛋白質立体構造データバンク(PDB)の構築・運営を実施するとともに、NMRおよび電子顕微鏡やX線小角散乱による実験情報のデータベースを構築し公開する。さらに、オントロジーや新たなデータ書式、利用者インターフェースや二次的データベースおよび種々のサービスを開発して高度化を図り、人材育成も実施して、ほかの生命データベースとの統合化による高次生命機能の理解に資する。
成松 久 産業技術総合研究所 糖鎖医工学研究センター

センター長
糖鎖統合データベースと研究支援ツールの開発  本研究開発では、糖鎖研究領域や糖鎖と関わりの深い再生医療・感染症・がんなどの分野の研究者を対象とし、データベースやリソース共有を通して共同研究が活発に行われるように情報基盤の整備を行い、統合を図る。さらに、ウェットの研究支援ツールや実験プロトコルの整備を行う。最終的には、研究者がより多くの情報にアクセスできるようにアジアや欧米のデータベースと国際連携を図り、ユーザーの利便性とデータの網羅性を高めることを目標とする。
松田 文彦 京都大学 大学院医学研究科 附属ゲノム医学センター

センター長・教授
大規模ゲノム疫学研究の統合情報基盤の構築  大規模ゲノム疫学研究の詳細かつ多様な情報を統合・一元管理するデータベースを構築し、「ながはま0次コホート事業」参加者1万人の環境・生活習慣情報、健診情報、5,000人の全ゲノム多型情報に加え、複数の複合遺伝性疾患患者数千人の全ゲノム多型情報を登録し、日本固有のゲノム疫学情報として広く国内外に公開する。また、ゲノム情報学、遺伝統計学の若手研究者に実務を通じた教育訓練を実施し、専門家の育成をはかる。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:高木 利久(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)

本プログラムは、国内外に散在しているライフサイエンス分野のデータベースについて、生物種別、分野別、目的別またはデータ種類別などで統合化を実現するものです。具体的には、ヒト、動物、植物、微生物などの生物別、疾患、脳、進化、発生などの分野や目的別、または、ゲノム、プロテオーム、メタボローム、インタラクトーム、フェノームなどのオーミクス単位での統合化の推進を目指すものです。このプログラム実施により、それぞれの分野において、日本を代表するとともに、中核、拠点となる統合データベースの構築を支援します。このような方針の下に、ライフサイエンスの幅広い分野から提案を募りました。選考に際しては、多様な分野をカバーするために8名の研究アドバイザーにご協力をいただきました。

今回は、こちらの意図した通りに、基礎から応用までさまざまな分野から24件の応募がありました。データベースがライフサイエンスの多くの分野で構築され、それぞれが重要な役割を担っていることが再認識されました。全てが重要な提案であり、選考は難航しましたが、書類選考で面接対象提案を13件にしぼり、最終的には面接選考で10件採択しました。これにより、ヒト、マウス、植物、微生物、DNA、たんぱく質、代謝物、疾患、脳などの幅広い分野のデータベースをバランスよく採択することができました。

選考に際しては、(1)ライフサイエンス分野の研究者、技術者にどの程度役に立つものになりそうか、(2)日本における当該分野やコミュニティを幅広くカバーしたものであるか、(3)日本を代表するデータベースであるか、今後そうなり得るか、(4)データ生産者との連携、(5)分野間のバランス、などの観点を考慮しました。今後は採択された課題を個々に推進することはもちろんのこと、これらの課題間の連携を深め、より高い次元でのデータベース統合化を目指したいと考えております。