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別紙

産学イノベーション加速事業【産学共創基礎基盤研究】
平成22年度 採択研究代表者・研究課題一覧

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
飴山 惠 立命館大学
理工学部
教授 調和組織制御による革新的力学特性を有する金属材料の創製とその特性発現機構の解明  循環型社会基盤の構築には、両立できないとされてきた強度と延性を同時に満足する材料が必要不可欠です。本研究では、超強加工粉末冶金プロセスによる調和組織制御により、高強度かつ高延性な金属材料の、特性発現機構の解明、実用化に向けた最適プロセスの提案を目標とします。これにより、稀少元素の利用低減や低環境負荷を実現する軽量構造材料開発、さらには生体用構造材料の高強度化による医療・福祉分野への貢献も期待されます。
木村 勇次 (独)物質・材料研究機構
新構造材料センター
主幹研究員 フェールセーフ機能を付与した強くて壊れにくい超微細繊維状結晶粒鋼の力学特性解明  ナノ・ミクロスケールでヘテロ構造制御された超微細結晶粒材料は常識を超えた優れた力学特性を示しますが、特性発現のメカニズムはいまだ解明されていません。本研究では、研究代表者らが近年見いだした強くて壊れにくい超微細繊維状結晶粒鋼のヘテロ構造と力学特性の関係を最先端の実験解析法と計算シミュレーションで系統的に解明し、ヘテロ構造の最適化を図ります。さらに産業界との密接な意見交換により、超微細結晶粒材の実用化につながる基盤技術の構築を目指します。
里 達雄 東京工業大学
大学院理工学研究科
教授 鉄を活用した新規ナノヘテロ構造アルミニウム合金の創製と3D構造解析  近年、軽量構造用材料への社会的ニーズが高まっており、中でも軽量性を特徴とするアルミニウム合金が注目され、希少金属に頼らない高性能材料の創製が求められています。本研究では、アルミニウムにとって有害不純物とされる鉄に着目し、鉄を逆に有効活用する革新的材料創製を行います。すなわち、新規の加工-半溶融成形プロセスを創案し、微粉砕した鉄系化合物相を活用して従来にないナノヘテロ構造を創出し、革新的成形加工プロセスの構築を目指します。
下川 智嗣 金沢大学
理工研究域
准教授 材料科学と固体力学の融合によるヘテロナノ構造金属における高強度・高靭性両立の指導原理確立  ナノスケールのヘテロな内部組織を有する構造用金属材料は、一見相矛盾する力学特性の同時発現の可能性を有しています。本研究では、結晶格子欠陥論に基盤を置く材料科学分野とマルチスケール固体力学分野を融合し、ヘテロナノ構造中の格子欠陥群の発展に起因する内部応力の再分配に基づく新しい理論体系を構築することを目指し、強度と延性、強度と靱性の両立を実現する新しい指導原理を構造材料産業界に提案します。
瀬沼 武秀 岡山大学
大学院自然科学研究科
教授 超微細マルテンサイト相を母相としたヘテロ組織の創成とその特性の解明(相反する複数特性を満足する超高強度鉄鋼部材製造の基礎基盤研究)  ホットスタンピング技術は、自動車の衝突安全性の向上と車体の軽量化を実現する超高強度部材の製造方法として注目されています。本研究では、強度-靭性バランスと強度-耐遅れ破壊性バランスに優れた2000MPa級超強度部材の製造技術を開発するための基盤として、マルテンサイトの超微細化の極限を追求するとともに、ヘテロ組織の最適制御を軸とした組織制御技術を確立します。これにより、この分野の国際競争力の強化に貢献することを目指します。
土山 聡宏 九州大学
大学院工学研究院
准教授 高強度鋼板の塑性変形に伴う軟質分散粒子のヘテロ→ホモ構造変化の有用性評価  自動車の安全性の確保と軽量化による燃費の向上には、高い強度と加工性を兼ね備えた薄鋼板が必要です。本研究では、鉄鋼会社と連携し、鋼の局部延性を損なわずに加工硬化性を高める軟質分散粒子の特徴を利用した新しい高強度鋼板の開発に取り組みます。同時に、その性質を生み出す軟質粒子特有の現象、すなわち「ヘテロ→ホモ構造変化」の挙動を最新の解析手法を用いて解明し、軟質粒子を利用した薄鋼板の組織設計指針の確立を目指します。
藤井 英俊 大阪大学
接合科学研究所
教授 摩擦攪拌現象を用いたインプロセス組織制御によるマクロヘテロ構造体化技術の確立  現在の接合プロセスでは、接合部の機械的特性の低下が常識となっています。本研究では、摩擦攪拌現象を利用した接合中の高度な組織制御により、母材より接合部の、強度、延性、靱性などの機械的特性を向上させる技術を確立します。本手法は、接合界面に限定されるものではなく、特性を向上させたい構造体の任意の場所に適用することができます。産学共創の場を活用しながら、「温度」、「組成」、「加工」のそれぞれを制御可能なマクロヘテロ構造体化技術の構築に取り組みます。
毛利 哲夫 北海道大学
大学院工学研究院
教授 ハミルトニアンからの材料強度設計  材料強度の問題は非線形性や非平衡性が強く、また、局所的な現象が全体の振る舞いを決定するという難しい問題です。本研究では、ミクロスケールにおける電子状態の計算や統計力学の手法に有限要素法を組み合わせたマルチスケール計算により、合金の強度の問題に取り組みます。強度の素因子を明らかにするだけでなく、素因子を自在に合成することで組織-強度の新しい関連を探索し、産業界との連携の下、構造材料の強度設計の新指針を開発します。
柳本 潤 東京大学
生産技術研究所
教授 幅拘束大圧下制御圧延による易成形高強度バイモーダル薄鋼板の製造基盤研究  輸送用機器や産業機器に広く利用されている構造用薄板には、高強度であり塑性加工性にも優れていることが必要です。本研究では、ミクロ結晶粒とサブミクロン結晶粒の混合組織であるバイモーダル結晶組織を、新たなコンセプトに基づく革新的温熱間制御圧延によって創製し、合金元素・レアメタル添加量を最小化した高強度・易成形性の薄鋼板を実現するための基盤研究を行います。また、マグネシウム合金についても研究に取り組みます。

<プログラムオフィサー(PO)総評>

プログラムオフィサー(PO) 加藤 雅治 (東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授)

本技術テーマは、今後数十年~百年にわたって日本の社会基盤を強化し、高い国際競争力を維持しつつ、製造業のさらなる発展を意図するもので、優れた機能を有する革新的な構造用金属材料の開発に関する基礎研究を戦略的な産学連携によって展開し、必要な基盤技術と指導原理を10年間で確立しようとするものです。構造用金属材料として重要な、強度、延性、じん性、加工性、耐環境性などの諸性質の飛躍的な改善、さらには、従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料設計・開発思想を確立することを目的としています。そのために、今までは性能発現の阻害因子と考えられがちであった材料に存在するさまざまなスケールの不均一性(ヘテロ構造、heterogeneity)をむしろ積極的に利用し、「ヘテロ構造制御」による新材料創製と新指導原理の構築を目指します。

本技術テーマの第1回の研究課題公募は、平成22年11月26日から12月20日までの期間で行いました。周知も含めて公募締切までの期間が短かったため、どれだけの応募が集まるかと心配しましたが、ふたを開けてみると80件もの応募があり、この分野の研究者の方々の情熱を感じました。その裏には、本技術テーマのような構造用金属材料を対象とした研究プログラムが、他にほとんどないことが上げられると思っています。構造用金属材料は、日本の発展を支えてきた非常に重要なものですが、縁の下の力持ち的な存在で、日常生活においては、あまり目立たないからかもしれません。今後は、広く、構造用金属材料研究の重要性を社会に認識していただく努力が必要だと感じています。

本年度は、80件の応募の中から9件を採択課題にしました。9倍近い競争率という激戦でした。優れた提案でありながら採択できなかった課題が非常に多くあって、大変つらい思いのする選考でした。

提案は、鉄鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウムなどの各種の金属材料にわたり、内容も、力学特性のみならず、表面改質、耐環境性、接合、加工性、それらに関する実験、理論、計算シミュレーションなど、多岐にわたっています。今回の公募では、中堅・若手からの応募も期待する旨を事前にお伝えしましたが、それを反映して、若手からの提案が多かったのも特徴です。これらの提案に対し、専門分野をカバーできる産および学からなる7名のアドバイザーの協力を得て、書類選考、面接選考を行い、上記のように9件の採択を最終決定しました。

本技術テーマは、産業界の方々から発信されたものです。採択された研究課題については、研究期間を通じて「産学共創の場」というプラットフォームにおいて、産と学が研究内容や研究の方向性に対する意見交換を密接に行い、研究成果を産業界が活用できるようにします。そのため、個々の研究者には、必要に応じて、産からの要請を研究に反映していただくことも視野に入れています。

採択課題は、当初は2年間(平成24年度末まで)の予定で開始していただき、研究終了前に実施される評価の結果、望ましいと判断された課題については、提案時の研究期間を上限にさらに3年(平成27年度末まで)の継続があり得ます。また、この間、新規研究課題の公募も適宜行う予定です。

いよいよ学による研究が開始されます。研究の進展が、日本の国際競争力の維持・強化につながることを強く期待しています。